《出会いに感謝して》
風呂上がり、何気なく触っていたスマートフォンに通知が入る。
日本で最多シェアを誇るメッセージアプリ《ᒪINK》の通知だった。
確認すれば、差出人は桂いろは。
今日出会ったプライマリーの一員、詩音の同期となる少年だった。
メッセージが送られてきたのはプライマリーのグループチャット。
どうやら何か相談事があるようだ。
『実は、帰ってすぐにデモを作ったんだ。
プライマリーをイメージした曲の。
デビューする時、一緒に出さない?
皆で歌って』
同時に送られてきた音声ファイル。
直ぐさま再生すると、アップテンポなサウンドが鼓膜を揺らした。
『いいね! やりたい!』
詩音が聞き終わるまでに愛歌が返信していた。
同意を示すと、いろはからまたメッセージが送信される。
『良かった!
片桐さんたちには曲ができてから言う。
三日あれば作れそう』
新曲を三日で作るとは、どんなペースで作業しているんだ。
最年少の彼を不思議に思いながら、詩音は心を踊らせた。
どんな曲になるのだろうと。
数分間を置いて、またメッセージの通知が来る。
今度はいろはから詩音に個人チャットで送られてきたようだった。
『詩音にお願いがある。
今まで俺が作ってきた曲、全部歌ってみてほしい』
急な要求に、詩音は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
どうして自分に頼むのだろう。
それを伝えれば、即座に返信が来る。
『歌が得意って言ってたから』
たったそれだけの理由で?
本当に自分でいいのか、念を推した。
『詩音がいい。
詩音は俺の歌、歌いたくない?』
そんなわけがなかった。
彼の音楽は、詩音の心を鷲掴みにしたのだ。
歌詞もない、ただのサウンドだけで。
それを歌いたくない、なんて思うはずがなかった。
是非やらせてほしい。
そう返せば、直ぐに七曲のファイルが送信されてくる。
『歌、撮り終わったらミックスするから頂戴。
完成したら愛歌に踊ってもらおう』
それは妙案だ。
それにしても、いろははとても多才らしい。
最年少だとは思えないほどだ。
「何にやにやしてんの?」
「ん……ふふ、何でもない」
「気になるじゃない、教えてよ」
「まだ駄目」
彩と他愛もないやり取りをする。
彩は詩音がVライバーになることを知っている。
初配信も絶対見ると言質を取った。
だから、それまでのお楽しみにしたかったのだ。
ああ、二人に出会えて本当に良かった。
人生がこんなにも楽しい。
巡り合わせてくれた彩にも、感謝しなければ。
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