第二話 ①
新しい拠点の鍵をもらいに俺はギルドを訪れていた。
「鍵をくれ」
カウンター越しにアイビーに話しかける。
「はい。これが鍵と契約書ね」
「ありがとう。移住が終わったら報告に来る」
「それよりその荷物は何?」
アイビーは二つの大きな木箱を指さす。
「今回家の修繕をしてくれたトターデュへのお礼だな」
トターデュはドワーフで、家族ぐるみでこの街の鍛冶関係や家の補修や修繕、ギルドからの武具の発注を受けている。
「私には?」
「え?」
「ないの?」
「次来る時に持ってくる」
「うん。待ってる」
確かに手続きやらなんやらやってもらったしな、お礼はしとかないと。
二つの木箱を片手で抱えギルドを後にする。
ギルドから歩くこと10分ぐらいトターデュの工房に辿り着く。
「おう、ラテリー。どうした?」
工房の入口にはトターデュの父親がベンチに座りハンマーを磨いていた。
この工房は第一工房で主に仕事の依頼や、作った商品を展示している。
「親父さん今回は拠点の修繕と補修ありがとうな。お礼に色々もってきたんだが、トターデュはいるかい?」
「おう。あの家はいい家だから大切に使ってくれよ。実はあの家俺の嫁さんがデザインして俺が建てたんだ。ちなみにラテリー達が住んでた家も俺達が造った」
そうか、だから造りが似ていたんだな。
「大切に住まわせてもらうよ」
「そうしてくれ。嫁さんも喜ぶ。んでトターデュだったなこの時間なら第二作業場にいる」
「わかった。行ってくる」
第一工房には入らずに裏にある第二工房に向かう。
途中、トターデュの嫁さんでドワーフのジュリンに出会った。
「ラテリーじゃないかい。久し振りだねぇ」
「ああ。拠点の修繕と補修ありがとう。これお礼だ」
ジュリンに一箱手渡す。
「ギルドから報酬は出ているんだから気を使わなくてもいいのに」
「そこらへんはユーラフの気づかいだな」
「そうかい。じゃあありがたく頂くかねぇ。中身は何だい?」
「ユーラフが栽培している野菜だ」
「それはありがたい。うちの子たちが食べ盛りなのか、食料の消費が激しくてね」
トターデュ家は、トターデュの両親、ジュリンの両親、トターデュ夫妻、トターデュ達の子供7人の大所帯だ。
家族経営で人件費はかからなくても食材費は凄くかかるのだろう。
「そんなことより、いつになったらあんたとユーラフは結婚するんだい?」
「な!? なんでそうなるんだよ! 俺達はそんな関係じゃねーよ!」
「はいはい。旦那なら今休憩しているからあっていきな」
「そのつもりだよ。まったく」
この街のオカン達には同じことをよく言われるが、俺達はそういう関係じゃない。
あくまで仕事仲間だし、一緒には住んでいるがそういう意味じゃないし、確かにユーラフは綺麗だし、飯は美味いし、でもそういう関係じゃない。
一人文句を言いながら第二工房に辿り着く。
工房前の東屋でトターデュがパイプ煙草をふかしている。
「トターデュ」
「よく来たなラテリー。レヴィアストーンについてか?」
トターデュには俺の力に耐えられそうな鉱石を探してもらっており、レヴィアストーンという鉱石が候補にあがっている。
見つかりしだい剣にしてもらうよう依頼し、かれこれ1年は経つが剣にするには鉱石の量がまだ足りないらしい。
「いや、今日は拠点の修繕と補修のお礼に来たんだ。さっきジュリンにもあって野菜を渡しておいた。そしてこれは、俺からトターデュへの個人的なお礼だ」
木箱を手渡しトターデュはすぐに箱を開ける。
中には上質なワインとチーズとナッツが入っている。
「おおこれは!」
酒好きなトターデュは目を輝かしてしる。
「ま、ジュリンと晩酌してくれ」
「すまねえな」
酒瓶にほうずりしている様子をみて酒をもってきて良かったと思う。
「そういうやお前さん、帝国の剣士とやりあったんだって?」
「やりあったというほどの事はしてないな」
弱すぎて話にならんかった。
「なんでもあの剣士の親が帝国でも結構な地位にいるみたいで、お前に復讐するために兵士を数十人つれてここに向かってるらしいぞ」
「暇なのかね」
「息子を殺されたんだから仕方あるめえ。お前さんはもう少し手加減を覚えないとな」
「それはそうだな」
喧嘩を売ってきたのはあの剣士からだったが殺す必要は無かったかもな。
その後、世間話をして工房を後にした俺は市壁内の家に向かう。
昼を済ませたらいよいよ引っ越しだ。
ユーラフの作った昼食を済ませて、最低限の荷物を持ちユーラフと二人で新居に向かう。
「トターデュは喜んでた?」
「ああ。ジュリンも喜んでいたよ」
「私も引っ越しが落ち着いたら会いに行ってくるかな」
道中他愛もない話をし和やかな時間を共有していたが、しなければいけない大事な話があってユーラフもタイミングを見計らっていると思った。
だから俺の方から話をふることにする。
「アンデルシアの事なんだが」
「うん。私もその話がしたかった」
「どういう風に接していくを決めたい」
「グリュンには話をしなくてもいいの?」
「グリュンには今のままでいてほしいと思っている。変に気を遣うような事にはなって欲しくない」
魔王軍の残党が魔王亡き後も侵略行為を続けている中、俺達がいるヘイレンはギルドの力が強く魔王軍からすれば帝国に続いて一番邪魔な場所だ。
いつ大群で押し寄せられても不思議じゃない。
その為、守護者、街の運営者、商業以外の居住している人類は少ない。
家庭を持つ者もいるが子供が生まれると他の場所に移住してしまう、逆に子だくさんのトターデュのように街に残ってくれる者の方が珍しい。
だから、学校等もなく親が子に勉学を教えている。
グリュンと同年代の子が少ない現状アンデルシアとは仲良くしてほしい、この三週間グリュンはとても楽しそうだった。
「そうね。グリュンの友達って自分より年の離れた守護者ばかりだもんね」
ユーラフも納得してくれたようだ。
「それと俺達が、魔王を倒したという事をあの子に話すか迷っている」
「そうね。捨てられたと言ってもあの子にとっては同種族も当然だし」
半年前、俺達は魔王を倒している。
この事は、魔王の側近の2名とオークの長と俺達三人しか知らない。
それを公表するつもりはない、なぜなら魔王を倒したからと言って魔王軍がなくなっているわけではないし、未だに侵攻を続けている。
公表しても、魔王が倒されたと浮足立った全種連合が全面戦争を仕掛けて、大群を残している魔王軍残党に返り討ちにあうのが目に見えている。
ということもあり、現状維持をしつつ魔王の側近兼魔王軍の指導者をしている、アルフォルド・レイブルを倒すのが目的だ。
だが、こいつがとても厄介で俺と同じ星の力を持っている。
「そうだな。ある意味親殺しみたいなものか」
魔王が魔族を産み、魔族が魔人を産み、魔人が魔獣を産む。
人類が増える数倍の早さで増え続けていく魔王軍はどんどん大きくなっていく。
今現在の魔族は5人、魔王がいないので魔族はこれ以上増えないが、周期的に魔人と魔獣は増えていく。
魔族と魔人も手ごわいが数的に厄介なのは魔獣だ。
奴らは魔獣とは言われているが、獣のように本能で向かって来るわけでなく、魔人と意識を共有しており統率のとれた動きをしてくる。
森にたまに魔獣が現れるが単体ではなく必ず群れで行動している。
「あとは、角と翼を隠す練習と、人類語を教えよう」
人類に擬態する魔人がいるので、魔王種のアンデルシアならそれぐらいできるようになるだろう。
そういえば、魔王はいないのに魔王種というのは産まれるのか。
それとも俺達が倒した魔王以外にも魔王がいるのか。
「そうね。それは私が教えるわ。一番年長者だし知識もあるわ」
「頼む」
こういう時のユーラフは頼りになる。
「やっとみえてきたわ」
外観も綺麗になった家を見つけたユーラフは、足早に家に向かう。
「子供じゃないんだ。あまりはしゃぐなよ」
「人間換算したらまだ子供よ!」
年長者はどこに行った。
こういう時だけ都合のいいことを言う、普段は子ども扱いするなというくせに。
「早く、鍵をあけて!」
「はいはい」
鍵を開け中に入る。
「驚いた」
修繕している期間は一度も家には入らなかったので知らなかったが、壁が綺麗に塗りなおされ床板やら柱なんかが、新しいものになっているか、ニスが塗られている。
新築だと言われてもわからないだろう。
「凄いわね。さすがドワーフ」
「その言い方は失礼だな。さすがはトターデュということろだ」
「そうね。また野菜とお酒をもっていかないとね」
「ああ」
二人で家の中を見て回る。
一階にキッチン、風呂場、ダイニング、リビング、排泄場、個室が三部屋、二階は個室が五部屋、排泄場に物置場があり、全ての個室には寝台とチェストと収納棚が置かれている。
「寝台があるのは助かるな」
「運ぶの大変だしね」
「それにしても、部屋数が多いな」
「市壁を護るための拠点だったのかも、それか拠点に敵が近づいて来た時に市壁に伝えにいく連絡所みないな」
「いまは、昔と違って市壁に大きな見張り塔があるから使われなくなったのかもな。その理由ならこの拠点が運営の所有物件っていうのも理解できる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます