第14話 魔性の薔薇

 その昔、薔薇の美しさに魅了されたひとりの画家が、幾度も描き直しを繰り返し、ついに魔性の美しさを放つ真っ赤な2本の薔薇の油絵を完成させました。

 その完成度の高い、あまりにも美しい薔薇に自ら魅了されてしまい、食べるものも食べず、寝ることも惜しみ、来る日も来る日も眺め続けてついに息絶えてしまいました。その後、その絵を手にしたものは同じように魅了され、次々と死んでいったのです。

 やがてその薔薇の油絵の持つ恐ろしく危険な魔力に気づいた者が現れ、 その絵は封印されこの世から姿を消しました。焼いて灰にしなかったところが疑問の残る所ですが、そうしなかったのは、最高傑作の美術品としての価値観が邪魔をしたのでしょうか。

 ところが最近になって、その絵が現存していることが分かりました。“すぐには手の届かない場所”に隠されていることも明らかになったそうです。それを見つけ出した者が手中に収めて構わないらしいのですが、手にした者がそれを一度でも見入ってしまったら、間違いなく釘付けになり“死”から逃れられなくなる…再び死の連鎖が繰り返されることになります。

 まるで血で染めたかのような深紅で妖艶な花びらを纏う魔性の薔薇たち…恐らく密閉された箱に入れられ、どこかの深い洞窟の奥に埋められたか、あるいは深い湖底にでも沈められている可能性が無きにしもあらずですが、探しに行くことも発見して見ることも“命がけ”とは…複雑な気持ちがします。

 “見たら死ぬ絵”なるものをネットでたくさん見たことがありますが、“じぃーっ”と何分見つめてもどれも何も起きませんでした。しかし、この魔性の“薔薇の油絵”に関してはあながち嘘ではないようですので、もし、仮に本物が目前にあったとしても確かめる気持ち(勇気)は1mmもありません。なぜなら、浦島太郎は玉手箱を開けて年を取るだけで済みましたが、こればかりは開けたら絶対興味本位で見てしまうに違いなくその先に待つものは“死”のみだからです。

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