第2章 ヨルド共和国

『ユリエッティ英雄譚を紐解く』2


 かくして、王国を脅かす悪を誅したユリエッティ。


 ひとまずの平穏を齎した彼女は、けれどもまだ、表立って英雄と呼ばれることはなかった。だがそれでも確かに、少しずつ、その功績は市井へと浸透していく。王都市中にて同性情交を説き広めたのち、ユリエッティが次に向かったのは隣国、ヨルド共和国であった。

 当時はまだ生まれ得ないとされていた遠縁の種の混合、四つ耳のムーナに乞われ同行したかの国は、数多の種族が寄り集う自由と共和の地。だが、そんな場所にも不条理は確かに存在する。それを義憤と拳で粉砕し、苦しみ喘ぐ女性がいるのなら、愛と指先で慈しむ。

 追放されようとも、どこへ行こうとも、貴族たらしく在れなくとも、ユリエッティのその本質は揺るがない。なればこそ隣国ヨルド、かつては“途絶えの森”とすら呼ばれた禁足地での一幕はまさしく、起こるべくして起きたのだろう。のちの救国救世の大功労と比べれば小さなものかもしれないが──しかし確かにユリエッティは一人の女性と、そして人類種の可能性を救ったのだ。



──ヒルマニア王国指定名著『ユリエッティ英雄譚を紐解く』より




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