20 海で二人暮らし
日が空に昇って早々、さっさと暑くなりやがった。
食事をした後、俺は倒れるように爆睡した。波に揉まれ、食料確保のために何度も潜水をした。一睡もしてなかったんだ。無理もない。気がつけば、空は赤く染まろうとしていた。
とりあえず睡眠は取れたが、そう簡単に疲労がなくなることはない。目が覚めてからというもの、異様なだるさが襲ってきた。風邪とかじゃないが、俺もかなりの体力を消耗していると思う。
まあ折谷よりはマシだ。高熱と大量の顔の汗。また体調が悪化したみたいだ。
この環境じゃ、戻る体調も戻らねえ。でも、やれることは限られている。
再び俺は海という名の食糧庫へ潜った。空気タンクは使わない。いつまでこんな暮らしをするのかわからないんだ。まったく食料を手に入れられない日もあるだろう。極力自分の体力で、無理なく二人分の食事を確保する。最悪、折谷の分だけでも確保しないと。
本当はいけないことだが、ホタテ、ウニが獲れた。やはりビタミンも不可欠だと思い、海藻も運べるだけ運んだ。
問題は調理法だった。残念ながら、家庭的スキルは皆無に等しい。ホタテは素焼き。海藻は海水を温めて軽く湯がくだけ。なんというか、切なくなるほど
本当は食欲もないだろうが、折谷は頑張って食べようとしていた。気力で生きようとしている。
折谷の姿を見ていると、不思議と身体の奥底から力が湧いてくる。俺たちなら、絶対に助かる。バカらしいと思うか? 俺もそう思う。根拠なんてない。いつ助けが来るかもわからない。でも俺は、初めて俺に笑ってくれた折谷の願いに、
何もない狭い
島のみんなが捜索しているはずだ。だとしたら、近くを通った船に伝わるよう目印があった方がいいに決まっている。
気休めだが、出入り口付近に太い木を立てた。先端に俺の水着を干して。つまり、俺は今ノーパンだ。
しょうがないだろ。これしか思いつかなかったのだ。
だが勘違いしないでほしい。女の子が病気で寝込んでいる時に素っ裸でうろついた日には、島に帰れたとしても死んだも同然ということくらい理解している。
俺たちは時間があれば寝るようにした。折谷の額にはワカメが乗せられている。フザけているわけじゃない。ワカメを何重にも重ねてタオルにしたのだ。少しでも熱が下がればと、試行錯誤した結果だ。
そうして、丸二日が経った。
折谷は歩き回れるくらい回復した。早速海水に入ろうとしたが、まだ安静にしておいた方がいい。朝飯と昼の分は俺が獲ってくるから、夕飯の分を頼むと折谷を制した。
折谷が食料を獲りに行くとしても、俺も同行するべきだろう。また溺られちゃ困るしな。そうからかったら、バツが悪そうに黙り込んでしまった。何か反論してくると踏んでいたのだが、ガチでへこまれてしまった。触れるべきではなかったようだ。
俺は強引に話を切り替え、昨日獲っておいた魚や貝などが入った網袋を見張っているよう頼んだ。
さすがに水槽の代わりになるような物は見つけられず、やむを得ず海美活動で使っていた網袋に魚や貝などを入れ、海水に浸けていた。網袋の紐を太い木にくくりつけ、落ちないように石で止めている。
魚も暴れるし、量が増えれば重くなる。何かの拍子に袋が開いてしまえば、せっかく獲った食材を逃がしてしまう。それに火をつけてもらう必要もある。火をつけてもらえれば、すぐに食事にありつける。
今日は飲み水つきだ。昨日の夜に降った雨はまさに神の恵みだった。
Φ Φ Φ Φ
今日も素潜りで漁を行う。何度かやっているうちに慣れてきて、魚を獲るのもそう手こずらなかった。
昨日より長く潜ることもできるようになった。流れ着いてきたビニール袋を手に、あと一匹くらい獲ったら上がろうとした時だった。
なんだ?
俺は深い海の下にある一点に視線を留めた。海の中では、あきらかに異質だった。だがどこかで見たことがあるような気がした。蓄積された記憶から
見間違いじゃないかと疑ったが、どこからどう見てもそれと呼ぶ以外に思いつかなかった。
俺は興奮に突き動かされるままに一気に海面へ向かった。
トビウオのように海面へ顔を出した。瞬間、なまったるい空気が肺まで入ってきた。
少し焦りすぎた。息を吸ったと同時に、海水が喉へ染みた。
咳き込みながら岸へ手をかける。
「大丈夫?」
石を持った折谷が心配そうに投げかけた。
「……あ、ああ、問題ねえ。大丈夫……」
俺は息を整え、夏の熱気にも勝る熱量をもって声を上げた。
「折谷!」
「な、なに?」
折谷は困惑しながら俺を見据える。
「見つけた!」
「……は?」
「俺、見つけちまった!」
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