第38話 人類平等VSタンポポ

「嫌だーーーー!!!!(´;ω;`)」


「男の子でしょ。泣かないの」


 俺は泣き叫びながらシャルに足を掴まれて引きずられていた。


「ってかシャルロットだっけ? どうして君はそんな平気でいられるの?(´;ω;`)シクシク」


「シャルでいいよ。私ね、『勇者グランプリ決定戦〜勇者になるのは君だ!〜』に出場したいんだ」


「なんなの、そのふざけた名前のグランプリは(´;ω;`)」


「知らないの? 次の勇者を決める大会だよ。参加条件があってね、モンスターを沢山討伐した実績が必要なの」


 シャルはにっこりと笑みを見せつつ答えた。そんな彼女の見た目は10代後半ぐらいの女の子で、とてもモンスターを討伐できるような感じではない。細身でメリハリのある女性らしいシルエットをしている彼女がどうやってモンスターを討伐するのだろうか。


 でも自信に満ち溢れているし、めちゃくちゃ強いのかもしれない。


「シャルは今まで何体ぐらいモンスターを倒しているん?(´・ω・`)」


「一体も倒したことないよ」


「へ?(´・ω・`)」


「だから今日初めてモンスター討伐するんだ」


「……モンスターを沢山討伐しなきゃ参加できないんだよね? 今日から始めて間に合うの?(´・ω・`)」


「うん。ここ数年間、魔王の支配が強まっていて勇者のパーティしか生きて帰ってこなかったし、次の大会は一体倒しただけでも不戦勝で勇者になれるんじゃないかな?」


「……不戦勝とかの前に俺達も帰ってこれないパターンじゃね?(´;ω;`)」


 俺は再び「嫌だー! 帰るー! 家ないけど帰るー!(´;ω;`)」と泣き叫んだが、シャルは「あはは、大丈夫だって」と笑いながら俺を引っ張りながら森の中へ入っていく。


「離してー! 死んじゃうー! ……ん?(´;ω;`)」


「タナポン、どうしたの?」


「タナポンちゃう! タナケンや!(´・ω・`)」


「ふふっ、変な名前だね」


「なにわろてんねん……じゃなくて向こうからなんか嫌な感じがする(´・ω・`)」


 俺は茂みの方を指差しながら後退りする。シャルは呑気な声で「んー? なにもいないよ?」と言って茂みに近づこうとするので、服を引っ張った。


「ハッ!!!!!! 危ない!!!!!!Σ(´・ω・`)」


「キャッ!」


 咄嗟にシャルを抱き抱えて地面に伏せた。


 俺達が立っていた位置に大きなライオンが飛びかかっていた。熊の次はライオンかよ!Σ(´・ω・;`)


 そのまま大きなライオンは数メートル先に着地して振り返り、「グルル……」と牙を剥きながら俺達を見た。小学生の頃に動物園で見たライオンより三倍ぐらい大きいし、目が充血していて超怖い。


「ぐえ〜……タナケン、重たいよ」


 下から弱々しいシャルの声が聞こえてくる。よく見たら押し倒すような形になっているし、目が合って気まずい(・ω・;`)ソワソワ


 シャルを起こしつつ、彼女よりも一歩前に出てライオンから守ろうとする俺。


『ガオーーーー!!!!』


 二歩下がってシャルの後ろに隠れる俺。


「あのモンスターは……」


「シャル、目の前にいる超怖いライオンを知っているのか!?」


「うん、アレは人類平等ライオンだよ」


「人類平等ライオン?(・ω・`)」


「男も、女も、子供、老人も、全て食べちゃうライオンだよ」


「ただのお腹空かせたライオンじゃねーか!(´;ω;`)」


 人類平等ライオンはこちらを睨みつけたまま飛びかかるタイミングを窺っているようだ。どう考えても逃げられないよな、足の速さ的に。


「タナケン、そんなに怯えなくて大丈夫だよ」


 ガクブルな俺にたいして、シャルはにっこりと微笑んだ。


「シャル……あのライオンに勝てるのか?」


「任せておいてよ。とっておきのスキルがあるんだ」


 そ、そうだよな。丸腰でモンスター討伐しに来る奴なんていないよな(・ω・;`)←丸腰な主人公


「炎ボーボースキル(レベル1)!」


 シャルが叫ぶと、手から炎が吹き出た。


「手から炎!? どんな仕掛けなんだ!Σ(´・ω・;`)」


 シャルは両手で炎をこねるように丸めて、炎の玉を作った。野球ボールぐらいの大きさで、メラメラと燃えている。熱くないのだろうか。


「くらえ! シャル・インフェルノ!」


 シャルは野球ボールのように炎の玉を投げた。思いっきり投げたせいか、シャルはその場でクルクルと回転し始めた。


 炎の玉は人類平等ライオンがいる方向……ではなく、かなり高めに飛んだ。追尾機能があるのかと思ったが、そんなことはないまま落下し、奇跡的に人類平等ライオンの頭に落下した。


『ガウ?≡・ェ・≡』←人類平等ライオン


「全然効いてねー!!!!!(´;ω;`)」


 人類平等ライオンは「なにかぶつかったのか?」と首を傾げている。1ダメージも入ってなさそう!


「おい、ヤバいんじゃないか! ってシャル!?」


 シャルは仰向けになって倒れていた。目がぐるぐる回っている。どうやらシャル・インフェルノを放った反動で、目が回って気持ち悪くなっているようだ。


「ふふっ……ここまでのようだね……」


「諦めるの早ッ!?(´;ω;`)」


 俺はシャルを揺さぶって「なにか他に手がないのか!?」と訊くが、シャルは「ふふっ、吐きそう」しか言わなかった。なにわろてんねん。


『ガオーー!!!!!』


「わわっ!Σ(´;ω;`)」


 人類平等ライオンはオドオドしている俺を睨みながら、ジリジリと近づいてくる。


「逃げて……タナケンだけでも逃げて」


「シャル……」


 相手は人類平等ライオン。おそらく平等に食べるはずだからシャルが餌になっているうちに逃げられるかもしれない。いや、平等なら俺も追いかけて二人一緒に食べられてしまうのか。平等ってなんだ(哲学)


 しかし、仮に逃げられるとしても女の子を見捨てていいのだろうか。


 そういえば、子供の頃にこういう場面をよく妄想していたっけな。誰かがピンチになっているところを俺が救う、ヒーローみたいな活躍をする妄想。子供の頃はよく特撮とか見ていたから憧れていたんだ。


 でも現実でそういう場面に遭遇することなんてないし、そもそも俺にそんな力なんてない。


 もちろんモンスターとか怪人などから人を守ることはなかったけれど、単に人助けしたことなら何度もある。でも裏目になることも多いし、裏切られることも多い(・ω・`)←不動産投資で騙されたばかりな主人公


 ただ走って逃げるだけでいい。


 現実はそれでいいのだ。


 それなのに――


「ちくしょー! かかってこいやー!(´;ω;`)」


 俺は人類平等ライオンに向かって啖呵を切っていた。


「タナケン、無理だよ。シャル・インフェルノが通用しない相手なんだよ。逃げて」


 後ろからシャルの声が聞こえるが、俺は逃げるつもりはない。いや、めっちゃ逃げたいけど、逃げたら俺じゃなくなってしまう気がする。あとシャル・インフェルノは通用しない相手の方が多そうな印象。


『ガオーー!!!!』


 俺に飛びかかってくる人類平等ライオン。


 それが俺の見た最後の光景――になるはずだった。


 バキッ! バキッ!


 人類平等ライオンの牙は俺の腕を突き刺すことなく、折れた。それどころか人類平等ライオンの全身が切り刻まれ、血飛沫が飛び散る。結構グロい(´;ω;`)


 そのまま人類平等ライオンは倒れて、「ボン!」と煙になって消滅した。


「へ?(´;ω;`)」


「今のなに!? 凄いよ! タナケン!」


 シャルは目を輝かせながら俺に抱きついてきた。当たっている! なんか柔らかいのが当たっている!(´;ω;`)←感情が追いついていない主人公


「そういや、熊に襲われたときも無傷だったような」


「えー凄い! なんのスキルなの!?」


「スキル? いや、俺はそんなもの持っていないよ(・ω・`)」


「そんなわけないよ! 噛まれたのに無傷どころか自動カウンターが発動するなんて凄いスキルだよ!」


 自動カウンターってなんだ???(´・ω・`)


「なにかスキルを手に入れた心当たりないの?」


「心当たりか……」


 俺は記憶を遡ってみる。


 ライオンに襲われ、シャルに出会って、ハ⚪︎ワみたいなところに行き、熊に襲われ、ウサギを見つけ、異世界転移し、五大スキルを貰い、銀髪の女性と出会い、トラックに轢かれ、おじさんをポコポコ殴り、借金を背負い――


「ハッ! そういえば!」


「なにか思い出したの?」


「俺、タンポポのせ工場でおばちゃん達に『アンタ、筋肉あるわね』って褒められたことある!(´・ω・`)」


「タンポポのせ工場?」


「俺が前に勤めていた会社だよ! 毎日タンポポのせていたから地味に右腕だけ筋肉ついていたんだ!」


「よくわからないけど、そこで習得したスキルなんだね! 名前はなんていうの?」


「スキルの名前……マッチョタンポポかな(´・ω・`)キリッ」←ネーミングセンスなし


 その後、俺達は何度も凶悪なモンスターに襲われ、マッチョタンポポスキル(そんなものはない)によるカウンターでモンスターを討伐しまくったのであった。

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