第21話 節約生活の始まり

『一ヶ月以内に9000万ゴールド払えないのなら財産を没収する!』


 税務署のおっさんにそう言われてから一週間、俺達はひもじい思いをしながら暮らしていた。


「今日の昼食はパンの耳を三等分にカットして砂糖を塗したよくわからないものだ」


 俺がそう言いながらちゃぶ台にパンの耳(パン屋の店主に土下座して貰ったやつ)を置くと、クロは不満げな顔をした。


「もう嫌だー! ハンバーグ! ハンバーグが食べたい!」


「贅沢言うんじゃありません! ハンバーグなんて誕生日とか特別な日に食べれるものなのだから我慢しなさい!(おかん口調)」


 俺はパンの耳を三等分にカットして砂糖を塗したよくわからないものをクロの口に突っ込む。クロはパンの耳を三等分にカットして砂糖を塗したよくわからないものをムシャムシャと食べ始める。なんだかんだで口に突っ込めば大人しく食べるのだ。ま、3秒で食べ切ってしまうが。


「それよりどうするのよ」


 アイリはパンの耳を三等分にカットして砂糖を塗したよくわからないものを齧りながら言った。


「どうするってなにが?」


「こんな節約生活を続けても、そもそも稼ぎがなかったら9000万ゴールドなんて払えないわよ」


 至極真っ当な意見である。


「どうにか金を稼ぐ手段を見つけないとな……」


 なんだかんだで炎ボーボーも風ビュービューも水ジャバジャバもそこそこ良い値段では売れる。けれど、9000万ゴールド用意できるほどではない。


 クロのスキルは……むしろ買取に出したら「お値段がつかなかったものはこちらで処分しますがどうされますか?」と訊かれるようなものばかりだし。


 アイリも戦闘用スキルをゴルバグに取られてしまったから……いや、待てよ。


「なあ、アイリ。ゴルバグに渡したのは戦闘用スキルだけなんだよな?」


「そうだけど?」


「じゃあ、戦闘用以外のスキルは残っているのか?」


「残っているには残っているけれど……」


 あれだけの高レベル戦闘用スキルを持っていたんだ。戦闘用以外でもなにか売れるものがあるかもしれない。


「なら、ちょっと見せてほしいんだけど」


「……まさかあなたがそんなこと言うなんて……変態」


「いや、なんでだよ! クロのときも同じようなリアクションしていたけど、ひょっとして所持スキル訊くのってセクハラ発言的な感じなのか!?」


 俺は自分の価値観を信じられなくなってきていた。


「……住ませてもらっている立場だし、私に拒否権はないから見せてあげるわよ」


「いや、そこまで嫌なら別にいいし、拒否権使っていいと思うぞ、俺は」


 と一応無理すんな的なことは言ったものの、アイリはそのまま所持スキルのスキル玉を並べていった。


 ・純白無垢なスキル(レベル3)

 ・ツンデレになるスキル(レベル2)

 ・実は甘いもの好きなスキル(レベル3)

 ・意外と甘えん坊なスキル(レベル2)

 ・一途である証明スキル(レベル4)


 …………(・ω・`)←タナケン


 ………… (´・ω・`)


「アイリ、君はそのままでいてくれ」


「なんかクロのスキル見たときと反応違くない?」


 俺はクロの指摘を無視し、赤面のアイリにスキル玉を返した。


「ダメだ、あと三週間ちょいで9000万ゴールド返す方法が思いつかない……」


「お腹すいたー。なにか買いに行こうよー」


 クロは寝そべって手足をジタバタさせながら言う。最終手段としてギャンブルという手もあるが、その種銭を使ってしまって大丈夫だろうか。しかし、パンの耳も尽きてしまったし、なにか食べ物は手に入れなくてはいけない。昨日はパンの耳を三等分にして醤油をつけたよくわからないものだったし、一昨日はパンの耳を三等分にして塩を塗したよくわからないものだった。流石になにか栄養のあるものを食べさせてやりたい。


「仕方ない、スーパーへ行くか」


「やったー!」


 ********************************


 スーパーについた俺達はかごに食材を入れていく。


「いいか、カレーの材料以外は絶対に入れるなよ!」


 俺は二人にそう言ったが、クロはお菓子売り場に走っていってしまった。


「はい、にんじんとたまねぎ」


 アイリはカレーの材料を次々と持ってくる。


「クロも持ってきたよ!」


 クロはポテトチップスやグミなどのお菓子を大量に持ってきた。


「戻してきなさい!(おかん口調2)」


「えー! お菓子食べたい!」


「我慢しなさい! うちにはそんなお金ないの!(おかん口調3)」


「モンスターチョコシール(※)だけでも買ってよー!」


(※モンスターのシールが入ったウエハースチョコ。シールは子供達に大人気で、一部大きなお友達もコレクションしている有名食玩だ。魔王などランクが高いモンスターのシールはキラ加工になっている模様)


「ダメ! 我慢しなさい!(おかん口調4)」


「いやー! 今日こそヒトデ型モンスター、セイカリョウゲンのシールを当てるのー!」


「そんな雑魚モンスターのシールなんていらないでしょ! どうせ今回もガントバシウサギしか出ないんだから!(おかん口調5)」


 俺は駄々をこねるクロを説得して、お菓子を戻させた。


「カレーのルーはどれにするの?」


 アイリはカレーのルーの棚を指差しながら訊いてきた。


「クロは甘口しか食べれないから、我が家はこの蜂蜜入りカレーしか買わないんだ」


 蜂蜜入りカレーをかごに入れたあと、肉など他の材料も選び、会計を済ませた。


「ちょっと金を使いすぎたな……」


 帰り道、俺はレシートを見ながら呟いた。


「でも、これなら二日ぐらいは持ちそうじゃない?」


「アイリ、我が家には冷蔵庫がないのじゃよ」


「……そうだったわ」


 冷蔵庫なんて高級品は我が家にない。つーか置くスペースがない。


「にしてもなんでこんな金かかったんだ……あっ!」


 俺はレシートの中に入れた覚えがないものが入っているのを見つけた。


「クロ! お前、モンスターシールチョコ入れただろ!」


「入れてないよ、クロ知らない……ムシャムシャ(咀嚼音)」


 早速食べているし!


「今日こそセイカリョウゲンを当てるぞー! ビリビリ(シールの袋を開ける音)」


「ったく……ん? なんだこのポスター」


 俺はスーパーの壁に貼られたポスターに目をやる。


『大食い選手権〜暴食王者に俺はなる〜 開催決定!!!!!!』


「こんなイベントがあるのね。クロなら優勝できるんじゃない?」


 アイリはポスターを見ながら俺が考えていたことを口にする。


「でも参加費5000ゴールドだし、どうせ賞品も消しゴムとかだろ」


 俺はアホくさと思いながら素通りしようとすると、アイリが服を引っ張ってきた。


「どうした、アイリ」


「ねぇ! 優勝賞金を見て!」


「ん? 優勝賞金は1億ゴールド……1億ゴールド!?」


 こ、これしかねー! しかも税金がかからないみたいだ!


 うちにはクロがいる! ワンチャンどころか優勝確定じゃねーか!


「おい! クロ、これに参k……クロ?」


 俺はさっきから黙り込んでいるクロの後ろ姿に声をかけると、彼女は振り返った。


「ひっぐ……またガントバシウサギのシールだった……ひっぐ……」


 言わんこっちゃない。

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