第32話 勇者と密会(?)

 夜21時前。


 俺は再び戻ってきたマイホーム、タナケンハウスを出てシャルとの待ち合わせ場所に向かう。


 昨日、タナケンキャッスルを失った俺はすぐに大家さんにヘルプミーして、「てめぇ! 『我々はセレブになったのです。二度とあんなボロボロな家に住みませんよw』とかほざいて出ていった癖にノコノコ戻ってきてんじゃねぇー!」とブチギレられつつも土下座&靴舐めで、なんとか許してもらえた。タナケンキャッスルに引っ越す前に1億ゴールド渡していなかったら危なかったな。でも、これからの家賃どうしよう(´・ω・`)


 シャルとの約束の場所には俺一人で向かう。アイリは良い子だから20時前には寝るし、クロはドカ食い気絶スキルで夕飯を食べたらそのまま寝てしまう。二人の寝顔を確認してから俺はタナケンハウスを出てきた。ちなみにクロはサイン入りバケツを抱えながら寝ていた。シャルにサインを貰えたのがよほど嬉しかったんだな(´・ω・`)


 約束の場所は前にクロと行ったファミレスだ。


 はたしてシャルは来るのだろうか。今夜としか言っていなかったから何時に来るのかわからないし、そもそも既にシャルが来た後かもしれない。俺達の約束はいつも適当なのである(´・ω・`)


 シャルは俺がこの世界に転移してきて一番最初に出会った人物であり、ホームレス仲間だった。俺達は日雇いバイトで貯めた金を合わせて今のタナケンハウスをギリギリ借りることに成功し、一年くらい二人で暮らしていた。


 その後、シャルは勇者グランプリ決定戦に出場して勇者となり、今は各地の魔王を倒すため世界中を旅している。俺はシャルについていかず、タナケンハウスで留守番をしており、その後なんやかんやあって今に至る。


 しかし、シャルと会うのは久しぶりだし、なんだか緊張するなぁ(´・ω・`)


「だーれだ!」


「うわぁ!」


 後ろから突然目隠しされてしまい、本気でビビる俺氏(´;ω;`)


「驚かすなよ、シャル」


 俺は目隠ししてきた手をどけて後ろを振り返ると、そこには舌を出して反省の素振りを見せないシャルがいた。


 シャルは勇者として鎧を身に纏っていることが多いが、今目の前にいる彼女は変な柄のTシャツを着たラフな格好だ。


「来てくれたんだね」


「久しぶりに帰ってきたんだから来るさ」


「え〜なにそれ〜、私に会いたくて寂しかったってこと?」


 シャルは「このこの〜」と言いながら俺の脇腹を肘で突いてくる。


「そ、そんなんじゃねーよ! クソ勇者!Σ(・ω・;`)」


「また照れちゃって〜」


 俺はシャルに引っ張られながらファミレスに入った。ウェイトレスも店内にいる客もシャルをチラチラ見ていたが、特に話しかけてくる人物はいなかった。ま、勇者がこんなラフな格好でファミレスに来るとは思うまい。おそらく勇者に似ている人だと思われている。


「じゃあ、再会を祝してかんぱ〜い!」


 俺とシャルは店内の隅っこで乾杯した。俺がアイスティーで、シャルはオレンジジュース。


「昨日は助けてくれてありがとうな」


「ビックリしたよ。街に帰ってきた途端に『ご主人様を助けてくれー』なんて言われたから助けに行ったら、まさかタナケンがご主人様だったなんてね」


「今は無職だけどな(´;ω;`)」


 いや、でも助かっただけ良かった。今こうしてファミレスでアイスティーを飲んでいられるのもシャルのおかげだ。


「にしても、ここら辺にもハイパーレジェンドアルティメットドラゴンが出るなんてね」


「え? あの翼が生えたドラゴンってそんな強そうな名前だったの?」


「タナケン知らなかったの? 準Sランク指定されている高ランクモンスターだよ」


 そりゃ騎士団も勝てないわけだ(´・ω・`)


「少し前にも人類皆殺しドラゴンに襲われたし、ここら辺もまた物騒になってきたなぁ……」


「ここ最近は魔王が次々と誕生しているからね。その度に私達が討伐しに行かなきゃいけないから大変だよ」


 シャルは「誰か褒めてくれたらな〜」と俺の方をチラチラ見てくる。


「すごいすごい(´・ω・`)」


「ちょっと〜! もう少し真面目に褒めてよ! 世界救っているんだから!」


「勇者になりたいって言い続けていたのはシャルだろう? 『誰かが傷つくぐらいなら自分が傷ついた方がマシだ』ってカッコいいこと言っていたじゃないか」


 タナケンハウスで同居していた頃はよく夢を語り合っていた。いつもシャルは勇者になるといつも目を輝かせていた。ちなみに俺は不労所得で暮らすプーさんになると語りながら目を輝かせていた。


「はいはい、勇者になれたのはタナケンのおかげですぅー!」


 シャルは口を尖らせて不満げに言う。これが歴代最強と噂されている勇者だ。


「俺のおかげ? シャルが望んだからだろ」


「普通は望んだって勇者になれないよ」


 シャルがコップをテーブルに置いてから数秒間、沈黙が流れた。


「やっぱり何個かスキル返した方がいいかな?」


 シャルは俺の顔を見ながら、そう言った。目が合った俺はすぐにアイスティーへと視線を逃す。


「いいって。前にも言っただろ。あのスキルは全部やるって」


 勇者グランプリ決定戦が開催される少し前、俺はシャルに五つのスキルを譲受した。この世界に転移する直前、銀髪の女性から押しつけられた五大スキル、その全てをシャルにあげた。


 そう、シャルの強さは五大スキルによるものである。


「でも、今回は私が駆けつけたから良かったけど、また強力なモンスターに襲われたら死んじゃうかもしれないよ? 私にスキルを渡していなければ、あのドラゴンだって余裕で倒せたのに」


「そりゃたまに必要な場面はあるけど、それでシャルが弱体化したら大変だろう? 今となってはシャルは英雄だ。その英雄が魔王に負けることは絶対に許されないし、常に圧勝し続けなくてはいけない」


 俺は珍しく真面目な顔で言う。


「もう少し勇者としての自覚を持つべきだ」


 それを聞いたシャルは不満げな顔をしてから「ふふっ」と笑った。


「つまりタナケンは私のことが心配なんだ?」


「は、ハァ!? なんでそうなるんだ! 俺は勇者として……」


「タナケン、顔真っ赤だよ〜」


「ば、馬鹿! そんなんじゃねーし!Σ(´・ω・;`)」


 ニヤニヤするシャルと、あたふたする俺。


「私にあげたスキルがあれば、またお城だって建てることできるのにね〜」


「うっ……! お、俺にだってプライドがあるんだ! わけわからん奴から受け取ったスキルで不労所得になるのはやり甲斐がないからな! 嘘じゃないぞ!」


「え〜タナケンってそんなプライドあったんだ〜。へ〜知らなかった〜」


「棒読みやめろ(´・ω・`)」


 それからシャルから旅の話を聞き、俺はクロとアイリのことを話したりして久しぶりの会話を楽しんだ後、店を出た。


「それで次はいつ旅立つんだ?」


「まだ決まっていないよ。しばらくはここにいるつもり」


「そうか。ゆっくりしていけよ」


 お互いに「じゃ、また」と手を振り、俺達は別れた。


 長旅だったから不安だったが、元気そうで良かった……いてっ!


 誰かに背中を叩かれ、俺は後ろを振り返る。


 そこには頬を膨らませたアイリが立っていた。


「あ、アイリ!? どうしてここに!?」


「なにも言わずに家から出ていったからついてきたのよ」


 プイッと拗ねるように言うアイリはやっぱり機嫌が悪そうだ。


「どうしたんだ、アイリ。機嫌が悪いようだけど……」


「あなたは勇者様と会話できて良かったわね! あんなデレデレしちゃって!」


「なっ……! デレデレなんかしていないぞっ! 俺はいつも通り、クールに振る舞っていたはずだ!Σ(´・ω・;`)」


「鼻の下を伸ばしておいてクールなわけないじゃない!」


 え、そんな顔していたの、俺(´・ω・`)


「私なんて返事を貰っていないのに!」


「返事? なんの?」


「っ〜〜〜! もういい!」


「どうしてそんなに怒るの(´;ω;`)」


 俺は激おこぷんぷん丸なアイリにポコポコ叩かれながらタナケンハウスへ帰った。

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