第39話 勇者になれば

「はい、モンスター討伐した報酬ね」


「ありがと……少っ! 倒したモンスターの数より硬貨の枚数少ないし、全部1ゴールドだ!(´;ω;`)」


「仕方ねーだろ。まさか本当にモンスターを討伐してくるなんて思わなかったんだから」


 依頼人は開き直った態度で言う。


「なんだと!? あれだけモンスターを討伐したんだぞ! 15ゴールドはおかしいだろ!(´;ω;`)」


「本当に倒したんかねぇ?」


「なんだと!? 疑うのか!?(´;ω;`)」


「人類平等ライオン2000頭、人類滅亡クマ8000

頭、人類崩壊ラクダ15000頭……全てAランクの凶悪なモンスターだ。それを一日でこれだけ倒すなんて勇者でもない限り、不可能だ」


「ちゃんとドロップアイテムを25000個持ってきただろ! 森の奥に入った途端、毎秒30体ぐらいのモンスターに襲われて本当死ぬかと思ったぞ! つーかモンスター多すぎだろ!(´;ω;`)」


 俺が依頼人にブチギレていると、後ろから鑑定士がやってきた。


「ドロップアイテムの鑑定が終わったぞい。これがドロップアイテムの買取見積もりじゃ」


 鑑定士は300mぐらいありそうな長い買取見積もりレシートを依頼人に渡した。


「ほう……結構な額じゃねーか。仕方ない。分け前を少しだけお前らにやるか」


「当たり前だ! 俺達が命をかけて持って帰ったんだ! アレを見ろ!」


 俺が指差した先には、うつ伏せのまま地面に倒れて魂が抜けかけているシャルがいた。


「ドロップアイテムを持って帰るのを手伝ってくれたシャルだ! あんな疲れ果ててしまって……ウゥ(´;ω;`)」


「はいはい、わかったから報酬金受け取って早く帰れ!」


 依頼人から5万ゴールドを追加で受け取った俺はシャルと一緒に外へ追い出されてしまった。


「ほら、シャル。報酬の半分25000ゴールドだ。おまけの15ゴールドもあげるよ(´・ω・`)」


「ふふっ……これでご飯が食べられるね」


「ああ、でも既に夕方になってしまったし、俺はこれから宿を探さなければいけない」


「宿? そんなものないよ」


「え!? 宿ないの!?Σ(´・ω・`)」


「うん。だってモンスターが多すぎて町と町の移動が困難だから旅人なんて滅多に来ないし、数年前にビジネスホテルとか沢山潰れちゃったよ」


 この世界はビジネスホテルとかあるんか(´・ω・`)


「ということは今日からホームレスってこと!?(゚ω゚)」


「ふふっ、仲間だね」


「なにわろて……いや、シャルもホームレスなんかい!」


「というより私だけじゃないよ。ほら」


 シャルは建物と建物の間を指差すと、そこにはダンボールハウスがあった。しかもどの建物にもダンボールハウスが隣接されている。


 さらに噴水がある広場に連れていかれると、そこにはダンボールハウスが沢山あった。


「めっちゃホームレス多いやんけ(´;ω;`)」


「魔王の支配によって職を失った人達だよ。ホテルの運営者や従業員だけじゃなく、かつて冒険者だった人達も外を出歩けなくなって稼げなくなっているんだ」


「ほへー。とんでもない世界に来てしまった感(´・ω・`)」


「それにモンスターの生息域が急激に拡大しているから人間が住める地域も減ってきているんだ。建物も足りなくて、こんな冒険者ショック時代に突入してしまっているんだ」


 元の世界で借金に追われるのとどっちがマシだろう(´;ω;`)


「だからこそ、私が次の勇者になって皆を救わなきゃいけないんだ」


「……シャル、正直に言っていい?(´;ω;`)」


「うん? どうしたの?」


「シャルは勇者にならない方が良いと思う(´;ω;`)」


 俺がそう言うと、シャルは「ええええ?? どうして??」と驚いた。本当にわかっていないような顔をしながら。


「だってシャルは今日、モンスターを一体も討伐していないし、むしろ俺がいなかったら食べられていたから勇者になるのは無理だと思う(´;ω;`)」


「無理なんかじゃないよ。今日はたまたま調子が悪かっただけだし、まだ見せていないスキルが沢山あるんだよ。ほら、これとか」


 シャルの差し出した手から水がジャバジャバ出てくる。


「す、すげー! どんなマジックなんだ!Σ(´⊙ω⊙`)」


「どう? これが水ジャバジャバスキルだよ。凄いでしょ?」


 シャルは両手を腰につけてドヤ顔した。


「でも、それモンスター討伐には使えない気が……」


「とにかく! 勇者の結界が突破される前に私が新しい勇者になって世界を救わなきゃいけないの!」


 どうやら止めても無駄のようだ。良いやつなのはわかったけど、早死にしそうで不安だ(´・ω・`)


「つーか勇者の結界ってなに?」


「クビになった勇者が町周辺にかけた防衛魔法スキルだよ。結界があるうちは邪悪なモンスターが街に入ってこれないんだ」


「ほへー。突破される前に……ってことはやっぱりモンスターの力が強くなっていて破られそうになっている感じなの?(´・ω・`)」


「ううん。おでんをツンツンして炎上したから誹謗中傷が凄くて、勇者のメンタルが弱まって結界が崩壊しそうなの」


「自業自得じゃねーか!(´・ω・`)」


 俺が大声を出すと、地面から「うぅ……」と呻き声が聞こえてきた。


「ん? ってわぁあ!?Σ(´・ω・`)」


 地面に女の子が仰向けになって倒れていた。黒髪の女の子で顔は整っているが、みすぼらしい格好をしている。


「おなかすいた……」


 黒髪の女の子は掠れた声で呟くように言った。まるで天にお願いするかのように。


「大変! これを食べて!」


 シャルはポケットからチョコ棒を取り出し、黒髪の少女の口に思いっきり突っ込んだ。


「ムシャムシャ(咀嚼音)」


 チョコ棒を勢いよく食べる黒髪の少女。よく見ると、体は痩せ細っていて何日もご飯を食べていなかったことが窺える。


 そのときだった。突然、黒髪の少女が光り出した。


「!? 光った!?Σ(´・ω・;`)」


「スキルを習得したんだよ。タナケンもマッチョタンポポを習得したときに光ったでしょ?」


「え? あ、ああー! スキルね! 光った光った! めっちゃ光った!(´・ω・;`)」←話を合わせるために嘘をついて後々辛くなるタイプの主人公


 光が弱まると、黒髪の少女が目を覚ました。そのまま自分の体から光の玉を取り出した黒髪の少女は「なにこれ?」とシャルに見せる。


「体から光の玉が!?Σ(´・ω・;`)」


「スキル玉だよ。タナケンもマッチョタンポポ出せるでしょ?」


「え? あ、ああー! スキル玉ね! うどんの上にかけると美味しいよね! うどん屋でかけすぎて出禁になったことある!(´・ω・;`)」


 シャルは黒髪の少女が持っているスキル玉を難しい顔をしながら見た。


「どれどれ、これは『ドカ食い気絶スキル(レベル1)』だね」


「ふーん。じゃあ、しまっておこうかな」


 黒髪の少女が光の玉を体に戻すと、そのまま寝てしまった。


「こんなところにいましたか! って寝ているし!」


 サングラスをかけた男がやってくると、そのまま黒髪の少女を引きずりながら、どこかへ連れていこうとした。


「ゆ、誘拐だー!(・ω・;`)」


「誘拐? 違いますよ。これは売り物です」


「なっ……売り物だと!?」


「部外者には関係のないことです。さぁ、行きますよ! というか起きてください! ただでさえ売れ残っているせいで、食費の負担が半端ないことになっているんですから!」


 サングラスの男は黒髪の少女(起きる気配なし)を引きずって、その場を立ち去った。


「あれはニコニコ奴隷商会だね」


 シャルは暗い表情をしながら言った。


「奴隷……?」


「そう。こんな世の中でもお金やスキルを沢山持っている人間はいてね。格差社会となっているんだ」


「どの世界も格差があるんだね(´・ω・`)」


「うん。魔王が支配を強めてから沢山の人間が殺されたからね。親を殺されて孤児になった子供も多いんだ。あの子もきっと、そうなんだろうね……」


 シャルは手を強く握りしめながら言った。


「ああいう子を助けるためにも、今すぐにでも私が勇者にならなきゃいけないの」


 シャルは本気で勇者になろうとしている。その気持ちは確かなものだとわかった。実力はともかく(´・ω・`)


「勇者か……(´・ω・`)」


 俺が勇者になったら、この世界は救われるのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る