第23話 アイリ、散る
「参加者の皆さん、席に着いたようですね! ここからルールを説明します!」
MCはテンション高めのままルールを説明し始める。隣にいるミンミンは暇そうに欠伸している。何しに来たんだ、あのぼったくりアイドルは。
「皆さんが座っているテーブルの右上に皿を置く場所がありますよね? そこに食べ終えた皿を重ねていってください!」
テーブルを見ると、確かに右上に皿を置くスペースがある。
「第一回戦ではジャイアントハンバーガーを10個食べ終える必要がありますので、10皿重ねてもらいます! 10皿重ねると空を飛んでいるドローンが確認しに行きます! ちゃんと食べ終えていることが確認できれば第一回戦クリアとなります!」
空には無数のドローンが飛んでいる。こういうところはハイテクなんだよな、この世界(´・ω・`)
「しかし、ハンバーガーを食べ終えずに皿を重ねた場合は死んでもらいます」
デスゲームかよ。罰則厳しすぎだろ。
「10皿重ねた人が1000人の到達した時点で第一回戦は終了なので、皆さん早めに食べ切りましょう! あ、そうそう。テーブルに置かれるハンバーガーは1個だけで、食べ終えたらすぐに手をあげてください! ドローンが次のハンバーガーを運んできます!」
すげぇ便利な世の中だ(´・ω・`)
「それでは、第一回戦スタート!!!!!」
「いくぞ! オラァ!」
俺はドローンが運んできたジャイアントハンバーガーにかぶりつく。ジューシーな肉はとてもジューシーでジューシーだった(食レポ下手くそ主人公)。
他の参加者は食べることに夢中だから、意外と会場内は寂しく思えるぐらい静かだ。
「はーい! 皆さんを応援するために今からミンミンが歌いまーす!」
なるほど、この無言の会場が盛り下がらないためにライブしにきたのか。
「それでは、聴いてください! セカンドアルバムから『恋は食中毒!』」
この会場で歌っちゃいけない感じの曲やめろ!
「恋は運命! 食中毒も運命! どちらも私の日常を〜バイオレンスにする魔法!(ま、ほ、う!)」
クソみたいな曲が始まってしまった……。しかし、今はそれどころではない。ジャイアントハンバーガーをさっさと食べ終えて一回戦を終わらせなければいけない。
味が美味しいのはいいが、分厚くて顎が疲れる。それに後半はなかなか苦しくなりそうだ。つーか、このペースじゃ一回戦抜けても二回戦食べれなくね?
ピコン!
!?Σ(・ω・;`)
スタジアム中央にある大型モニターに表示された「一回戦突破人数」の数字が1になった。え? もう10個食べ終えた人いるの? 俺まだ1個も食べ切っていないよ?
これはヤバいな……誰が突破したのかわからないがクロじゃなかったら相当マズいぞ。頼む、突破したのはクロであってくれ……!
ピコン! ピコン! ピコン!
!?Σ(・ω・;`)
いや、みんな食べ終えるの早すぎだろ。ぜってー食ってねーよ。持ち帰り用のタッパーかなんかに入れているだろ、絶対。
俺は心の中でツッコミながらハンバーガーを食べまくった。2個目の時点で腹一杯になっていたし、ぶっちゃけ味にも飽きていたが、それでも負けは許されないので、とにかく食い続けた。
そして――ついに食べ終えることができた!
10皿重ねるとドローンがやってきて、『タナケンサン、クリア!』とメカメカしい音声が流れた。モニターに目をやると、どうやら800人目前後のクリアだったらしくて結構ギリギリだった。げっぷ。
クリアした人はトイレとか行っているし、ひとまずクロと合流しておくか。
「おーい! クロー!」
会場が広すぎてなかなか見つからないな……ん? あそこに人だかりが出来ているぞ?
俺は人を縫うように通り、なにがあるのか確認した。
そこにはテーブル全体に皿を積み重ねている席があった。それどころか周辺の床にまで皿が散乱している。積み重なっている皿でどんな奴が座っているのかわからないが、皿の壁から皿が次々と床へ飛んでくる。
俺が驚いたのは、テーブルの右上には9皿しか重ねていないことだ。そう、あの席に座っている奴は10個食べ終えたのにあえて抜けていないのだ。一体、どんな猛者が座っているというのだ……。
俺はおそるおそる椅子側へ回り込む。
席に座っていたのはクロと同年代の少女。長い黒髪で、顔立ちは品があるが食べ方は品がない。まるでクロみたいな奴が座っている。というかクロに似ている。つーか、アレはクロだ。
「おい!!!!! なにやってんだ!!!!!」
「あ、タナケンだ。どうしたの?」
クロは口の周りにソースをつけまくり、口をムシャムシャと動かしながら俺を見た。
「いや、なんでこんなに食っているんだよ! どう見ても100個以上食っているじゃん!」
「このゲームには必勝法があってね。クリア判定貰ったらハンバーガーが運ばれてこなくなるけど、それまでは手をあげるたびにハンバーガーが運ばれてくるんだよ」
「必勝法じゃねーよ! 10個食べたなら早くクリアしろ!」
こうして話している間にクロは10個食べた。食べたというか飲み込んでいる。クロの細い首がハンバーガーの形になって、そのまま胴体に流れていくのが見えた。どこに消えているねん。
「えー、まだ食べ足りないよー」
「一回戦から満腹になろうとするな!」
俺は必死にクロを説得し、追加で50個ぐらい食べた辺りで不貞腐れながら10皿重ねた。
「今日、クロが餓死したらタナケンのせいだからねー」
「あと二ヶ月ぐらい食わなくても大丈夫だろ」
ぶーぶー文句を言うクロを引っ張りながら、俺はアイリを探した。
第一回戦を突破した人数は950人。もう時間がない。アイリはクリアできているのだろうか……。
「あ! アイリだー!」
クロが指差した方を見ると、そこにアイリは座っていた。
「アイリ! 早く食べ終えないと1000人に到達してしまう!」
俺は駆け寄りながら叫んだが、アイリのテーブルには一皿しか置かれていない。
「あの……アイリさん?」
「今食べているから話しかけないで!」
敬語になってしまった俺にアイリはハンバーガーを食べながら怒った。うん、確かに食べているけど、まだ一個目だ。
「アイリ、もっと大きく口を開けなきゃダメだよー!」
クロがアイリにアドバイスをする。うん、めちゃくちゃ一口が小さいよね。
「そんなはしたない顔見せられるわけないでしょ!」
「いや、そんなこと言っている場合か!」
アイリは一口食べるたびに口についたソースをナプキンの端で口を拭いている。
「アイリー! 口を拭いていたら勝てないよー!」
再びクロがアイリにアドバイスをする。うん、彼女は俺達と違って乙女なんだよ。
「わ、わかっているわよ! 集中しているから黙っていて!」
アイリは顔を赤くさせながら、必死にハンバーガーを食べる。高級レストランで音を立てずに食事する貴族みたいに。いや、こんなの大食い大会の光景じゃねぇ!
「アイリー! このまま負けちゃっていいのー?」
「私はあなたと違って品があるの!」
「優勝しなきゃタナケンと離れ離れになるんだよ? アイリはそれでいいの?」
「……っ! わかったわよ……!」
クロの挑発的な言葉に触発されたのか、アイリは覚悟を決めた顔になる。
そして、大きく口をあけてハンバーガーに食らいつこうとする。アイリ、ちょっと涙目になってね?
「アイリー! もっと大きく開かなきゃ!」
そんなアイリをクロは応援していた。俺はアイリの覚悟に拍手を送っていた。
「はむっ!」
アイリがハンバーガーに食らいつくと肉汁が飛び散った。
「はい! ここで一回戦終了ー! 皆さんお疲れ様でした!」
MCのアナウンスが会場内に流れる。
アイリはハンバーガーに食らいついたまま、涙目で俺のことを睨んでいる。
「ごめん、アイリ。無理やり参加させちゃって」
「ふぁふぁら! ふぁんかふたふふぁふぁっふふー!(だから! 参加したくなかったのよー!)」
こうしてアイリは一回戦で散り、俺とクロは第二回戦に出陣するのであった。
あとアイリにポコポコと殴られた。
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