夫婦
いつものように、何をするでもなくテレビを点けてぼんやりとしていた。テレビは夕方のニュースの時間帯で、アナウンサーが訥々と今日の出来事を語る。
駆は隣でスマホを弄っている。テレビの音量に文句を言わないから、作業ゲーでもしているのだろう。
『本日、LGBTに関する大規模デモが国会前でありました……』
ニュースが切り替わる。同性婚を法的に認めろというデモ行進が行われたという内容だった。
「そこまでして結婚したいもんかね」
スマホから目は離さないまま、駆が呟いた。
「俺は結婚とか、面倒くさいだけだと思うけど」
うんざりした様子の駆は、なにか思い出しているようだった。おそらくは、両親に言われ育った「長男のお前は結婚して家業を継げ」という言葉を。それが窮屈で家を出た駆にとって、思い出しただけで苦い顔になるのは実家絡みのことばかりだ。
「まあ、したい人にとっては法律を曲げてでもしたいことなんじゃないか」
「え、七実は結婚したいの」
「したい人は、って言ったろ。俺自身のことじゃない」
対する俺はといえば、両親からは完全に無関心のネグレクトを喰らったせいで、所謂あたたかい家庭のイメージを持てないでいる。
『本日11月22日はいい夫婦の日です。街で夫婦円満の秘訣をインタビューしてきました……』
ニュースがまた別のトピックに変わる。結婚が認められずにデモをした話の後にいい夫婦とは、なかなか無神経な番組構成だ。
「いい夫婦、か」
駆がまたニュースに反応した。
「七実と俺は、いい夫婦になれるような気はするけど」
噎せそうになる。
「なんだそれ、バッテリー的なことか」
「うーん、まあ、そういう意味で捉えてもいいけど」
駆が顔を上げる。笑顔だった。
「基本似てるし、それでいて補完しあえるところも多い。いいコンビじゃない?」
「まあ、否定はしないが」
俺は仏頂面になる。
「わざわざ夫婦とか言って俺の反応で遊ぶな」
「バレたか」
全く、こいつが明らかな笑顔の時は碌なことじゃない。
軽く髪を掻いて、おれはテレビを消した。
(お題 夫婦)
2023.11.23 03:24:20
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます