第16話 どっぷり
指先を覚え込まされるのに一晩。
次に
片手の指で数えられる程度の回数を重ねるうちに、夜の彼女の香りで火照るよう条件づけされた。
非常にマズい。
そう後悔したときにはもうすでに、ムーナはユリエッティによる性欲処理にどっぷりとはまり込んでいた。
「──こらムーナさん、暴れてはいけませんわ」
「ちょ、ぁっ、バカっ、んぁっ……ふ、服っ……!」
ユリエッティが単独で一泊二日の討伐依頼を終え帰ってきた、その日の夜。ユリエッティの部屋。ムーナはベッドの上に座らされ、後ろから抱きすくめられていた。
質素なシャツとズボンに頑なに取ろうとしない耳当て帽という、部屋にいる時のいつもの服装。何も脱いでいないその格好のまま、ヘソの辺りから下着の中へ右手を入れられ、なにやら
「最初にムーナさんがおっしゃったのではありませんの。脱ぎたくないって」
「全部は、っ、脱がないってぇ、ぁんっ、っ、話でしょうが……!」
「あら、そうでしたかしら?」
意地悪な声に耳をくすぐられるだけで、ムーナの脳裏にはユリエッティの嗜虐的な笑みが思い浮かぶ。例えば二回目の夜に、あれよあれよとズボンと下着を脱がされ、火照った長舌で局部にあんなことやこんなことをされてひぃひぃ啼かされた夜に、彼女が浮かべていた笑みが。気づけば自らたくし上げていたシャツの裾を握りしめすぎて、ひどい皺になっていたことも。
自分の股ぐらからは布地二枚越しにもよく聞こえるほどの水音がしており、それでいて何をされているのかムーナの目には全く見えない。ただ見下ろすズボンの中でユリエッティの指が蠢いていて、そして腰がかくかく震えるくらいに気持ちが良い。
「パンツ……ズボンも、ぅっ、よご、れるからぁ、ぁっ……!」
「まあまあ、良いではありませんか。後始末は全てわたくしがしますから」
感覚は鋭敏で、指先一つ一つの動き──それらによって与えられる快感の全てが脳みそにまで届くというのに、
「だから安心して、ムーナさんは性欲を発散すれば良いのですわ」
「まっ……まってホントに、ぅあっ、なんか、ぁ……来るっていうかっ出るっていうか……ァ゛っ、アンタなら、んぅぅっ……! 分かるでしょっっ!?」
ドロドロに蕩け落ちそうな声音をなんとか強く保って、抗議の意を示すムーナだが……彼女の両腕はベッドの上に投げ出され、ときおり跳ねながらシーツを握りしめるばかりであり。それを知っていてユリエッティは、ムーナの制止を無視して囁く。右手の動きが早まり、水音はよりねちっこく変わっていく。
「ええ、ええ。それもまた一興」
「一興じゃねぇんだよマジでよ、ぉ゛っ……あっあっバカっ……! バカバカばかぁ゛っあっ、もっ、────う゛っ♡」
やがてムーナの背と足が反り、金色の瞳が天井を仰いだ。耳がびーん♡ っと尖り、濁った喘ぎが口から漏れる。
「ふふ、まずは一回……♡」
ユリエッティはその重さと、自分の手に勢いよく当たる温い液体の感触に、ますます笑みを深めた。
◆ ◆ ◆
「──どうかされましたか、ムーナ様?」
ギルドの受付テーブルにて。
C級相当の討伐依頼を一人で受けようとしていたムーナは、しかしディネトとの話し合いの最中、気づけばぼーっと意識を散逸させていた。顔も目も耳もディネトから逸れ、幾人かの冒険者たちがたむろするテーブルスペースの一角に向けられている。
「……どうって、なにが」
僅かにとろりと緩んだ視線の先には、先輩冒険者たち(ランクで言えばムーナらよりも下なのだが)から熱心に情報を集めているユリエッティの姿があった。何でも、先ほど一人で受領したD級程度の依頼の下準備らしい。いつぞやの精力剤の原料とはまた別の薬草の採取だったか。このところユリエッティは、高難度依頼の合間に暇を見つけては、このようなランクが低くかつやりたがる者の少ない依頼も受けるようになっていた。
本人は「生活にもだいぶ余裕ができてきましたし、ちょっとした人助け感覚ですわ」などと、ムーナにはとんと理解の及ばないことを言っていたが……とにかく、そうやってギルド内を歩き回るユリエッティを、ここ最近ムーナが目で追ってしまいがちなことに、当然ディネトも気づいており。
「いえ、まるで恋する乙女のような顔をしておりましたので」
「はっ、ハァッ!? 誰が……!」
淡々ととんでもないことを言われ、ムーナの目尻と耳がピンと尖る。
「ムーナ様が」
「誰にっ!?」
「ユリエッティ様に」
「ハアァァッ!?!?」
「ムーナ様、少し声が大きいかと」
「っ……!」
幾人かが何事かと振り向き、ヒリついたムーナにしっしっと手を振られてまた視線を戻す。それで注目はすぐに収まったが……ムーナのつり上がった視線と頬の赤みはそう簡単には戻らない。
「……抱かれたのだろうとは想像がつきますが」
「だっ……!」
なんてことの無いようにディネトが続けるものだから、なおさら。
「違うのですか?」
「ち、ぅっ、ぐっ……!」
こういうのは普通そんな開けっぴろげに言うもんじゃないだろうと、ムーナは口をもごもごとさせ、そのたびに変な呻きが漏れ出ていく。ディネトのほうはあまりにも平然としているのがまた、悔しさを加速させていた。
断じて、断じて恋する乙女のような顔などしてはいないが。しかしヤったかヤってないかで言えばヤりまくりの抱かれまくりなのだから、ディネトの言葉全てを否定することもできない。事実としてユリエッティの手技口淫の虜になってしまっているのは、ムーナ自身も怖いくらいに分かっている。
アイツの言っていたことを身を以って体感した。アイツに抱かれた女は、アイツとのセックスを好きになるか、アイツを好きになるか、女を好きになるか。あんな快楽を与えられてしまっては、そりゃあ、アイツとのセックスにドハマりしてしまうのも仕方がない。
血が上った頭でそう考え、ようやくムーナは、変わらず冷めた視線を向けてくるディネトに言葉を返す。
「……あ、あくまで性欲処理に利用してるだけだからっ……!」
「セックスフレンド、と」
「まぁ、そう、そんな感じ……ってかなんでそんなグイグイ聞いてくんだよ……なんでヤったって分かんだよ……」
「私以外にも気付いた方はいらっしゃると思いますが。例えば、ムーナ様と
「!? なっ……あっ、だからか……!」
ユリエッティのセフレ共からの視線が最近妙に生暖かいと思ったら、そういうことか。納得し、同時にさらなる羞恥に見舞われたムーナはもう、当初の目的──討伐依頼の相談など到底果たせる状態になく。
「………………今日は帰るっ……!」
「おや、ではこちらの依頼は──」
「キープっ」
「かしこまりました。明日中までは私の方で預かっておりますので」
「ありがとよっ……!」
肩を怒らせ、ついでに耳もイカらせながら、ムーナは足早に受付を離れていった。テーブルスペースの脇を抜けてそのままギルドから出ようと……したところで、ユリエッティが一瞬だけ、さり気なく視線を向けてきたのに気づいたのは、ムーナもまた彼女のことを見ていたから。
「〜〜っ……!」
その流し目に夜の一幕を思い出し、ますます頬を赤らめながら、ムーナはギルドを後にした。
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