第6話

写真を削除しますか? はい / いいえ


「いいえ。」

「はいでしょ!はい!押しなさいー!」

「これは写真界をひっくり返す世紀の大発見です。消すわけには…」


話が終えることもできず、僕の顔は凹んでしまった。彼女のパンチにより。


「もちろん消します。あくまでも冗談ですよ冗談。」

「物理でしか話を聞かないタイプの男だ…」

「安心してください。普段は理性が勝っているのですが、たまに、本当にたまーに欲望に負けてしまうときがあるんです。あっても良くないですか?」

「良くないわ!そもそも今日は全部負けているじゃない!」

「あなたと一緒にいるときにだけです。」

「告白しているつもり?」

「ごめんなさい。責任取れないので。」

「勝手に告白されて勝手に振られた!」


その瞬間、熊の咆哮が聞こえる。


「ななな、なに!?」

「すみません。僕のです。もしもし。」

「着信音が熊!?てかでかすぎるっしょ!」

「はい、はい。わかりました。良かったです。」


電話を切る。朗報だ。


「良い知らせと悪い知らせがあるのですが、どっちからお聞きになさいますか?」

「なによいきなり、嬉しそうな顔して」

「良い知らせは、僕の写真が雑誌に掲載されることになって…」

「それって、私と何の関係があるの?」

「はい、モザイクなしで載せることができるらしくて、パンツを。」

「悪い知らせじゃないか!」


顔面が凹んだ。


「ごめんなさい。噓でした。」

「流石にそうだよね!」

「はい、本当はモザイクがかかるらしくて…」

「え?そっち?」

「はい、残念ですね。」

「でも、さっき削除したって…」

「撮りたてほやほやで送るのが礼儀じゃないですか。」

「送信済みってこと?」

「はい。噓ですが。」


顔面が凹んだ。


「流石にそうだよね!」

「しかし、まったく関係ない話でもないです。」

「聞く前に殴ってもいいよね?」

「心の準備に使えるのであれば。」

「…流石にやめとくわ、人を殴る趣味なんてお持ちではないのよ。」

「良かったです。そしたら、本当の朗報はこれからになりますが、心の準備はよろしいでしょうか。」

「何いきなりかしこまって」

「今日、月食が見れる日らしいです。」

「え、本当?凄いじゃない」

「はい。O山で見る月食の風景はなかなかのものになるでしょう。きっと。」

「それって、月が消えて真っ暗になるの?」

「僕もそう思ってました。昔は。」

「実際は違うんだ」

「はい、食われて、真っ暗になる前に、月が赤くなります。」

「まじ?月を地球が食う現象だから月食じゃなかったけ」

「レイリー散乱による現象ですが、光の散乱は…」

「短く」

「赤い光が一番長いからです。」

「ふーん、そうなんだ」

「真っ暗になる場合もあったかな。あまり詳しくないですが。」

「それで?悪い知らせは?」

「傘、持ってます?」

「あ…そっちか」

「ここに一人用の傘があるので、密着すればぎり耐えです。」

「もう一つ方法があるけど、悪い知らせなの」

「聞かせていただきます。」


その瞬間、顔面が凹んだ。意識、意識が…

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