第17話 牛若丸はHERO

 兄の源頼朝に反感を買った源義経は衣川の戦い(現在の岩手県西磐井郡平泉町辺り)で自害する設定になっていますが、奥州藤原氏は初代藤原清衡の代より結束力が強い一族で、当時の藤原秀衡でさえ1187年11月の死の間際に藤原泰衡たち息子に「源義経を大将として力を合わせて源頼朝と戦え」とまで遺言していたほどです。それでありながら泰衡だけは頼朝側について義経を衣川に追い込みました。

 さて、時は1189年4月30日、藤原泰衡らにより追い詰められた義経は衣川で自害。ただし、当時は“替え玉”という方法が無きにしも非ず。6月には義経と仲の良かった泰衡の異母弟の藤原忠衡まで殺害しました。なんて親不孝な息子でしょう。

 そんな折、夫の義経が死んでしまったことになっているとも知らずに、居ても立っても居られない静御前は頼朝の軍勢に追われている義経が奥州藤原氏を頼って会津あたりを通過中という風の便りを聞いて、すぐさま数名の侍従を伴い、京都の日本海側の街道を使い会津を目指しました。途中、休憩に立ち寄った糸魚川(姫川)の海岸で義経からもらった大切な勾玉を失くしてしまいます。数日足を止めて探しましたがとうとう見つけることが出来ませんでした。仕方なくあきらめて先を急ぎます。

そして運命の1189年7月26日、静御前一行は目的の会津を目前にして奥只見湖から國堺にかけて移動中、山中において山賊に遭遇してしまいます。追い詰められた静御前は侍従たちだけは命を助けて欲しいと懇願、持ち物をすべて山賊に渡して自己犠牲を払ったにもかかわらず、その甲斐むなしく全員殺害されました。静御前享年27歳でした。

 とても悲しいお話ですがそんな事情を知らない義経はといいますと、実際、衣川での戦いはありましたが、影武者を立ていち早く北上します。当時、頼朝の手の届かぬ蝦夷の地(現在の北海道)を目指します。現在の青森県のとある港に船を準備…恐らくは殺されるまでの間に藤原忠衡や義経の家来で凄腕の武将、常陸坊海尊(衣川で戦いになる際、山寺を拝みに出ていて席を外していて生き延びた)が尽力し、義経を救うべく船を手配したものと考えられます。義経は逃亡中に海尊の集めた仲間と逃げ延びた騎馬隊を引き連れ乗船、追手から逃れて蝦夷に渡ったと考えられます。その後、残念ながら頼朝の前に奥州藤原氏は1189年9月に滅亡してしまいます。

 蝦夷に着いた義経一行は現地のアイヌ人に造船や織物の技術を伝えて交流を計りました。また若者に戦闘防衛術を指導し、義経を信頼して従軍を名乗り出た者は受け入れました。立場は頼朝側でありましたが、義経に対しては献身的であった常陸入道念西は秘密裏に協力の手を差し伸べて大量の食料や必要な物資を提供、準備が整ったのを機に用意してあった船に乗り込み、大陸を目指します。

 当時のモンゴル平原には遊牧民がたくさんいて、遊牧民族同士の争いや土地の奪い合いがありました。そこへ騎馬隊を引き連れた武士の一団が乗り込むわけですからさぞ驚いたに違いありません。遊牧民は当然馬くらいは乗りこなしていますが、馬上で刀を振るったり、大弓(和弓)を引いて敵を倒す技などもっていません。当時の遊牧民が持っていた弓も小さいものでした。ましてや文字が書けませんので“漢字”なども読めませんでした。ケレイト国を追われていたトオリル・ハンを救済し同盟を結び、馬術や戦いを教えて交流をはかり、強力な大騎馬隊を編成して、ジュルキン氏族、タタール族、メルキト族、ナイマン族など次々と制圧して、1206年についに部族の統一を果たしてモンゴル帝国を築きました。初代のチンギス・ハーン(王の中の王=皇帝)として即位を果たしたのです。

 自らを「ニロン族(=日本族)」と名乗り、戦闘の時の軍旗や兜には源義経の家紋である笹竜胆(ささりんどう)に似ている紋章を使用していました。またチンギス・ハーンの別名が「クロー」であり、これは義経が官職に就いていた時の「九郎判官」の略だといいます。また、1206年の即位式に9本の白旗が掲げられたといわれ、白旗は源氏の旗印を意味し、9本は義経の官職の「九郎判官」を表すものとしています。現在のロシアの一地域にはチンギス・ハーンの時代に「源義経」と刻まれた石碑があったそうです。

 チンギス・ハーン亡き後、日本を攻めてきたのは(元寇)、表向きは交流するよう見せかけて、実は母国に仕返しをするよう遺言でも残していたのでしょうか…今となってはすべてが闇の中となってしまいました。

 


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