海の夜明けから真昼まで ⑧
翌日。海は大しけ。
入り江の上。断崖絶壁で荒れ狂った海を見下ろしながら、短い人生だったが、わるくなかったと思った。辛いことの方が多かったが、この半年間は
お別れは辛いけど、
「なにやってんだ!」
片足を脱ぎかけた瞬間、
絶壁の淵で振り返り、
「神様に直談判するの。
「おい……それって死ぬってことだぞ」
私はここから飛び降りて、天使になろうとしていた。そして、神様に
「私は、アイに助けられてばかり。だから、今度は私が――」
「そんなの許すはずがないだろ」
「アイの許しなんて、必要ない。これは自分で決めたことだから」
「やめろ!」
「ロ、ロープ⁉」
「万が一に備えて、アイ用のトラップを用意していたの。こんなにあっさり引っかかるとは思っていなかったけど」
「クッソ‼」
「
「瑠海‼」
最後に、私の名前を
だが、体の浮遊感がなくなると同時に、片手を誰かに掴まれた。見上げると、浦風くんが私の手を握って、落ちないように食い止めている。
「クッ……も、もう……」
だが、彼の細腕では数秒しか持たず、一緒に崖下へ転落した。
『きゃあぁぁぁぁぁ……』
落下の最中、大きな羽根のシルエットが見えた。
「……ア、アイ」
―パチン‼—
唖然と
「アイさん!」
「瑠海、おまえ。自分がなにをしたのかわかってるのか‼あと少しで、浦風くんまで巻き込むところだったんだぞ‼それに、瑠海が病院にいないことを知らせたのは、浦風くんだ‼こいつがいなかったら、俺はなにも知らず、おまえは死んでいた‼」
「だって、だって。アイが……お兄さんが消えると思ったら、私、私……」
目に涙が浮かぶ。海の水のように塩辛くて、心の痛みに沁みる。
「瑠海。もう、いいんだ。妹の自由を奪った俺なのに、こんなにも想われて充分幸せだった。だから、もうバカなことはするな」
いつもなら、私が言うような台詞なのに。これじゃあ、立場が逆転だ。
「う、うん。もうこんなことしないか……側にいてよ。藍波お兄ちゃん……」
このまま、
「それは、不可能だ」
『‼』
天から声がした。雲の間に亀裂が入り、光が降り注ぐ。
「……神様」
どうやらこの声は、天国の神様の声。
「藍波よ。おまえはルールを犯したが、本日天使としての役目を果たした。おまえを想う妹に免じて、特別に転生を許す」
「……役目って?」
神様が言う役目がなんなのか、
「天使の役目は、死ぬべきでない人間を百人救うこと。さっき瑠海たちを助けて、百人分の命を救ったから……」
つまり、
「これは、特例だ。早く天国にて、転生の儀式を行う。早く、天に戻れ」
「わかっているよ。神様」
ここでいま、私がなにをしても結果は変わらない。
「瑠海」
名前を呼ばれ、
「入り江で瑠海と再会したとき、赤ちゃんだったおまえがこんな素敵なレディになっていて、驚いた。フルートの腕も俺と張り合えるくらい。瑠海は、俺と自分を比較しているけど、瑠海のフルートには俺が持ってない洗練された音がある。瑠海のフルートならきっと、ロック界でも通用するよ」
「いまだから言うけど、俺は親父のこと嫌いだったんだ。いつも家にいないのに、外では有名音楽家としてチヤホヤされる親父が。だから、あいつのまえではいい子のフリしてた。そうすれば、必要以上に関わらなくて済んだから」
父が言った人物像と、
「お袋は普通だったけど、俺が瑠海の立場だったら。親父もお袋も嫌ってた。でも、瑠海は俺と違って、どんな親を大切にする優しい子だ。二人にとって瑠海は間違いなく自慢の娘だよ。お袋は、いまちょっと疲れているだけだ」
家族のことで煩慮する私の苦しみを少しでも減らそうと、両親にとって私がどれほど大事な存在なのか伝えてくれた。
「浦風くん。さんざん、迷惑をかけたけど、きみになら瑠海を任せられる。きみはこの会話も忘れるだろうけど、瑠海をお願い」
「はい。強い男になります」
よくわからない会話を浦風くんとする。
「瑠海、今度こそさようなら。おまえは俺みたいに早死になんてするなよ。ちゃんと寿命で死んで、天使にもならず、直様転生しろ」
なんだか、辛気臭い雰囲気だったのに、最後の最後にカランと笑う
荒れていた海も、
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