第3話

「ここに住むの!」

「駄目。」

「住むの!」

「無理。」

「やだやだやだー」

「帰れ。」


年頃の女の子には、色々言いたくない事情がたくさんあったようで、なかなか退去を認めない様子だった。玄関前でこのやり取りを始めてやや5分、近所迷惑だこのやろ。


「帰りません!そもそも帰るところもないし」


…親子喧嘩だ。家庭の複雑な事情が絡まってくる一番面倒くさいパターンだ。逃げなきゃ。


「あ!おじさんどこに行くの!ここがおじさんのお家なんですが!ここがおじさんの帰るところですが!」


侵入を許した瞬間即負けのデスゲームだ。むしろデスゲームより質が悪い。命と名誉両方を奪われて人生最大おしまいになりたくはないね。お巡りさんに渡してさっさと片付けよう。


「逃がすもんかああ!」


ん?速くない?


「助けを求めているか弱い乙女を見殺しにしてはあかんとおかんに教わってないのかあああ!」

「今のスピード出しているところで既にか弱いとか乙女とかの範疇から離れているんだよ!」


いや、違う。僕が遅すぎるだけだ。老化した足で青春に勝てるはずがなかっただけの話で、、それよりあいつ全然スピードが落ちない。ぶつかるかもしれない。このままじゃぶつかってしまうぞ、流石にぶつかる距離だ。ぶつかる気か?ぶつかりに来ているのか?


「受けろ!必殺ファイナルタックル!」

「お前そこまでやる気か!」

「問答無用!死ねえええ!」


これで、僕は短い人生を終えた。短くはないか?いや、20代からは苦労ばかりだったし老後とか人生120年時代とかまだまだこれからたくさん残っているはずだから…


「死んでる?おじさん死んだ?」

「死ねるか!」

「あ、息があるな。とどめをささんと。」

「いや。死んでます。」

「もう一発!」

「アーメン。」


余命残り1秒の瞬間、僕と、僕に乗っかっている少女を映す一筋の光。悲劇の主人公、括弧僕括弧閉じ、に当てるスポットライト、走馬灯に引き込まれるような光が…


「お巡りさん?」

「すみません、犯罪の匂いがするんですけど…」


そうだ!正に犯罪の塊、この不良少女がここで俺に加えた暴力と殺人未遂の罪を…あれ、なぜ僕が変な目で見られている?


「ちょっといいですがね。お二人様はどのような関係…」


なるほど、40代独身男性の上に、女の子が乗っているこの場面、非常に危ないぞ。超面倒くさい。そして僕は、そしてこいつは、この面倒くさい場面から逃れる唯一の手段を知っている。


「娘です!」「お父さんです!」

「さぁさぁさぁ、早くお家に帰りましょう。お父様。」

「おぅおぅおぅ、早く家で休むことにしよう。娘よ。」


カチャ


こうやって、僕たちの同居生活が、始まってしまった。

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