第20話 歓迎会&新たな試練へ

 無事に三人で帰宅した俺達はアイリ歓迎会を開くことにした。


 ちなみにゴルバグは逮捕され、セバスチャンは「このままで済むと思うなよ」なんて負け惜しみを言っていたがゴルバグの金魚の糞みたいな奴だったし、アイツも無職になるだろう。俺達の完全な勝利だ。


「むむぅ……」


「どうしたんだ、クロ。そんな難しい顔をして」


 三畳弱の部屋でちゃぶ台を囲う三人。分かってはいたけど、めちゃくちゃ狭い。


「なんかクロのスキルが減っているような気するの」


「ほら、アイリを歓迎するために買ってきたケーキだ。ローソク乗せていいぞ」


「わーい! クロが乗せるー!」


 ふぅ、危うくゴルバグにスキルを押し付けたことがバレるところだったぜ。ん? アイリ、どうした? そのなにか言いたげな目は。


「丸いケーキって実在したんだねー」


 上機嫌なクロは丸いケーキ(そこそこ高い)にローソクを乗せていく。


「本当にここに住んでいいの?」


 アイリはまだ三畳弱という部屋の狭さに慣れていないのか緊張している様子だ。


「男に二言はねぇ! 来るもの拒まず、去るもの追わずがタナケンハウスのルールだ」


 なお大家さんには逆らえない模様。どうやってアイリの入居を認めてもらうか考え中でござる。


「じゃあ、ひとまず自立できるまではお世話になるわ」


「それでいいさ。ってクロ! イチゴを摘み食いするな!」


 クロは満足げな顔で「デリシャス」と言いながら、イチゴを頬張っている。


 ローソクを全部乗せ終えたので、炎ボーボースキルで点灯する。今更だけど、これ誕生日ケーキじゃね? 歓迎会のケーキってローソク乗せるものだっけ?


「ほら、アイリ。ローソク吹きなよ」


「え、いいわよ。そんな子供っぽいこと」


「じゃあ、クロが吹いてあげるね」


 クロは頬を風船みたいに膨らませて吹く。18本くらい乗っていたローソク全てが一度に消灯した。これ、やっぱり誕生日ケーキだよね? 店の人、俺が誕生日だと思ってローソク18本ぐらい入れておけばいかって感じで入れたよね?


「ようこそ、アイリ。タナケンハウスへ」


「ようこそー、ムシャムシャ(咀嚼音)」


 俺はクラッカーを鳴らし、クロは二回ぐらい拍手したあと、すぐにケーキを食べ始めた。今ケーキ切るから待て。


「な、なんか恥ずかしいんだけど……」


 アイリは照れながら受け取ったケーキを突くように食べる。


「まぁ、いろいろな事情で集まった三人だが、これから力を合わせていこう」


「食べることなら任せて〜」


「家賃代ぐらいは力になるわ」


 各自やる気が見られていい。これから俺達の新しい生活がスタートするのだ。


「それで早速なんだけど、二人に話がある」


「なにー?」


「話って?」


 クロとアイリはケーキをもぐもぐ食べながら俺を見る。こんな場だし、重大なことではないだろうって感じの顔で。


「今食べているケーキで我がタナケンハウスの貯蓄を使い切っちゃった(´;ω;`)」


「えぇ!?」


 突然の発表にアイリは当たり前のリアクションを見せる。


「この家ってそこまで貧乏だったの!?」


「うん(´;ω;`)」


「じゃあ、どうしてケーキなんて買ったのよ!?」


「だって見栄張りたくて(´;ω;`)」


「そんな一日も持たない見栄なんていらないわよ!」


 俺とアイリのやり取りをしている間、クロは「デリシャス」と呟きながらケーキを食べ続ける。


「まだ私はイチゴを食べていないわ! これだけでも返金してもらいなさいよ!」


 それは無理だと思うよ、アイリ。


「アイリ、イチゴいらないの? じゃあ、クロが食べてあげるね」


 クロはアイリのケーキからイチゴを取り、そのままパクッと口に入れた。


「ちょっとなに食べているのよ! いるに決まっているでしょ!」


「えーアイリ、イチゴ食べていなかったじゃん。ムシャムシャ(咀嚼音)」


「私は好きな物は最後に食べる派なの!」


「クロは好きな物は最初に食べる派〜」


 アイリは「あなた、少しは遠慮しなさいよ。一応、私の歓迎会なのよ!」と怒るが、クロは「遠慮ってなに? 美味しいの?」と言いながら俺のケーキに乗っていたイチゴを食べやがった。


「とにかくだ。俺達は今窮地に陥っている。こうなってしまった以上、力を合わせて金を稼ぐしかない」


 どうしてこんなことになったんだろうね(´・ω・)←クロを見ながら


「早速、明日から三人で日雇いの仕事をして当面は凌いでいこう!」


「はぁ……わかったわ。戦闘用スキルはもうないけど、最低限の生活は送れるように頑張るわ」


「クロも手伝うー! コウモリをビュービューで飛ばしたい!」


「二人ともありがとう!」


 なんだかんだで良いチームが出来たじゃないか。クロも珍しくやる気あるっぽいし(単に風ビュービュースキルを使いたいだけ)。


 ま、夢の不労所得生活は遠のいてしまったが、一番優先するべきは心の余裕だ。ほら、よくいるだろ。金持ちになったけど、幸せになれない人間。人付き合いが疎かになって孤独になっていたり、金を稼ぐことにばかり熱中して他の大切なことを見逃してしまう感じのアレ。


 俺はあくまで幸せになるために不労所得を目指しているのだ。もしクロを見捨てていたら罪悪感を抱き続けただろうし、アイリを追わなかったら今も清掃のバイト(研修期間)で時給3ゴールドを稼ぐ生活を送っていただろう。


 そう、これが最善の選択肢であり、これから頑張ればいいのだ。


 よし! 心機一転! 頑張るぞ!


 ピンポーン!


「チャイムかしら」


 アイリが玄関ドアの方を見る。やべ、大家さんかも。ちょっと声大きかったからバレていたかも。


「今出るからねー」


 クロがドタバタと玄関へ向かう。待て、ひとまず今日は家賃も払えないし、居留守だ。出てはいけない。というか拉致された直後なのにどうして無警戒で出ていけるんだ。


 ガチャ、とクロが玄関ドアを開けると、そこに大家さんはいなかった。


 代わりにスーツ姿の男性が二人。


「だれー?」


 クロは首を傾げる。俺も首を傾げる。


「タナケンさんはいらっしゃいますか」


「えっと、自分ですけど、どちら様でしょうか?」


「我々は税務署の者です。タナケンさん、あなた3年前から確定申告していませんよね?」


「えっ!? この世界に確定申告あるの!?」


 作者の野郎、また余計な設定を作りやがって!


「我々が調べたところ、税金を支払っていないようなので。今回は督促状を渡しにきました」


「えーっと、いくらですか?」


 日雇いバイトしかしていないし、スキル資産家も勝手に名乗っているだけだから、大した額ではないはずだ。


「大体9000万ゴールドぐらいですね」


「きゅ、きゅ、9000万ゴールド!?」


 俺はクロみたいに口から泡を吹いて倒れてもおかしくないぐらい驚く。しかし、すぐに立て直す。そんな馬鹿高い税金を取られる心当たりがなかったから。


「なにかの間違いですよね? 税金がバカ高い的なクソ設定があるわけじゃないですよね」


「いいえ、間違いありません」


 税務署の男は真顔のまま説明を続ける。


「タナケンさん、あなた2年前に勇者さんから1億4000万ゴールド貰っていますよね?」


 あー、心当たりあったわ(^ω^)


「9000万ゴールドの大半はそのときの贈与税と滞納金になります」


 俺、今度こそ終わったかもしれへん(^ω^)


「あのーどうして今になって贈与税の話が出てきたのでしょうか(^ω^)」


「セバスチャンと名乗る男から『アイツ、ぜってー贈与税払ってねぇよ』とタレコミがありました」


 あのクソ執事野郎……(^ω^#)


 こうして地獄の滞納金返済編がスタートするのであった。

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