Ⅳ章――二人きりの海
17 遭難
覚えとけよ……。絶叫マシーンでもあんな回転しねえぞ‼
俺はクタクタになりながら海から出ている岩場に体を上げた。息をしていることが不思議でたまらなかった。どうにか残った力で折谷を持ち上げ、地面に寝かせた。
すぐに折谷の状態を確認する。
意識はなかったが、脈はある。ただ……この冷たさ。ふんだんに氷が入った冷水にでも浸かっていたみたいに、折谷の肌から温度を感じなかった。
視界がゆっくりぼやけていく。ピントが合わなくなるような目の前に、体が馴染もうとしている。それがどんな状態にあるか。うまい単語は出てきやしないが、ヤバいことだけはわかる。
ブラウン管のテレビに喝を入れるように、映りが悪い頭に拳をぶつけた。
「……!」
重い一撃。こめかみから注入された鈍い痛みを噛みしめ、しっかり目を見開いた。
この痛みは、バカなことを考えた俺を正気にしてくれたようだ。そうならないために、なんでもやってみるしかない。
岩場はぐるっと海に囲まれた孤島同然。ここがどこかすらわからない。早く助けに来てほしいが、それがいつになるか……。
俺の荷物は捨ててしまった。あるのは折谷の分だけ。それもすべて、ダイビングに必要な器材や物品。とりあえず、器材を取りつけられるジャケットを折谷にかける。フィンを外し、折谷の後頭部に手を入れ、フィンを差し込んだ。他には、何か、何かないのか!
苦しげな表情で眠る折谷を見下ろし、胸が締めつけられる。
ここで助けるんだ。今助けられるのは、俺しかいない。
考えろ。折谷の体温を上げる方法を……!
俺は裸足のまま、薄暗い岩場をふらつきながら探し回る。
どこからか流れ着いた流木やペットボトルが海面に浮かんでいる。俺たちが流れ着いた岩場は、大きな岩の中央に隙間があった。風雨と波とで、長い時間をかけて隙間ができたようだ。
海水に浸からない地面では、大小様々な石ころが転がっている。裸足で歩くにはお世辞にもふさわしいとは言えなかった。しかしなぜか濡れている。いや、今もだ。
この岩場は二つの大きな岩によって構成されていた。おそらくだが、元々一つの岩だったのだろう。
脆い箇所から少しずつ削られた大きな岩は、小さな洞窟を作った。上部にも崩壊の兆しがあり、一本の細い隙間から空が見えている。小粒の雨が海面を打ち、波紋を立てるも、海からやってきた波がかき消していく。
奥の方は出入り口よりも頑丈そうだ。ここの方が安全かもしれない。後で移動するとして、何かないのか?
俺は四つん這いになって目を凝らす。
触れてみると、ほとんど小石だったが、それに混じって何かある。拾って目の前に持っていく。輪郭と質感からして、木の枝だろう。使えるか?
次にその辺に転がっている適当な石を二つ拾い、ぶつけ合わせる。一回、二回、三回……。暗がりに火の粉が散った。
火種は手に入れたけど、もっと燃えやすいものじゃないと無理だ。
かすかな望みを頼りに、目を皿にして探し回った。
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