第5話 生活発表会で主役 幼少期のこと その4

年長のとき、生活発表会で劇をすることになった。

セリフを覚えるのとかはそれほど苦手ではない。(わたしの場合、歩き始めは人よりだいぶ遅かったが言葉の発達は大体問題なかった。ただ発音については自覚はなかったがおかしなところがあり、それについてはまた別の話で書きたい)

だからまあ大丈夫だろうと思い、役が立候補制だったためわたしは大胆にも主役のお姫様に立候補した。お姫様役は前半と後半で1人ずつとなり、わたしはその後半を任された。


もちろんこの当時はまだうつ病を発症してはいなかった。今だったら立候補なんて絶対にしない。

ただ、もう決して戻れないけど自分と他人が何か違うなんて気付かず、平然と生きていたこの頃のわたしが今となっては羨ましい。


確かにセリフは問題なく覚えられた。

でもわたしにとって落とし穴は思わぬところにあった。

お遊戯なので歌とダンスがあるのだ。

歌はまだいい。残念ながら音痴ではあるが歌詞を覚えればなんとかはなる。

しかしダンスは違った。他のASDの方にも共感してもらえるかもしれないが動作はさっぱり覚えられない。聞いても聞いても脳から抜けていく感じ。いつもなら後ろの方でワンテンポ遅れて近くの子の真似をしてなんとなく誤魔化していたが今回はそれが通じない。

なんせ主役なのでど真ん中の前。真似できる見本がいない。

何度も何度もやり直してようやく覚えるまでにかなりの日数がかかってしまった。

「あんたのせいでみんなやり直し!」

一向にテンポが合わないわたしに対して先生もキレており、今なら大問題になりそうな発言は軽く10回以上は繰り返された。

ただ、困ったことに具体的にどこがどう間違っているのか、それともテンポが合っていないのか空気を読むのも下手なわたしにはさっぱりわからない。そして自分の何が悪いのかわからないので他の子に悪いとも思ってなかった。当然わからないから悲しくもなく、ただ淡々と踊りそれに毎回ダメ出しが出るというとんでもない悪循環を繰り返していた。


でもとりあえず何十回も繰り返したお陰で覚えることはできた。


そして本番は問題なく終えられた。親はわたしが主役で喜んでいたが自分の中ではそんなに楽しい思い出にはならなかった。

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