第48話 勇者になる資格

『勇者グランプリ決定戦!!! ついに開催!!!』


 遠く離れた街の闘技場で、勇者を決めるグランプリが開催された。俺とシャルとその他一同は闘技場入り口の受付に集まっていた。


「タナケン! お互い頑張ろうね!」


 シャルに手を掴まれてぶんぶん振られるが、俺のテンションは下がりきっていた。


「俺は……(´・ω・`)」


「勇者になるのはわしじゃ!!!!」


 シャルと話していると、ウサ太郎の飼い主である、いつもの爺さんが大声を出した。


「え? 爺さんも参加するの?(´・ω・`)」


「当たり前じゃ! 勇者になればチヤホヤされるからのぉ」


「爺さん、戦えるの?(´・ω・`)」


「こう見えても昔はとんでもない力を誇ったカラオケの店長だったのじゃ。ほら、これが『カラオケ店長マスター(レベル4)』スキルじゃ」


「よ、弱そう……(´・ω・`)」


「なんじゃと!? ちなみにウサ太郎も参加するぞぃ!」


「ピギィー! ピギィー!」


「モンスターは参加しちゃダメだろ!(´・ω・`)」


 クソどうでもいい会話をしていると、他の参加者達が集まってきて、俺達を指差しながら何か言っていた。いや、指差している対象は俺達ではなく、シャルだった。


「あの子が魔王を倒したというのは本当か?」


「あんな小娘が魔王を……信じられない……」


「俺だって信じられねぇよ。でも実際に魔王を討伐したところを見た人が大勢いるんだ」


 聞こえてくるのは、シャルが魔王を討伐したという噂話。魔王を討伐した際、遠くの丘で応援していた人達が「次の勇者は魔王を討伐したシャルで決まりや!」などとテンションアゲアゲで言っていたらしく、それが噂として拡大しているようだった。


 あの場にいなかった人達はまだ半信半疑でいるため、シャルは今回の勇者グランプリ決定戦の注目選手となっていた。


「ふふふ、そうはさせないわ!!」


「あ、おでんツンツン勇者さん(´・ω・`)」


 どこかからやってきたおでんツンツン勇者はシャルを指差して「勇者の座は私のもの!」と宣言する。


「私はチヤホヤされるまで勇者を辞める気ないわ! 再び勇者になり、今度こそチヤホヤされるのよ!」


 相変わらず目つきは悪いし、良い大人がなに言っているんだ感が半端ないのだが、それでも覚悟だけは伝わってくる。


 実際、おでんツンツン勇者はかなり広範囲に結界を張っているし、モノシリ・デスの攻撃も跳ね返していた。彼女の本気と五大スキル、はたしてどっちが強いのだろう……って騎士団っぽい人達がこっちに来たぞ(´・ω・`)


「おでんツンツン勇者さんで間違いないですか?」


「そうだけど、こんなに大勢の騎士団が何の用かしら? あ、サインが欲しいのかしら。うふふふ、私、サインは書かない主義なんだけど、今日は特別書いてあげるわ。一列に並んで……」


「いえ、サインではなく、あなたに逮捕状が出ています」


「へ?」


 固まるおでんツンツン勇者。この世界にも逮捕状ってあるんだ(´・ω・`)


「というわけで、おでんツンツン罪の容疑で逮捕します」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! おでんツンツン罪ってなに!? そんなふざけた罪あるわけないでしょ!」


「名前はアレですが、中身は威力業務妨害と同じです」


「中身だけ真面目にしないで! 私はこれから勇者グランプリ決定戦に……ちょっと! 待って!」


 おでんツンツン勇者はピーピーと文句を言っていたが、困り顔の騎士団達に宥められながら、連れていかれてしまった(´・ω・`)


「うむ。おでんツンツン勇者が出場しないのなら、勇者の座はわしらのもんじゃな」


「ピギィー! ピギィー!」


 いや、アンタらは無理だろ(´・ω・`)


 そこへ焼きそばとたこ焼きと焼き鳥とかき氷を持った奴隷の子がやってくる。


「ムシャムシャ……お金ちょうだい」


「渡した金を全部使っちゃったのか!? もうダメだ!(´・ω・`)」


「えー! ケチー!」


 モノシリ・デス討伐後、行くあてのなかった奴隷の子はタナケンハウスで一時保護していた。里親を探しているが見つかっていないし、食費代がとんでもないことになっている現状だ。


 一応、モノシリ・デスを討伐したことによって、王様からたんまり報酬金(頼まれたわけではないけど)を貰ったからやりくりできている。残り1億4000万ゴールドあるから当分は大丈夫そうだ。ま、討伐したのはシャルだったから俺の金じゃないんだけどね(´・ω・`)


「わたあめ食べたいー! わたあめー!」


 駄々をこねる奴隷の子。勇者グランプリ決定戦はお祭りのようなもので、闘技場付近には屋台が出ていた。参加者でなさそうな親子連れの姿も見られる。この子にも親がいたら、あんな風に親子で来ていたのかな……ってあれは!?(´・ω・`)


 サングラス野郎だ! 奴隷の子の保護者的な存在だったくせに一人で逃げたアイツだ! なんかめっちゃ食べ物を買っていて、ほくそ笑んでいる!(´・ω・`)


「私としたことが少し買いすぎてしまいました。しかし、せっかく勇者グランプリ決定戦の観戦チケットが当たったのです。今日ぐらいは豪遊しても良いでしょう。あの娘もいなくなったことですし」


 なにかブツブツ独り言を言っている(´・ω・;`)


「あー! サングラスいたー!」


 奴隷の子もサングラス野郎に気づいたようで、大きな声を出して指さす。


「ゲッ!!! 生きていやがった!!!」


 サングラス野郎はそう言って逃げようとする。それを奴隷の子は追いかける……が、サングラス野郎は両手に食べ物を持っているし、奴隷の子はそもそも走るのが遅いから亀vs亀みたいな低レベルの追いかけっこになっている。


「おなかすいたー! なにか食べさせてー!」


「もう私はあなたと関係ありません!」


「奴隷保護法違反で訴えてやるー!」


「なっ! なんでそれを知って……ぎゃふん!」


 あ、サングラス野郎が転んだ(´・ω・`)


「早く食事ー!」


「わかった! わかったからサングラスは取らないで!」


 奴隷の子はサングラス野郎が持っていた屋台の食べ物をパクパク食べ始めた。なんて恐ろしい子!Σ(´⚪︎ω⚪︎`)


「そうか、行っちゃうのか(´・ω・`)」


「うん、ばいばい。おじさん」


「おじさんじゃねーよ! ……ほら、これでわたあめでも買ってきな(´・ω・`)」


「いいの!? わーい!」


 再びニコニコ奴隷商会で暮らすことになるんだ。最後くらい好きなものを食べてほしい。あとぶっちゃけモノシリ・デスの注意を引きつけるためにドカ食い気絶スキル(レベル1〜2)を紛失してしまったから、その詫びでもある。


 まー、自分から戻っていったから良い生活を送っていたんだろうし、大丈夫だろう(´・ω・`)


「ムシャムシャ……(咀嚼音)」


 そのとき、奴隷の子がピカっと光った。


「うん? また奴隷の子が光っているぞ?(´・ω・`)」


「なにこれー?」


 奴隷の子は自身の体からスキル玉を出して、シャルに見せた。


「どれどれ、ドカ食い気絶スキル(レベル3)だって」


「やったー! どこかにレベル1と2を落としちゃったみたいだから良かった〜」


 あ、気づいていたんだ……ごめん(´・ω・`)←心の中で謝る主人公


「わたあめのおかげだねー。お兄さん、ありがとー……すやぁ」


「寝ちゃった(´・ω・`)」


 そのまま奴隷の子はサングラス野郎に抱えられて、俺達と別れた。二度と会うことはないだろうけど、元気で暮らしてほしい。二度と会うことはないだろうけど(´・ω・`)←大事なことなので二回(フラグ)


「行っちゃったね……」


「ああ、いろいろやらかした子ではあったが、いなくなると寂しくなるな……(´・ω・`)」


「ふむ……ドカ食い気絶スキルとはのぉ……」


「爺さん、どうしたの?(´・ω・`)」


「数年前に発見された古代の石板に『ドカ食いを極めし者、究極の力を手に入れるであろう』と刻まれていたんじゃよ。もしかしたら、あの子はとんでもない才能を持っているのかもしれんのぉ」


「いや、それはないでしょ(´・ω・`)キッパリ」


 おでんツンツン勇者の逮捕、奴隷の子との別れ、爺さんの謎発言で時間が経ち、いよいよ勇者グランプリ決定戦が始まる。


「あ、そうだ。五大スキルだっけ? 始まる前に返さないとね」


 シャルはめちゃくちゃ眩しいスキル玉を取り出しながら、俺にそう言ってくる。


「いや、いいよ。全部あげる(´・ω・`)」


「え? でも、このスキル達がなかったら勇者グランプリ決定戦で生き残れないよ?」


「俺、勇者グランプリ決定戦には出場しないよ(´・ω・`)」


「ええ!? どうして!?」


 シャルは「変なものでも食べたの!?」と俺の肩を掴んで揺さぶってくる(((´・ω・`)))


「俺には……勇者になる資格がないって思ったんだ(´・ω・`)」


「ふむ。勇者になるのはわしであると認めたわけじゃな」


「ちげーよ、ジジイ(´・ω・`)」


 俺はモノシリ・デスとの死闘を思い出す。


「俺とおでんツンツン勇者はチヤホヤされたくてモノシリ・デスを討伐しようとしたけど、シャルはみんなのために戦った。スキル玉を置いて逃げようとしたときも一人で取りに行ったし、シャルみたいな人間が勇者になるべきだと思う(´・ω・`)」


「でも、この五大スキル達はタナケンのだし……」


「だからあげるって。既にモノシリ・デスを討伐したところを見ていた人達はシャルのことを英雄扱いしているし、名前を間違えまくられている俺なんかより勇者に向いているよ(´・ω・`)」


「タナケン……」


「俺は勇者って柄じゃなかったのさ。それに今までいろんな人に騙されてきた(※)けど、シャルになら五大スキルを任せられる。だから、俺の代わりに勇者になってくれ(´・ω・`)」


 ※ワンルームマンション投資の件など


「ほら、早く行かないと出場できなくなってしまうぞ(´・ω・`)」


 俺はシャルの背中を押し、彼女は納得いかない様子見ではあったが駆け足で向かった。


「本当に良かったのかの?」


「何が?(´・ω・`)」


「お主も本当は勇者になりたかったんじゃろ?」


「いいんだ。結局、俺は人に名前も覚えてもらえないような脇役で、主人公ではなかったんだ(´・ω・`)」


「ふむ……ま、お主が選んだ道なら仕方あるまい。じゃあ、わしも参加してくるからタナモンは観戦していてくれ」


「アンタはいい加減に名前覚えろよ!(´・ω・`)ノビシッ」


 そして――シャルは勇者グランプリ決定戦を優勝した。その圧倒的な結果に人々は新たな勇者の誕生を盛大に祝福した。俺は祝われるシャルを遠くから見守っていた(´・ω・`)


 ついでに爺さんとウサ太郎は一回戦の借り物競走で敗退した。



 ********************************



 それから一ヶ月後。


「ついに行ってしまうのか(´・ω・`)」


「うん。各地の魔王を倒して平和にしてみせるよ」


 シャルは勇者として魔王討伐の旅へ出る。戦士グランプリ決定戦、魔法使いグランプリ決定戦、僧侶グランプリ決定戦などの優勝者達とPTを組み、各地の魔王を倒す険しい旅だ。


「タナケンもついてくればいいのに……」


 シャルはどこか寂しそうに言う。


「俺はグランプリに優勝していないし、それにやりたいことができたんだ(´・ω・`)」


「やりたいこと?」


「スキル資産家さ。シャルに五大スキルをあげて思ったんだけど、俺はスキルを使うよりも誰かに使ってもらった方が合っているなって。働きたくないし(´・ω・`)」←本音


 のんびり街で生活しているのがお似合いだと思った。もうあんな怖い目にあうのは勘弁だし、スキルを制御できずに周りを破壊するのも嫌だ。


「でも本当に五大スキルなしで大丈夫なの? やっぱり返そうか?」


「もうここら辺は安全だから問題ないはずだ。むしろ魔王を討伐しなきゃならないシャルが弱体化したら、みんな困るだろ(´・ω・`)」


 あれからシャルが付近のモンスター達を倒しまくったおかげで、街の外へ出かけられるようになった。強力なモンスターはほとんどいなくなり、ガントバシウサギや二重瞼コウモリなど雑魚モンスターが少しずつ戻ってきているようだ。


「それにシャルから押し付けられ……貰った1億4000万ゴールドがあるしな。必要になったらスキル買うよ(´・ω・`)」


「そっか。じゃあ、私が戻ってくるまでに立派なスキル資産家になっていてね!」


「おk。任せておけ! 次会うときまでに立派な城、タナケンキャッスルを建てておくから!(´・ω・`)b」


「えー。流石にそれは無理でしょ」


「俺は約束を守る男だぜ!(´・ω・`)b」←有言実行した主人公


 こうしてシャルに五大スキルを譲渡した俺はスキル資産家の道へ歩むのであった。



 ********************************


 〜現代〜


「回想編3話でまとめるつもりが15話かかっとるがな!(´・ω・`)ノビシッ」


 ※次回より最終章突入!(予定)

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