子猫

駆と二人で歩いていると、道端に蹲る子猫を見つけた。

「ねこだ」

駆が跪いて抱き上げると、子猫は弱々しくミャーミャー鳴いた。

「どうするの、それ」

「さあ……握り潰してみる?」

物騒なことを言う。子猫はそんな危険な状態にあるとも知らず、駆の親指をちゅぱちゅぱ吸っている。

「しないでしょ」

「なんで」

「する意味がない」

「そうかな」

駆は子猫を撫でながら息を吐く。

「この子を殺す必要はないけど、助けるつもりもない。でもこのままここに置いていったら、昼過ぎには鴉あたりのおやつになっているだろうよ」

だから、と駆は続けた。

「その前に、苦しまないように逝かせてやるのは、慈悲じゃないか?」

子猫はぐるぐると喉を鳴らしている。ピンと伸びた尻尾が併せて小刻みに震える。

「さてね。そういう慈悲もあるかもだけど」

敢えて素っ気なく返すと、駆はつまらなそうな顔をした。

「もう少し焦ってくれるかと思ったのに」

「やるつもりのないことは言わないほうがいい……ほら、そこに動物病院があるみたいだよ」

電柱に巻きつけられた看板を示す。

「連れて行きますか……七実、幾ら持ってる?」

「2万」

「俺は1万ちょっと。足りるかな」

「わからん」

動物など飼ったこともないから、相場がわからない。とはいえ、足りなければその時はその時で、カードを使うなりATMで下ろしてくるなりすればいいだけのことだ。

「行くぞ」

そう言いながら、少し意外だった。握り潰す云々は質の悪い冗談にしても、捨てられた命を救うようなタイプでは無いと思っていた。今、どんな顔で駆を見ているのかが解らない。だから足早に歩き出した。

「その猫、診てもらって、その後どうする」

「どうするかな……俺達が飼うわけには行かないだろうから、実家にでも送るか」

「無責任な話だ」

「じゃ、飼う?」

「冗談」

「その時になったら考えよう」

如何にも刹那主義の駆らしい回答が返ってきた。

「そうだな」

その、らしさに安堵する。角を曲がると、動物病院の看板が見えた。


(お題 子猫)

2023.11.16 03:58:21

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