BBQする

「そう言ってから一週間、僕は完全に逆方向の思考を働かせた。」

「それはつまり、」

「僕自身が、三十路未婚女性(50kg)になりこの家の男女比を1:1に合わせる作戦…」

「括弧はいらない!まだ50オーバーはしてないって言ったでしょ!」


顔面ストレート。早く回避を…待て。三十路未婚女性はこの右腕ストレートにどんな反応をするのか、それに対する考察は今までやったことがない。


「そもそも私がおっさん化する前に今の状況を何とかしろ!」


探索は一歩先進2歩後退。特に成果が出ているわけではないが、一つ道があるとしたら、僕と彼女の関係、僕を訪れた少女の正体だ。僕は少女と出会う前まで、ほぼ忘れているほど、殺人者とのの強烈な記憶を忘れていた。時間はすべてを解決するという言葉の通り、その人殺しは限りなくミステリアスな人物であり、出所してからは正体を表すこともなかった。当たり前。人殺しにできる仕事なんてたかが知れている。遠い海の向こうで、僕は彼女が出所日に静かな祈りを神様に捧げただけだ。


「どうか、藤原さんか早く結婚できますように。」

「墓場にそう書いてあげるからね」

「その前に、悔いのないよう、やるべきことを片付けておこうかな。」

「ついにできたのか」

「そう、準備OKだ。宮脇さん関係者を全員集合させる。」


藤原さんから連絡できた宮脇の知人二人、そして藤原さんの幼馴染、中村の関係者二人が集まる。当たり前だが、その関係者二人は僕と…


 ーーーーー


「え?BBQ?」


おじさんからの電話は、いきなり良いお知らせから始まった


「そう。バーベキューパーティーが決まった。取材で知り合った三人と小さな親睦会をしようと思ってさ、ちょうど別荘を使ういい機会だったし。」

「えー 別荘なんか持ってたんだ」

「アーティストってみんな持っているものだと聞いて…」

「騙されたのよ、あれ」

「ちょうどGWだし、空いてるんだろ?」

「は?空いてなんかないし、色々忙しいし」

「わかったわかった。住所は…」


結論、はよ来いってこと。


「しーらねー」


ぽち。速攻でLINEが飛んでくる。2泊3日で、住所はここで、三日目にはステーキを用意しているってこと


「ま、気になったら最後の日だけでも見に行ってやろうか」


とりあえず、目の前の問題から解決しないと…


「誰の電話?」

「父さん」

「ふーん、仲いいじゃん」

「げ、誰がだよ」

「女の勘てやつ」

「その勘で数学の答えも出てこないかなー」

「それは…」

「それは?」

「お、男の勘でなんとかなるんじゃない?」


こいつ、真面目にやる気1%も持って来なかったのか


ファミレス。イチゴパフェと、抹茶パフェと、雪姫のプリンを贅沢にパフェにしたみましたフルーツプリンパフェを入れていた容器が空になったまま目の前のラウンドテーブルに並んでいる。


「あと、パンケーキと、プリンアラモードと、ミルフィーユください!」

「かしこまりました。」


そういいながら店員さんは空の容器を片付け始めた。この底知れぬ欲求の塊も持ってってください。


「もぐもぐ…そもそもおかしいのよ!ゴールデンウイークはヤ・ス・ミ!合法的に学校をサボっていいと許可された日なんだよ?そんな休日になぜ宿題なんかが出てくるわけ…?」

「仕方ないのよ、『学生の本業は学業、GWに休む分、足りなくなった頭の回転を…』」

「ぷっ、似てる似てる」

「あいつマジ許せないからな」

「なんか専門的にやれる中学校みたいなのがあったらいいのに」

「たぶんあると思うよ、ほら」

「え、マジじゃん…転校を真剣に検討いたします。あ、でも遠すぎ」

「こっちは転校してきたばかりだしな」

「いいじゃんいいじゃん、二回目や三回目なんてハードル低いよ?」

「犯罪者の思考しやがって」

「本当?」

「そう、再犯率の方が高いと誰か言っていたような…」

「救済の余地もなしですねそれは」

「最初のハードルを超えることができる人と、そうではない人がいるんだろうな」

「良いこと思いつきました!宿題をサボって、サボってサボってたら、もう何も怖くないはず!」

「絶対そっちの方が面倒くさくなるでしょ」

「再犯率さん…役立たずだよ」


 ーーーーー


別荘は山の奥、誰も来なさそうな閑地にポツリと置かれていた。


「これが良いんだよな。」

「本当ですか?ただただ人気の出なさそうなスポットに、人気の出なさそうな建物なだけじゃないですか」

「それが、良いんだよ。」


自然の音だけが聞こえる最適の空間、昔著名な画家が芸術だけに専念するために建てたと言われる神秘な空間。僕すらも把握しきれない数の隠し部屋。


「これが持っている価値を考えてみたら、安く買えて本当に良かった。」

「騙されたんですよ…あれ」

「そうかな。」

「絶対誰か死んでますって…」

「人はそういう生き物っしょ。どの地でも人が死んだことない場所って存在しない。」

「人が死んだ建物というのが大事なんです」

「そしたら建物を一回撤去してもう一回誰も死んでいない建物として宣伝したらいいものを。」

「バカ」

「アホ。」

「ま、いいです、とりあえず食材は全部入れておきましょう」

「新鮮な食材、大自然に囲まれた景色、美人が二人…いや三人?知り合いの皆さんてどっちの性別だっけ。」

「二人とも男性です」

「ちっ。惜しかったな。しかし、一人とはいえ美人と楽しむ食事はいつだって美味しいもんさ。」

「え?美人?あら、お世辞でそういうの言われても…」

「違う。僕が呼んだ方の関係者。」

「子供じゃないですか!」

「子供とはいえ、成長したら絶対に美人になる。だから美人の原石。」


そう、中村さんはあいつよりもっと…


「…そういえば、彼女は一体誰だ?」

「貴方が呼んでおいて何も知らないんですか?」

「いや、知っている。確かに覚えているはず、いまパット思いつくものが無いだけで…」

「相変わらずのポンコツっぷり…」

「食材が腐る。早く冷蔵庫冷蔵庫。」

「はいはい」


腹減った…食材ってなんで食べ物じゃないんだろ。生ででも食いたいな。今日は朝早く食材の準備やらで忙しかったから朝も昼も抜いてしまったし…


「ねえ、藤原さん。ちょっとつまみ焼きしようか?」

「なにそれ、つまみ食いの過去形とかなんとかですか?」

「どっちかっていうと、現在進行形。」

「あ!!何しているんですか!」

「お、冷蔵庫に全部入れた?僕のも頼む。」

「既に焼いてるじゃないですか!」


焼かれる肉の美味しい匂い。


「だから言ったじゃん。現在進行形。」


美味しくなり始めた牛肉を指さす。


「ほら、牛肉って鮮度が命だから。」

「くっ、否定できない」

「まだ一人前なんやけど、どうする?」

「焼いてください、二人前」


人は、素直が一番。

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