《面接試験(笑)》

「ええ、応募者の皆様こんにちは。

 株式会社コスモスの代表取締役を務めさせていただいている、菊楽きくらく琴羽ことはと申します」



 詩音たちが席に付くと、年若い青年が自己紹介をする。

 詩音より三つか四つ年上ほどの男だ。

 その他にもバーチャルタレント部門総括だという男性が一人、イラストレーターとマネージャーだという女性がそれぞれ一人ずつ。

 マネージャーの女性は三人を案内した者であった。



「そうですね……藤咲さんから順にお名前と年齢、志望理由を話していただいてもよろしいですか?」



 面接官が名乗り終われば、菊楽は詩音にそう促した。

 軽く深呼吸をして、詩音は話し始める。



「藤咲詩音、大学一年生の十八歳です。

 志望理由は……応募サイトにあった一文に惹かれ、興味を持ったからです」

「そうですか、では次に桜庭さん。お願いします」



 ほっと胸を撫で下ろす。特に悪い部分はなかったはずだ。

 次に話す隣の少女に、詩音は視線をちらりと向けた。



「はい、桜庭愛歌です!

 高校二年生になりました。十六歳です!

 志望理由は藤咲さんと同じで、街で見た広告の言葉がいいなあって思ったからです!」

「元気でいいですね。最後に桂さん」

「桂いろはと申します。

 十五歳、高校一年生です。

 志望理由は皆さんと同じく、キャッチコピーを素晴らしいと感じたからです」

「ありがとうございます」



 やはり、皆年下だ。

 年下に励まされた自分の不甲斐なさに顔が熱くなるが、必死に堪える。


 菊楽は視線を手元の書類に落としながら、話を続けた。



「本題に入ります。

 皆様は我らが運営するバーチャルタレント事務所、アステリズムの最初のタレントとして活動していただくことになります。

 これは決定事項ですね。

 ぶっちゃけますと、皆様以外に応募者はいませんのでもう採用決まってるんですよ。

 面接とかもう要りません。

 デビューは一ヶ月後、ゴールデンウィーク後半の五月五日からになります」



 三人は耳を疑った。

 何を言っているんだ、この御仁はと。



「いやまあ、不思議に思うのも無理はありません。

 普通ではありえないことですから。

 順を追って説明致します」



 菊楽が語ったのは、以下の通りだ。


 一月一日から三月三十一日までの約三ヶ月の募集期間中、応募した者は詩音、愛歌、いろはの三人のみ。

 三十一日に滑り込みで申し込んだ詩音が居なければ、二人だけだったのだ。

 あんな怪しげなサイトに三人も応募したと考えれば十分かもしれない。


 そうして書類選考はすぐ終わり、問題もないということで三人のデビューが決まった。

 今回の面接は人柄を見ることと、アバターとなるキャラクターの打ち合わせも兼ねているらしい。

 そのためにイラストレーターも呼んでいたのだ。



「ご理解いただけましたか?」

「……理解はできたのですが……可能なのですか?

 その、配信機材とか……」



 詩音は事前に調べていた中で、自身に不足しているものがあることを知っていた。

 パソコンはともかく、マイクやフェイストラッキング機材などは持っていない。



「ああ、そこは気にしないでください。

 マイクやら何やら買うお代は経費から出しますし、トラッキングはうちの技術でどうにかなります。

 片桐かたぎりさん、あれをお願いします」



 片桐と呼ばれた女性は三人のマネージャーを務める女性だ。

 彼女は一人一人にスマートフォンを手渡す。



「それは皆さん専用の仕事用スマートフォンになります。

 SNSや仕事のやり取りなどは、それでしていただきます。

 で、見慣れないアプリが一つ入っていますよね? 起動てください」



 指示のとおり、詩音は星座を模ったアイコンをタップした。

 cosmos、asterismと表示され、何かの選択画面へ移り変わる。



「そこにテストモデルのぎんがくん……蛸だか烏賊だか蝙蝠だかよく分からない生物がいますよね。

 それを選択して右下の青いマークを押してください」



 同じ指示通り動く。

 そうすると画面が拡大し、ぎんがくんと呼ばれた謎の生物が画面一杯に映し出された。

 それは詩音の合わせて動くようで、詩音が右を向けば左を、左を向けば右を向く。



「できたみたいですね。それが我が社が誇る技術になります。

 どうです、面白いでしょう?」



 中々高度な技術だ。

 認識されていれば反映されるシステム。

 スマートフォンでできるものとして破格の性能だった。



「藤咲さんの疑問が解消されたところで、他に質問がある人はいますか?

 ……いないようですね。

 では次に皆様にはユニット名とライバー名を決めてもらいます」

「ユニット名、ですか?」



 いろはがオウム返しに質問する。

 アバター名はともかく、チーム名ということは三人はユニットとして活動するということだ。



「はい、ユニット名です。

 皆さんには三人一ユニットとして活動してもらいます。

 その方が色々都合がいいんですよ」



 ユニット名、ユニット名か。

 詩音は頭を悩ませた。

 随分話したとはいえ、三人は今日が初対面なのだ。

 互いのことをそれほど分かっているわけでもない。


 そんな中で決めろ、なんて難しいというのは菊楽も分かっているはずだった。



「皆様の言いたいことも分かります。

 しかしながら、私はそこまで難しいことだとは考えておりません。

 片桐に聞きましたが、会って数分で談笑していたことは事実でしょう?」



 菊楽の言う通り、三人は初対面だというのに打ち解けるのが異様に早かった。

 愛歌のコミュニケーション能力の賜物かもしれないが、それ以上に互いに何かを感じていたのだ。


 

「ここでは話し辛いでしょう。一度控え室へどうぞ。

 決まったらこの紙に書いてから、呼びに来てください」

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