《エキセントリックガールなシスターと》
鏡に映るパツキン男。
我ながら容姿はとても良いと思う。
目が変な色なのは置いといて、顔はハチャメチャに良い。
妹が好きそうな顔だ。
茨だった頃の顔と比べれば顔面偏差値が天と地ほど違う。
こんな顔だったら、滅茶苦茶モテたんだろうなあ。
乙女ゲーあるあるというか創作物あるあるだと思うのだが、何故こんなにも制服がごちゃごちゃして面倒臭いのだろう。
よく分からんボタンと布、デザイン。
現実と被ると色々拙いからという話も聞くが、実際着る立場になれば面倒臭いという感想しか浮かばない。
コスプレイヤーって凄い。
今日はゲームの舞台である《フラウ王国立魔法学園》の入学式。
魔法師になるべく全国から人が集まり、切磋琢磨していく。
中身がアラフォーのおじさんにとって、若い子たちと学ぶことに心配はある。
しかし、今まででも大丈夫だったのだからこれからも大丈夫のはずだ。
根拠のない自信を胸に、寮の扉を開けた。
「……何してるんですか、姉上?」
「勿論弟を迎えに来た」
はいそうですかと有無を言わさずに納得させようとしてくるこの少女、サクラ・ブルーム=ブロッサムは俺の姉であり、ブロッサム公爵家の嫡子だ。
元のフラエン自体、女性領主がいる世界観だったため、性転換しているとしても俺が領主となることはなかった。
寧ろ、俺が領主となってしまえばゲームとの差異が大きくなってしまうだろう。
そもそも、性転換しているから元のストーリー通り進むわけねーだろというツッコミは俺にもあった。
変わっていなかったから俺は諦めた。
強制力みたいなものがあるらしい。
「ここ男子寮ですけれども、どうやって入ってきましたか?」
「正面突破。快く許可してくれた」
無表情でドヤる姉、いつも通りだな。
この人が大人しくしているわけねーんだわ。
大人しそうな眼鏡っ娘だというのに、中身はとんだお転婆だ。
妹もおもしれー男と常に言っていた気がする。
今はおもしれー女だが。
「さあ、行くよ」
「はいはい」
ずんずん進んでいく少女の後ろをついて行く。
あの時の殿下と一緒だな、なんて思いながら。
寮を出て、道なりに歩いていけば学園の本棟に着く。
洋風の世界なのに桜が咲いていることへの違和感は、日本のゲームだからということで納得した。
変に中世風に作っても別に受けはしないだろう。
桜と同じ色の少女は、黙っていれば桜に攫われそうだ。
そんなことにならないのは、弟である俺が一番知っている。
攫おうとした桜を全て伐採する女だ、姉上は。
アホみたいにデカいこの学園だが、寮と本棟自体はそれほど遠くない。
五分も歩けば着く位置だ。
自分たちの他にも、登校する生徒が多数歩いている。
五クラス四十人が三学年もあれば生徒数も相当になるもので、道を埋め尽くさんとするほどの人混みだった。
その人混みが急に二つに割れた。
何が原因か、見えないながらも俺には察しが付いていた。
「プロテア殿下、お美しい……」
「踏んでもらいたい……」
今踏んでもらいたいって言ったやつ表出やがれ。
ではなく、やはりプロテアだったかと彼女の元へ向かおうとする。
しかし、俺の足は前に進むことはない。
前から姉が抱き付いて来たからだ。
「……姉上、放してください。
私は王女殿下の元へ行かなければならないのです」
「駄目」
「放してください」
「駄目」
こうなってしまえば、彼女が自分の意見を曲げることはない。
お許しください、プロテア殿下。
まあ約束していたわけではないから許してくれるだろう。
護衛の彼女もいるし、ぼっちにはならないはずだ。
多分。
あのオーラ故にぼっちになりやすい少女を心配しながら、駄々っ子と共に登校する。
周りから奇異の視線を向けられるが慣れたものだ。
そもそも、目線を向けるのは全体の三分の一しかいない。
姉上がエキセントリックガールなのは同学年以上は解っている。
物珍しさを感じるのはこの人に慣れていない一年生だけ。
その一年生もそのうち慣れるだろう。
「おはようございます、ローズくん。
サクラはいつも通りですね」
「おはようございます、ネモフィラさん。
回収お願いします」
姉上の幼馴染のネモフィラさんが迎えに来た。
苦労人気質の人で、いつも姉上に悩まされている。
報われてほしい。
「嫌だ! ローズと一緒にいるもん!」
「ローズくんとは学年違うでしょ?
大人しく教室に行きなさい!」
「嫌だあ!」
じたばた藻掻きながら、姉上はネモフィラさんに連行されていく。
姉上よりも小柄だというのによくやるものだ。
薄紅色と空色の頭が見えなくなれば、俺は独りぼっちになった。
姉上のせいで周りからは避けられているし、変な目で見られているし、慣れていると言っても心に来るものはある。
これで友達作れなかったら恨むぞ。
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