第二話 ②

 ユーラフはこの家で一番広い場所であるリビングに小枝程の長さの杖で魔法陣を書き始める。

書くと言ってもインクなどを使うわけではなく、杖を通してでる魔力で書いているので、用が済めば消える。

 ユーラフは魔法が使えないというが、杖を使えば簡単な魔法なら使うことができる。

ただ、大きな杖を使って魔法を出すには放出する魔力が足りず戦闘で使う魔法が使えない、俺からしたら簡単な魔法を使えるだけ羨ましいと思う。

ものの数分で魔法陣を書き終え、ユーラフと俺は魔法陣の真ん中に移動する。


「じゃあ、いくわね」


 ユーラフが杖を前の家の方に向け、それと同時に魔法陣が魔法を発動するため黄色に光、俺達を包む。

瞬きをすると同時に、俺達は前の家のリビングに書かれた魔法陣へ転移される。


「お帰り! 新しい家どう?」


「おかえり……」


 目の前にはグリュンとアンデルシアがいて新居について聞いてくる。


「それは、自分の目で見たらいい」


「それもそうか、はやく行こう!」


 急かすグリュンに後押しされて、効率よく荷物を魔法陣の中に置き、数度の転移で荷物の移動を終える。

 最後の荷物の転移が終わり、ユーラフとアンデルシアは掃除をするために前の家に戻り、俺とグリュンは乱雑に置かれた荷物の片付けを始める。


「部屋はどうすんの?」


「そうだな、俺は入口から近い部屋にするかな。まあ、前と一緒だ」


「そっか。俺は二階の部屋にするかな。アンデルシアはどの部屋がいいかな?」


「アンデルシアがどこでもいいって言ったら、グリの隣にすればいいんじゃないか」


「それいいね!」


 ユーラフの部屋については言及されず、とりあえず俺とグリの荷物だけ運びユーラフの荷物には手をつけず、自分の部屋の荷物を片付けてから共有している食器等の片づけをする。

アンデルシアの荷物は、この間買った衣類4着だけなので、アンデルシアの部屋が決まってから片付ける。


「ラテリー。俺は終わったけどそっち手伝う?」


「いや、こっちは大丈夫だから風呂を沸かしてくれないか? 掃除してるユーラフ達が帰ってきたら風呂に入ってもらおう」


「わかった」


 二時間語、ユーラフとアンデルシアが転移の魔法で帰ってくる。

外はすっかり暗くなっている。


「風呂湧いているから飯の前に入ってきたらいい」


「ありがとう。そうさせてもらうわ。食事はラテリーが?」


「街で買ってくる。この間の臨時収入もあったしな。引っ越し祝いをしよう」


「うん。とりあえずお風呂入ってくるわ。アン、お風呂に入りましょう」


 ユーラフたちが風呂に入っている間に俺はひとっ走り街に赴く、目指すはレストランガイガー。

数分後、ガイガーに到着し店からいい匂いがし、店の中も大勢が賑わっていて繁盛している


「いらっしゃい!」


 ガイガーの店員である緑色のドレスを着たピクシーのライラが出迎える。


「頼んでた料理できているか?」


「ちょっと待ってて聞いてくる」


 上下にふわふわしながらライラは店の奥に入っていく。


「おう。ラテリー!」


 入口のそばの席に座っていた、はぐれワイトと呼ばれているジョナジュが話しかけてくる。

フェドラハットを被り茶色のマントを羽織っているのが特徴的だ。

基本ワイトはボロボロの衣類か、ローブを着ているというイメージがあるので余計に印象的だ。


「ジョナジュ久し振りだな」


「ああ。遺跡の調査がひと段落したんでな、久し振りにここの料理を骨の髄まで堪能しようと帰ってきたんだ。来週にはまた遺跡に戻る予定だ」


「そうか。いいものは見つかったか?」


「いんや骨董品ばかりで使えそうな物はないな、まあ金にはなるがな。それより一緒に一杯やろうぜ」


「せっかく誘ってもらって悪いんだが。今日引っ越ししたからこれからお祝いしなくちゃならん、ここには料理をとりに来ただけだ」


「ほう、引っ越しか。おーいピクシーの嬢ちゃん!」


 ジョナジュは近くのピクシーを呼び止める。


「はいはーい」


「持ち帰りでこの店で一番高い酒を三本用意してくれ、急ぎで頼む」


「かしこま~」


 ライラと同じようにふわふわとピクシーは店の奥に入っていく。


「さっきもいったが付き合えないぞ」


「わかっている。ちょっと伝えたいことがあるんだ、酒がくるまでのあいだ付き合えよ」


 俺はジョナジュの向かいに座る。


「なんだ?」


「全種連合の第四兵団がヘイレンの北にある山で魔王軍とやりあったらしい」


 全種連合と魔王軍との戦なんて珍しくもなんともないが、ジョナジュがわざわざ話してくれたのにはわけがあるのだろう、話をさえぎらないよう小さく頷く。


「それで全種連合の帝国から来た魔法使いとやらが、倒した魔獣を回収しているらしい」


 帝国の魔法使いか、まさかこの間の奴なのか。


「魔獣の研究か? あとその魔法使いは女か?」


「ああ、魔法使いはこの間ラテリーがやりあった女魔法使いらしい。それと魔獣を回収しているのは研究って感じでもなさそうなんだ。同種の魔獣でも魔力が高かったやつを回収しているみたいでな」


 噂は広がるのが早いな、この街でこの間の事を知らない奴を見つけるほうが難しいだろ。


「回収してどうするんだ? 今の話だとやっぱり研究しているようにしかみえんな」


「どうやら、回収した魔獣のコアを取り出して一つにまとめているらしい」


 魔力の塊であるコアを回収か、錬金術師でもコアを扱うことはできないと聞く。


「なんかきな臭いな」


「だろ? だからこの間やりあったお前さんは気をつけろよ、もしかしたら復讐に来るかもしれないからな」


「はーい、お持ち帰りの料理と、お酒持ってきました~!」


 空気を読まないライラが現れ、その後ろから浮遊の魔法で浮かんでいる木箱と酒が俺達の前に置かれる。


「引っ越し祝いだ」


 ジョナジュは酒を2本箱の上に置き、残りの一本を開け始める。


「いいのか? すまんなありがたく頂くよ」


「エルフのお嬢さんとプリーストの少年によろしくな」


「ああ。ジョナジュも調査気をつけてな」


 別れの挨拶をかわしガイガーを後にする。

もうユーラフとアンデルシアは風呂からあがっているだろう。

急いで帰らないとな。


 家に帰ってくるとユーラフ達はまだ風呂に入っているとのことだった。

グリはダイニングのテーブルに買ってきた料理を並べ、俺はスープを温める。

風呂からあがってきたユーラフ達と一緒に豪勢な食事を楽しんだ。

食後、疲れたのかグリは眠そうにしておりアンデルシアは眠っていた。

アンデルシアを抱え、グリと共に二階にあがる。


「グリお休み」


「おやすみ」


 グリは目をこすりながら部屋に入っていく、そういえばアンデルシアの部屋を決めなかったな。

グリの隣の部屋に入り、ベッドにアンデルシアを寝かせ毛布をかける。

アンデルシアの寝顔をみながら、魔族も人類も寝ているときは変わらないなと思った。

 部屋をでて静かにドアを閉め、グリの部屋の方を見る。


「一つ貸しだからな、グリ」


 リビングに入るとソファーに腰かけたユーラフが本を読んでいる。


「おかえりなさい。まるでお父さんね」


「あんな生意気な小僧と魔族の子どもなんかいらん」


「はいはい」


 リビングのチェストからジョナジュからもらった酒とグラスを取り出し、ユーラフの横に座る。


「一杯やらないか?」


「いいわね」


 グラスに酒を注ぎ入れユーラフに手渡し、自分のグラスに酒を入れる。


「ユーラフ。引っ越しお疲れさん。乾杯」


「乾杯」


 一杯目の酒を一気に飲み干し二杯目を注ぐ、ユーラフのグラスも空になっていたので酒を注ぐ。


「ありがとう」


「後で、荷物を部屋に運ぶのを手伝う」


「明日にしない? 今日はこのままソファーで寝るわ」


「俺がソファーで寝るから俺のベッドを使えよ」


「それなら、ラテリーのベッドで一緒に寝る?」


 酔っ払いエルフは心にもないことをいたずら好きな子供のような表情で言ってくる。


「はいはい。ユーラフが大人になったらな」


「年月的には私は大人よ」


 胸を張って偉そうにしているユーラフの額をこずく。


「痛いじゃない!」


 出会った頃はもっとつんつんしていたんだけどな、月日というものは人の心を溶かすこともある。

その後、いろいろ雑談しユーラフを俺の部屋に行かせ俺はソファーに横になる。

長いようで短い一日が終わり。

また、明日から仕事をしにギルドに行こう。

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