第30話 タナケン、死す(死なない)(二回目)
『ギャウオオオオン!!!!』×2
ドラゴン2頭の咆哮により、俺とアイリは耳を塞いだ。鼓膜が破けるかと思ったぜ……って気絶しているクロを忘れていた。大丈夫か、お〜い。
クロのほっぺを痛くない程度に往復ビンタしていると前と後ろからドラゴンが迫ってきた。
「きゃあ!」
アイリは悲鳴を上げながら両手で頭を抱えて地面に伏せるが、どう考えても食べられてしまうのがオチだ。
俺は地面に散らばっていたプレミアムチョコ棒(くす玉に入っていたやつ)を拾い、クロの口に突っ込んだ。
「頼む! クロ、起きてくれ!」
「……!! ムシャムシャ……デリシャス」
クロは仰向けのままムシャムシャと口を動かしてプレミアムチョコ棒を食べる。
「クロ! ドカ食い気絶(レベル5)を出してくれ!」
「もう一本食べたい」
「ほら、やるよ! だから早く出してくれ!」
「デリシャス、ムシャムシャ」
クロから受け取ったドカ食い気絶(レベル5)のスキル玉をドラゴンに見せびらかすように持ち上げた。
『ギャウオオン!!!???』×2
腐ってもレベル5スキルだ。スキル玉の発する光は昼間の太陽すら薄暗いと感じるほど眩しい。
「って俺も眩しい! なにも見えない!」
「ムシャムシャ……タナケン!? ドラゴンが2匹いるよ!?」
「今頃、気づいたか! サングラスをかけているのはお前だけだ! ひとまず俺とアイリを連れて隠れられそうなところに誘導してくれ!」
「ひょえ〜!」
俺とアイリはクロに引っ張られて、さっきまで城だった大きな瓦礫の裏に身を潜めた。スキル玉をクロの体内に戻して少し経ってから視界が元通りになった。
前回はガントバシウサギが囮になってくれたから逃げ切れたが、今回は逃げ切れる自信がない。今回は2頭いるし、クロというお荷物を抱えて逃げるのは不可能だろう。
「まだ近くにいるわよ。どうするのよ(小声)」
アイリは不安げに俺の腕を揺らす。
「このまま見つからずにドラゴンがどこか行くのを待つしかない(小声)」
「でも、私達を探しているみたいよ?(小声)」
チラッとドラゴンの方を覗いてみると、地面に鼻をつけて犬みたいに嗅ぎ回っている。少なくとも飛び立つような感じではない。
「くっ……(小声)」
「助けを呼んでくれればいいんだけど……(小声)」
アイリは泣きそうな声で呟くように言った。
「残念だが、それは厳しい(小声)」
「どうして?(小声)」
「俺の雇った騎士団は全員、Aランクモンスターを討伐したことがある実力者のみで構成していた。その30人ですら傷一つつけられずに逃げたんだ。アレを討伐できる奴は街にはいないだろう……(小声)」
「そんな……(小声)」
あのドラゴンは知能がないだけで魔王クラスに匹敵しているのかもしれない。一体、なんなんだ。
俺は久しぶりにモンスター図鑑を取り出して、あのドラゴンが載っていないか確認してみる。……全然見つからない。
『これからも冒険は続く! まだまだ未知のモンスターが君を待っているぞ!』
ダメだ、最後まで読んだがゲームソフトと同時発売するタイプの攻略本の後ろらへんに書かれているような内容で終わってしまった。
「私達、ここで死んじゃうのかしら……(小声)」
「な、なに言っているんだ、そんなわけ……!?(´;ω;`)」
俺とアイリが震えながら縮こまっていると、また暗くなった。ぽたっと水滴が落ちてきたが雨ではない。横を見ると、既に上を見上げたクロが口から泡を吹いていた。
上を見上げると、ドラゴンさん達と目が合った(^ω^)
『ギャウオオオオン!!!!』×2
「うわああああああ!!!!!」
俺とアイリは瓦礫の陰から飛び出て逃げる! あ、クロを忘れてきた! 俺は一度瓦礫に戻ってからクロを背負って逃げる!
後ろから迫りくるドラゴンの足音。俺のすぐ横を火球が通り過ぎていき、城の残骸に直撃して瓦礫となって崩れ落ちてくる。
「きゃあ!」
「あぶ……! げふっ!」
瓦礫を回避しようと急に止まろうとしてバランスを崩してしまった。俺は盛大に転び、背負っていたクロも落ちてしまった。クロはころころと転がりながら瓦礫に当たった衝撃で、再び目を覚ました。
「あ、ここにもプレミアムチョコ棒落ちてた!」
ムシャムシャと食べ始めるクロ。そんな彼女を俺は引っ張って逃げようとする。しかし――
『ギャウオオオオン!!!!』
一頭が飛び、俺達の行く手を阻むように先回りしてくる。再び挟み撃ち状態になってしもうた(´;ω;`)
「クロ! もう一度、ドカ食い気絶スキルを出してくれ!」
「ムシャムシャ……はい」
俺は再びスキル玉をドラゴンに向けて……ん? なんか光弱くない? 部屋の照明より少し明るい程度にしか光ってなくね?(´・ω・`)
「クロ、これドカ食い気絶スキル(レベル5)で合っている?」
「合っているよ、ムシャムシャ」
「なんか光弱くない?」
「さっき光ったからバッテリー切れなんじゃない?」
スキル玉の意味深な光にバッテリー切れとかあるのね(´・ω・`)
『ギャウオオオオン!!!!』×2
2頭のドラゴンは吠え合い、口を大きく開いた。真っ暗な奥から火花らしきものが見えて、どんどん派手になっていく。どうやら火球を放とうとしているようだ。
「タナケン……」
アイリが俺の手を掴んでくる。
「実はね、私、タナケンのことが好きだったの!」
「アイリ!? 急に何を言っているんだ!?」
「ヤバヤバの森まで私を助けに来てくれるなんて思わなくて……最期にちゃんとお礼と気持ちを言いたかったの」
「気持ちは嬉しいけど! 今そんな死亡フラグ的なこと言わないで!(´;ω;`)」
死を覚悟してシクシクと泣き始めるアイリ。俺も泣きたいよ(´;ω;`)
「クロも! クロも!」
クロがぴょんぴょんと飛び跳ねて自分もなにか言いたいとアピールしてくる。
「クロ……お前も俺に言いたいことがあるのか(´;ω;`)」
「クロもタナケンが使ったカレーが好きだったの!」
「ううっ……辛口出してごめんね(´;ω;`)」←今更謝る主人公
俺達は逃げることを諦め、三人で抱き合った。
『ギャウオオオオン!!!!』×2
ドラゴンの口から火球が放たれ、俺は目を瞑った。
「俺達は来世もズッ友だョ。。。(´;ω;`)」
ドッカーン!!!!!
凄い音がした。火球が城の残骸に当たって爆発した音。……ん? 俺達生きている?(´;ω;`)
俺は顔を上げると、そこに一人の少女が立っていた。
同い年ぐらいの長い銀髪の少女。マントのついた鎧を身に纏いつつも華奢な姿。虫すらも殺さないような柔和な顔つき。
「もう大丈夫だよ」
少女はそう笑ってからドラゴンに飛びかかった。いや、飛びかかったと思う。早すぎて一瞬にして彼女の姿が消えたのだ。
数秒後、彼女の姿を再度目視したときには既にドラゴンが細切れになっていた。
『ギャウオオオオン!!!!』
もう一頭のドラゴンが怒り狂い、空へと飛び立つ。逃げたわけではなく、上空から勇者に向けて火球を何発も打ち込んだ。
しかし、勇者は軽く剣を一振りしただけで衝撃波が生まれ、火球を全弾打ち消し、そのまま上空にいたドラゴンが真っ二つになり、雲が割れて、宇宙まで飛び出た衝撃波は太陽すらも切り裂いた。いや、やりすぎだろ(´;ω;`)
「怪我はない? タナケン」
少女は俺の名前を呼びながら手を差し出す。クスッと笑った顔はこの世界に来て、初めて会ったときから変わらない。
「……帰ってきたのか、シャル」
シャルロット――俺の友達であり、世界最強の勇者だ。
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