14日後

あの日、月食の夜から数日がたった。平和が続く日常。たまにどこかへ行き、たまに誰かと話す日常が続いた。まるで嘘のような事実を経験した者のように、その非日常以外のすべては日常と何も変わらない現象が続いていたのだ。既に、考えることをやめる時が来ているのかもしれない。時間の流れにつれ、訳が分からなくなるから。つまり、頭に浮かんだ疑問・ミステリー・謎を処理するだけで精一杯だ。それがふんわりとした形でとどまることはなくて、直ぐに言語化される。いわゆる思考の自動記録。なぜかっていうと、人間の思考は、すべて言葉にはならないものだ。すべてを言葉にしてしまったら、ガリレオのあれのような演出が、常日頃みんなの深層風景になってしまうだろう。日常の他愛のない会話をしているときにも、文字という、形の思考になって流れる。それはとても面白くて、かつ不愉快な現象だ。言葉にしなくてもいいものを言葉にしているから、でもあるけど、何というか。とにかく今はその何というかすら言葉にして、書いておきたい。表現という形をとらせたい。なぜかっていうと、それが今の僕が考えているすべてを証明する道具…根拠になるから。言語化という単語はあまり好きではないけど、ふだんから使われる言語化とは違う…ここでは「言語ライズ」という猟奇な言葉にしちゃおう。memorize…だっけ?とにかくそういう文脈…え、と…コンテキストで表現したい。この気持ちをわかってくれるか?


未来の僕よ。


ーーーーー


(14日後)


2週がたった。しばらくの間、家は留守にしていた。彼女…名前を忘れてしまった。あのクソガキ?言うほどクソガキではないが、いきなり家の前に現れた女の子。その子には連絡を送ってやった。たまに…っていうか、よくある。

その、名前と顔を忘れてしまうことは。だから人を呼ぶ時にはとにかく適当に、名前や呼称を含まない呼び方をしている。


オーブントースターのタイマーが止まる音。できた。そろそろかと思ったより早く出来上がったな。とりあえず見てみよう。


今夜は鳥の足、太もも?みたいなお肉が何本か入っているのを買ったので、それをオーブントースターに入れて調理している。調理とはいえ、ただタイマーを回しているだけだが、これには年月を重ねてきただけのノウハウがある。


まずは、なんか銀のパラパラなやつ…と、銀のパラパラな他のもう一枚。あれをオーブントースターの皿にかぶせて、その上に肉を置く。そしてタイマーを回す。二重で保護しているから、皿が汚れることも、肉が汚れることもない。つまり皿洗いをしなくても済むってことだ。こういう普段からの工夫が、大人…


「あ!!何やってるんですか!」


怒られた。


自身は満足している日常のノウハウが、他の人にはライン越えだった場合が、たまに…たまにとは言えないか。存在する。


「藤原さん、今日の当番は僕ですから、僕のやりたい放題でいいじゃないですか。」

「小細工しないの。料理ってもんはそもそも…」


という、日常が新しく加わって、僕はつまり…彼女との旅が、一時的に義務付けられてしまったってわけだ。一時的とはなんだ。え…つまり、何かの目的を果たすまでってこと。義務的にはなんだ。つまり、その目的を果たすまでは必ずってことだ。我々は、消えてしまった、少女の母親、昔の僕と何回か会っていた中村さんを探しに行くことになった。


「わかりました。そしたら見せてもらいます。藤原さんの流儀を。」

「だからこれで毎回私が作る流れになってしまうものね!」


オーブントースターをもう一回し、焼けていない部分を焼く。肉をひっくり返す。


「10分でいいかな。」

「これ、食べなきゃダメ?」

「もちろんです。食べ物を粗末にしないのが、僕の流儀ですので。」

「既に、粗末に、してるっつーの!!」


僕は、再び怒られた。


ーーーーー

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