第24話 タナケン、散る

「第二回戦はこれだー!」


 MCが叫ぶと、モニターにラーメンが表示された。


「ジャイアントラーメン30杯早食い対決ー!!!!!!」


 ドンドン! パフパフ!(太鼓とかラッパとかそういう感じの音)(二回目)


 うげー! ラーメンは流石にキツそうだ。しかも30杯って本当に二回戦なの、これ。


「こちらがそのラーメンとなります!」


 MCの前に運ばれてきた、どでかい丼。海苔の大群が丼を一周しており、その中にはもやしが山積みされている。もやしの隅っこには分厚いチャーシューが5枚、うずらが20個ぐらい乗っていた。見えないが、多分その下にヤバい量の麺が眠っているのだろう。


 いや、一杯すら食べ切れるか怪しんだけど! ハンバーガー10個食べた後に食べさせる物じゃねぇ! つーか、ハンバーガーも10個食べるような物じゃねぇ! あんなの食べたら一ヶ月ぐらいは健康診断に行けないぞ!


「では、ミンミンちゃんに味見してもらいましょう!」


「わ〜美味しそ〜」


 うわ、なんか茶番が始まった。


「ウルトラ美味しい〜!」


 ミンミンはうずら一個を食べて大袈裟に反応する。その間に参加者のテーブルにラーメンが次々と運ばれてくる。


「私、お腹いっぱいですぅ〜!」


 まだうずら一個しか食べてないだろ。なに食べた食べたと満足げな顔しているんだよ。もやしとかの下がどうなっているのか教えてくれよ。


「じゃあ、参加者の皆さんはミンミンちゃんの代わりにジャイアントラーメンを完食してください! それでは第二回戦スタート!」


 いきなり始まりやがった。えーっと、こういう二◯系ラーメンはどう食べるんだっけ。確か麺が伸びてしまうから、先にもやしとかどかして……いや、盛りすぎでどかせねぇ!


 キョロキョロと周りを見回すが、他の参加者も苦戦している。そりゃハンバーガー10個食べた後だもん。みんな苦しいよね。


「おおーっと!? なんだあの少女は!」


 突然、MCが声を上げてモニターに一人の少女が映し出される。


 映し出されたのは――クロだった。


「一人だけ物凄い勢いで食べている女の子がいるぞ! 一体彼女は何者なんだー!」


 モニターに映し出されたクロは、箸を使わずに丼を持って、そのまま啜っている。肉もうずらも全て麺みたいに啜っていた。まるで掃除機のように吸い込まれていくラーメン……いや、どうやって食べているんだよ、アレ。


 しかし、クロが頑張っている(諸説あり)んだ……。俺も弱音を吐いている場合ではない! 必ず優勝して滞納金を返済するんだ!


「うおおおおおお!!!!!!!」


 俺は全身全霊の雄叫びを上げて、ラーメンに食らいついた。



 ********************************


 〜それから30分後〜


「おぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!!!!」


 俺は会場の隅っこでスタッフさんが用意してくれたバケツに吐いていた。食事中の人、ごめん。


「大丈夫?」


 アイリは心配しながら俺の背中をさすってくれて、少しだけ落ち着いた。


「くっ……あと少しで10杯いけたんだ……! 海苔が喉に詰まらなければ俺は三回戦に……!」


「なに言っているのよ。そんな状態で進んでも勝ち残れるわけないじゃない」


 アイリは「最初からクロに任せておけばよかったのよ」と身も蓋もないことを言う。正論ではあるけれども。


 結局、二回戦で敗退してしまった俺はアイリと一緒にクロの応援に回るしかなかった。


「なんと! 三回戦ジャイアントチョコレートパフェ100杯早食い対決を制した最初の一人は謎の美少女、クロ選手だぁーーーー!!!!」


 クロは物足りないような顔をしながらステージに立たされていた。


「圧倒的な暴食で三回戦まで勝ち抜いたクロ選手、今の感想を聞いても良いですか!?」


「お腹すいた」


「な、な、な、なんとーーー!!! まだ食べ足りないというのかーーー!!! ん? 急にリタイアする人が続出し始めたぞ!?」


 うん、普通に優勝しそう。他の参加者の心をへし折るぐらい余裕そうだし、俺も雄叫び上げておいて二回戦敗退したのなんだか恥ずかしくなってきたわ。


 その後も「準々決勝、高級寿司500皿早食い対決」「準決勝、シャトーブリアン5トン早食い対決」を制したクロは余裕のまま決勝へ進出した。


「勝ったわね」


「ああ、余裕すぎるな」


 既に俺とアイリは優勝を確信していた。クロは普段と変わらない表情である一方、決勝の相手である前回大会チャンピオンは既に白目を剥いていて今にもぶっ倒れそうだ。


「では、これより決勝戦を開始します! 決勝戦はこれだ!!!!!」


 MCの宣言と同時にモニターに料理が表示される。


「えっ……」


 俺は思わず声を出してしまう。そこに表示されたのは真っ赤なカレーだったから。


「超激辛カレー1000皿早食い対決だー!!!!!!」


 ドンドン! パフパフ!(太鼓とかラッパとかそういう感じの音)(三回目)


「1000皿って……でも、クロなら余裕でしょうし、むしろ相手の方が辛いかもしれないわね」


 アイリは呆れつつも、クロの勝利を再度確信していた。


 しかし、俺は違った。体から力が抜けて、ドサっと膝から崩れ落ちてしまう。


「お、終わった……」


「タナケン、どうしたの?」


 アイリは俺の絶望し切った声を聞いて振り返った。そう、アイリはあの日のことを知らない。クロが唯一見せた弱点を。


「く、クロは……」


 俺は震えた声で、アイリに教える。


「クロは……甘口しか食べられないんだ……」

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