幻想罪科
どこで刀を握ったのだろう。
誰かを探していたような、何処かに行きたかったような、そんな気がするけど、なんだかどうでもいい。
白ばむ視界。狭まる思考。
目の前には誰かが歩いている。
——この刀を突き立てたら、どうなるのだろう。
そんなことを、考えてしまった。
自然と体が動く。刀に引かれつつも、着実に、自分の意志で、刀を振るう。
真っ赤。まっかっか。
ぬらりと頬を伝う何か。
鉄の匂いを撒き散らす。
とってもおぞましくて、とっても綺麗。
気付けば、知らない場所にいた。
足、腕、首。
見知らぬ和室のしなびた畳の上に、趣味の悪い飾り物が――。
「……ぁ。——っあ」
こんなにどぎつい赤は、どうしても目が痛い。
否。
こんなに散らかして、この部屋の主はどこに行ったのだろう。
否。
私は――。
「……なんで」
私じゃない。
私は、どうして、こんなことを。
違う。
まだ感覚は焼き付いている。
そんなわけが。
視覚も、嗅覚も、触覚も、あの瞬間のまま。
「あ、——ああ、あああ!」
本当は知っている。気付いている。
普通に幸せそうなみんなが羨ましくて。
何度も想像したことがある。その辺に歩いている普通の人を、何の前触れもなく殺してしまえたら。
ぐちゃぐちゃに体を引き裂き、精神を踏みにじり、畜生以下に落としてしまえたら。
そしたら、少しは、すっきりするのだろうか。
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