第31話 勇者の帰還

「うおおおおお!!! 勇者だ!!!」


 久しぶりに故郷に帰ってきた勇者ことシャルは相変わらず大人気で、その姿を一目見ようと街は大賑わいだ。


 大通りでパレードが開かれており、中央を歩く勇者一行が手を振りながら王様のいる城へ向かっていた。


「キャー! 勇者様よー!」


「やっぱり勇者は綺麗だなー」


「今、俺を見たぞ!」


「馬鹿! 俺を見たんだ!」


 民衆からは黄色い歓声が上がる。あの勇者、俺の知り合いなんですよー! チラッチラッ!


 俺は勇者の知り合いアピールを心の中でするが、当然みんな勇者一行に夢中で、俺のことなんぞ眼中にない(´・ω・`)


 ちなみに俺はパレードが行われている大通りをクロとアイリと一緒に物乞いしながら歩いている。


「誰か……救いの手を……」


 俺は死にかけの表情で同情を誘うが、誰も相手にしない。ただ、少し離れたところで歩いているアイリには同情してくれる人がいるようで、物乞い用のバケツにお金が入るところを何度か見た。俺のバケツには空き缶とかゴミしか入っていない。俺は清掃ボランティアじゃねーぞ!


 昨日まで一生困らない生活を送っていたというのになんてザマだ。キャサリン含むメイド、騎士団、シェフ、その他雑用係は金を失った俺を見限って、どこかに行ってしまったし、何も残っていない(´;ω;`)


「お兄さん、これ捨てといて」


 若い女性が俺のバケツにビールの空き缶を投げてくる。だから俺は清掃関係じゃねー!(´・ω・`)


「タナケン、そっちはどう?」


 アイリがこちらにやってくる。彼女が抱えているバケツには札や硬貨などが入っており、数日間は食べ物に困らなさそうだ(※)。


(※クロが我慢してくれる前提)


「俺はこんな感じだ」


「なにそれ、ゴミ箱じゃない!」


 ゴミ箱だよ(´;ω;`)


「悪いな、アイリ……俺についてきたせいで、こんな惨めな生活を送らせてしまって……」


「気にしてなんかいないわよ。むしろ、やり甲斐があっていいわ」


「アイリ……(´;ω;`)」


 そうだ、俺にはアイリとクロが残っている。ここからまた這い上がっていけばいいのだ。


「そういや、クロはどこにいったんだ」


「あなたと一緒じゃなかったの?」


 俺とアイリはクロを探しながら大通りを歩くと、勇者一行に追いついたようで民衆を縫うように進む。


「貴様! 勇者様に無礼だぞ!」


 パレードが行われている中央から声が聞こえた。民衆を騒ついており、なにかあったようだ。俺は慌てながら人を押し退け、声のした方へ向かう。


「貴様、そこを退け! 勇者様は忙しいのだ!」


 どうやら誰かが勇者一行の前に立ち塞がっているようだ。ちょうど勇者を護衛している騎士団の男が槍を向けて追い返そうとしていた。


 なんだ、ただファンが近づいただけか……。ま、シャルなら暗殺者とか送り込まれていても返り討ちにできるだろうし、心配して損したぜ。


 一体、どんな奴が立ち塞がっているんだろうな(´・ω・`)


 俺は勇者の前に立ち塞がっている不審者を見た。


「このバケツにサインちょーだい! 『クロちゃんへ』って書いて!」


 そこにはぴょんぴょん飛び跳ねながら、シャルにサインを強請るクロの姿があった。


「アイツ、なにやってんだ!?」


 俺はすぐに駆け寄ってクロを勇者一行から引き離す。


「おい、パレードの邪魔になるだろ!」


「タナケン離してー! サイン貰うのー! 『クロちゃんへ』って書いてもらうのー!」


 じたばたと暴れるクロ。そんなバケツにサイン貰ってどうするんだ。


「貴様! 奴隷の主ならしっかり見張っていろ!」


「すみません! すぐに退きますので!」


 騎士団に怒られちゃったよ(´・ω・`)


「サインー! 書いてー!」


 じたばたするクロは手に持っていたバケツを落とし、コロコロと転がったバケツはシャルの足に当たる。


「貴様! 勇者様になんてことを!」


「ひぃ!」


 騎士団に槍を向けられて両手をあげる俺。


「いいよ、サイン書いてあげる」


 俺の情けない姿を見たシャルはそう言って、足元にあるバケツを拾った。


「ゆ、勇者様!? 宜しいのですか!? こんな小汚い乞食どもにサインを書くだなんて!?」


 相変わらず、ひでぇ言われようだ(´・ω・`)


「サインでしょ? いいじゃん、それくらい」


 シャルはにっこり微笑む。


「わーい! 書いて書いて! 『クロちゃんへ』って書いて!」


 クロはぴょんぴょん飛び跳ねながら、ポケットから出したマジックペンをシャルに渡した。


「ふふっ、書きづらいね」


 微笑んだままバケツにサインするシャル。優しいところは昔から変わっていない。


「勇者のサインだー! 『クロちゃんへ』って書いてあるー! ありがと! 大切にするね! うひょー!」


 クロはサイン入りバケツを抱えて、テンションアゲアゲで飛び跳ねる。


「ありがとうな、シャル」


 俺はスーパーボールのように飛び跳ねるクロを捕まえて、シャルに礼を言って立ち去ろうとする。


「別にサインぐらいいいよ。あ、そうだ。今夜いつもの場所に来て」


「えっ……」


 俺はシャルの言葉に振り返り、目が合う。相変わらず、昔と変わら……ぐべぇ!!!


「勇者様! 俺にもサインください!」


「私も! 私もー!」


「貴様ら! 勇者様に近づくな!」


 民衆がサインを求めてシャルに向かってきて、思いっきりぶつかった俺とクロは彼方遠くまで突き飛ばされてしまった。上空100mぐらいから落下するとき、シャルは笑顔で「一列に並んで」とサインに答えていた。


 フッ、シャルのやつは昔から変わら……ひゅ〜ドカン!(地面に落下した音)

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