第4話  異国の中の日本。

 今はどうなのか知らないが、当時、ジャパンクラブという施設があった。中に入ると、全てが日本文化。畳、日本食、そして書物、僕達の楽しみは日本の漫画だった。今にして思えば、漫画喫茶に似ている。親には大人の楽しみ方があったようだが、僕達子供には子供の楽しみ方があった。僕は、日本の漫画を読めることが嬉しかった。



 その頃(40年くらい前)、いろいろな噂が流れていた。日本人の観光客が、行方不明になる事件が多発しているというものだった。消えるのは、主に女性。民族衣装の店で、試着室に入ると消えるのだという。“壁がどんでん返しになっている”、“床が抜ける”、いろいろな噂が流れていた。


 何故、日本人が狙われるかというと、日本人は怖くて悲鳴を上げずに震えるので扱いやすいからだと聞いた。僕も、誘拐されかけた時、なかなか声が出なかったので、悲鳴を上げることが出来ないというのは理解出来た。かわいそうだと思ったのは、新婚旅行で、花嫁が消えるケースだった。



 だが、僕達の日常生活に、そこまでの大きな事件は起こらなかった。異国で日本人が狙われているとしても、その異国に自分達がいるとしても、僕達は日本の漫画を読むのに一生懸命だった。そんなものだ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る