第44話 おでんツンツン勇者
「あ、アンタがおでんツンツン勇者……!(´・ω・;`)」
おでんツンツン勇者は相変わらず俺達を睨み続けている。
炎上行為をしたという情報からDQNな見た目のヤンキーをイメージしていたが、外見は普通の20代前半の女性だ。顔も整っていて美形……でも目つきだけ怖い! なんで睨んでいるの!? 俺が結界壊したから!?(´;ω;`)
「えっと……おでんツンツン勇者さんはどうしてここに……あっ! 結界を直しにきてくださりましたのですか?(´;ω;`)」←怖くて変な敬語になってしまう主人公
「…………」
「へへへへ変なこと聞いてすみません!!!! ご気分を害したのでしたら焼きそばパン買ってきます!!!!(´;ω;`)」←チキンな主人公
「…………なきゃ」
「へ?(´;ω;`)」
「結界を塞がなきゃ街に帰れないの!!」
そう叫んだおでんツンツン勇者はわんわん泣き始めてしまった。
「うえーん! うえーん!」
「あ、あの……大丈夫ですか? 泣きたいのは俺の方なんですけど(´;ω;`)」
「全然大丈夫じゃなーい! うえーん!」
目をこすりながら号泣しとる。目つきが悪いだけで、泣いているところは普通に可愛いようにも見える。
「泣かないで。これ、あげるから」
奴隷の子はおでんツンツン勇者にチョコ棒を差し出した。
「ありがとう……ムシャムシャ(咀嚼音)」
「あ、食べるんですね(´;ω;`)」
ひくひく泣きながらチョコ棒をかじるおでんツンツン勇者……いろいろと思っていたのと違う(´・ω・`)
「ふむ……おでんツンツン勇者って女性だったんじゃな」
「ねー。私もビックリしたよ」
「いや、誰も知らなかったのかよ! 爺さんはともかくシャルは勇者に憧れているのになんで知らないんだよ!(´・ω・`)ノビシッ!」
俺がツッコミを入れると、おでんツンツン勇者はぐすんぐすんと泣きながら喋る。
「どうせ私のことなんか誰も知らないんだよ……ぐすんぐすん」
「え……あ……なんかごめんなさい(´・ω・`)」
「泣かないで。これ、あげるから」
奴隷の子はおでんツンツン勇者にキャンディを差し出した。
「ありがとう……ぺろぺろ」
「あの……おでんツンツン勇者さん、さっきの結界を塞がなきゃ街に帰れないってのはどういうことですか?(´・ω・`)」
「ひくひく……私の展開していた結界が破られたみたいで、街の人達に『お前がポンコツ結界を作るからモンスターに破られてしまうんだ!』『結界を直すまで戻ってくるな!』『おでんツンツン!』って言われて追い出されたんですぅー!」
「それは酷い……(´;ω;`)」←結界を破ったやつ
しかし、結界を直しに来てくれたのはありがたい。ドラゴン八兄弟の攻撃も跳ね返していたし、俺達がモンスターを食い止めなくてもおでんツンツン勇者だけでなんとかなりそうだ。
「せめて護衛をつけて! ……とお願いしても『おめーは結界専門の勇者だろ! 自分で身を守れるんだから一人で行け!』って言われて……もういい! おうち帰るー!」
「えぇ!? いやいや、おでんツンツン勇者さんが帰られたら困りますよ!Σ(´・ω・;`)」
「もうこのまま世界なんて滅亡すればいいんだー! うわーん!」
再び号泣するおでんツンツン勇者。いろいろめんどくさい!Σ(´・ω・;`)
「ピギィー! ピギィー!(泣くなよ。これ、やるかる)」
ウサ太郎はおでんツンツン勇者にニンジンを差し出した。
「ありがとう……ムシャムシャ(咀嚼音)」
ニンジンも食べるんだ……(´・ω・;`)
「どうせ結界を直しても『おでんツンツン』って言われるだけだし、もうどうなってもいいよ……」
「いやいや、それじゃ困るって!Σ(´・ω・;`)」
「そもそもなんでコンビニのおでんをツンツンしたのじゃ? 超勝ち組エリート職業である勇者だったのに、なぜあんな非人道的なことをしたのか気になるのぉ……」
「ひぐひぐ……私だってやりたくてやったわけじゃないわよ!!!!」
おでんツンツン勇者は地面に倒れ込んで、駄々っ子のように手足をジタバタさせて泣き喚く。本当に勇者だったの、この人(´・ω・;`)
「えぇい! 見苦しいわい! ひとまず全員、わしの家に来るのじゃ!」
こうして爺さんの家に集まった俺達はおでんツンツン勇者から事の経緯を聞いた。
********************************
「新たな勇者が決まりました!」
「ふぇ?」
おでんツンツン勇者は友達が勝手に応募した勇者グランプリ決定戦に出場した結果、なんと優勝してしまったそうだ。
勇者グランプリ決定戦は参加者によるバトルロワイヤルを行い、最後に立っていた一人が勇者になれる。
おでんツンツン勇者はルールすらわからないまま闘技場に立たされてしまい、襲ってくる他の参加者に怯えながら結界(オート反射機能付き)で守り続けた。次々に突っ込んでくる他の参加者は結界の反射機能によってどんどん戦闘不能に陥った。
そして、最終的に立っていたのはおでんツンツン勇者だった。
「わしは王様じゃ。素晴らしい試合を見させてもらった」
「あ、あの私なにもしていないんですけど……」
「そなたを新たな勇者として認めよう」
「いや、勇者になるつもりなんてないんですけど……」
「というわけで新たな勇者よ、今すぐ魔王を討伐してくるのじゃーーーー!!!!!!」
「え? え? ちょっと! ちょっと待ってー!!」
騎士団に街の外へ放り投げられたおでんツンツン勇者は一人で各地の魔王退治に向かうのであった。
『我は山の魔王にして岩石系最強モンスター、不死山だ! くらえ、勇者! 土砂降り岩石落とし!!!!! ……攻撃が跳ね返って!? ギャアアア!!!!!』
『オイラは海の魔王にしてウネウネ系最強モンスター、エンペラーヒトデ。勇者よ、死ねぇい! デスポイズンバブルシューティング!!!! ……攻撃が跳ね返ってき……ギャアアア!!!!!』
『俺様は天空の魔王にしてピヨピヨ系最強モンスター、レインボーフェニックスである。無謀な挑戦者に鉄槌を下す。色彩乱舞!!!!! ……俺様の攻撃を跳ね返しただと!? ……ギャアアア!!!!!』
次々と魔王を倒していったおでんツンツン勇者は久しぶりに故郷の村へ帰るのであった。
「沢山怖い思いをしたけど、みんなの役に立っているんだよね、私! きっと、故郷のみんなも歓迎してくれるよね! ただいまー!」
「…………」
「あ、あれ……? みんな、ただいまー!」
「……あんた、誰じゃ?」
「え……勇者ですけど……」
「勇者? あんたみたいな目つきの悪い勇者がいるわけないじゃろ」
おでんツンツン勇者は絶望した。数年間、一人で戦い続けたのに誰も自分のことを知らなかったのだ。
「そこの君! 私のこと知っているよね!!!???」
「うわっ! いきなり自分のことを有名人だと思い込んでいる目つきの悪い一般女性に話しかけられた!」
「冗談だよね!? 私、勇者なんだよ!? 勇者といえば子供のなりたい職業ランキング一位のアレだよ!? 知らないわけないよね!?」
「ハァ? お姉さん、いつの時代の話しているの?」
「え?」
「これ、見なよ」
村のちびっ子から渡された本を見て、おでんツンツン勇者は驚いた。
『将来なりたい職業ランキング』
一位:動画配信者
二位:勇者
三位:平日の昼間からビール飲んでいるおじさん
「なっ!? 勇者が二位!? そ、そんな……」
「俺達の間では勇者よりヒトキン(有名動画配信者)だぜ! じゃあね、目つきの悪いお姉さん!」
このことで絶望したおでんツンツン勇者は――動画配信者になることを決意するのであった。
「まずはどういう動画が人気なのか分析しなきゃね。ん? この人達の動画は凄い再生数だわ!」
『コンビニのアイスケースに入ってみたwww』
『コンビニの棚の上で寝てみたwww』
『コンビニの駐車場でピアノを演奏してみたwww』
「なるほど……コンビニに行って普段ではありえないような非現実的なことをして子供達にファンタジーをお届けする動画が人気なのね! 早速やってくるわ!」
早速、おでんツンツン勇者は近所のコンビニへ向かった。
「ラッシャイマセー!」←やる気があるんだがないんだが判別が難しいアルバイト店員
「せっかく動画を撮るのだから、他の配信者ができないようなオリジナルティー溢れる独創的でオンリーワンな動画にしたいわね……ん?」
そこで目に入ったのが、おでんだった。
熱々のおでん、素手で触れるのは危険である。しかし、おでんツンツン勇者の結界スキルなら触れることは容易である。
「これだわ! すみません! そこにあるおでんとおでんを温めている名前がわからない謎の装置をください!」
「うわっ! このバイト始めて40年だけど、おでんを温めている名前がわからない謎の装置を欲しがる客は初めてだ! て、店長ー! やべー客が!」
「どうした、アルバイト! なに!? おでんを温めている名前がわからない謎の装置を売ってくれだと!? 馬鹿言っちゃいけねぇよ! この謎の装置は長年、冬の時期に店を支えてくれていたエース、言わば俺達の仲間だ! 仲間を売れと言われて首を縦に振ると思ってんのか!?」
「これで足りるかしら(3億ゴールド)」←魔王討伐の報酬金
「お買い上げありがとうございます。実は店のスペースを圧迫して邪魔だったんスよね、この装置」
「店長!?」
おでんを温めている名前がわからない謎の装置ごと買い取ったおでんツンツン勇者は、店長に撮影許可を貰いつつ、そのまま店内で動画配信を開始した。
「きょ、今日は! コンビニのおでんをツンツンしたみたいと思います! では、ツンツン……ツンツン……(うふふ、これで私も人気者だわ)」
〜翌日〜
「どれどれ、昨日撮った動画の再生数は……5000兆再生!!!!! やっぱり私の考えは正しかったんだわ! コメントも沢山来ているみたいだし、英語も書かれているから外国人にも人気みたいね! 早速、読んでみよ」
『騎士団に通報しました』
『威力業務妨害じゃね? これ』
『コンビニのおでんが買えなくなった。どうしてくれる』
『ファッ⚪︎ユー』
『つーか、これ勇者じゃね?』
『うわ、調べたらマジだ!』
『やっていること魔王より酷くて草』
『ファック⚪︎ー』
『ほんと最悪。勇者になったのも承認欲求を満たすためだったのか?』
『今すぐ勇者やめろ!』
『こんなのが人間代表とか人間界の恥だわ』
『ファ⚪︎クユー』
『今日からお前はおでんツンツン勇者だ!』
その他、5億件に及ぶ非難とラインを超えた誹謗中傷のコメント……それを見たおでんツンツン勇者は……
「…………シュン」
普通に落ち込んで引きこもりになった。
********************************
「うっ……うっ……私なんか生まれてこなきゃよかったんだ……」
「まさか私が憧れていた勇者がそんな過酷な職業だったなんて……」
「うむ、思っていた数倍は店側に配慮していたし、なんだか可哀想じゃな……」
「いろいろツッコミどころ万歳だったけどな(´・ω・`)」
俺達が同情していると、おでんツンツン勇者は「うわーん! もうお家に帰るー! 帰って寝るー!」と叫び始めた。
「それは困る! 結界を直せるのはおでんツンツン勇者だけだ! 今すぐ湖に向かってくれ!(´・ω・`)」
「ちょっとタナケン! さっきの話聞いて、まだおでんツンツン勇者を働かせるつもり!?」
「いや、でもシャル、世界の危機が……」
「うむ。こんな弱りきった女性を戦地に向かわせるとはクソな主人公じゃ」
「……シュン(´;ω;`)」
シャルと爺さんに怒られた俺は邪魔にならないように部屋の隅で落ち込んだ。
「とはいえ、外に出るのは危険だからのぉ。しばらくはわしの家にいなさい。こういうときのために100年分の食料を蓄えていたのじゃよ」
「何百年生きるつもりだよ(´;ω;`)」
「ほれ、ここに食料が……アレ!? ないぞぃ!?」
爺さんは慌てて消えた食料を探すが、どこにもない。あるのはその食料が入っていたと思われる袋や容器だけであった。
「ムシャムシャ(咀嚼音)」
「お前さん、なにを食べているのじゃ」
爺さんはなにかを食べている奴隷の子に訊いた。よく見ると奴隷の子を囲うように袋や容器が散らばっている。
「いろいろ落ちていたから食べていたの」
「それはわしの食料じゃーーー! そもそもここはわしの家じゃ! 落ちてねぇだろじゃ!」
「ピギィー! ピギィー!(俺のニンジンまで食べやがって!)」
「ふわぁ……食べたら眠くなってきた。おやすみ」
「な、なんなんじゃ、このやりたい放題ガールは……」
爺さんは膝から崩れ落ちてしまい、「わしの年金で買った食料がぁ〜!」と無念の声を絞り出した。
そして、立ち上がり――
「おでんツンツン勇者や。本当にすまん、やっぱり結界を塞いできてくれんかのぉ」
「えっ……普通に嫌なんですけど……」
「なんじゃと!? なら今すぐ出ていけ! 不退去罪で訴えるぞ!」
「ひぃん!」
「あとお前らもじゃ! 出ていけ!」
こうして俺、シャル、奴隷の子、おでんツンツン勇者は外に放り出された。
「すやすや(寝息)」
「ひくひく……」
「泣かないで。未来の勇者である私がついているから」
…………(´・ω・`)
やれやれ、世界を救いに行きますか(´・ω・`)
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