第16話 いざ!ヤバヤバの森へ!
俺はアイリを追いかけてヤバヤバの森へ入っていく。
ヤバヤバの森は街から少し離れたところにある森で、数十年前まで奥に村があって人が暮らしていたそうだ。しかし、近隣の魔王による支配により、人々は追い出されてしまい、今は廃墟となった村に高ランクモンスターが生息している。ただ人間側の反撃で知能の高いモンスターは基本的に奥へ追いやることには成功している状況だ。森の入り口付近なら低ランクモンスターしか出てこないから、どうにか対処できるうちに彼女を見つけたい。
とか思っているうちにかなり奥まで来てしまった。
いや、どんだけ奥まで行っているねん。森と言っても、人間が住んでいた頃に整備された一本道があるからアイリもここを通っているはずなのだが……。この一本道すらも左右を木に囲まれているから突然モンスターが襲ってくる危険性はある。でも、まだ上を見上げれば青空を見ることができる。道から外れてしまえば、全方位を木に囲まれて、真上も警戒しなくてはならない。流石にこの道を通る以外に選択肢はないと思うが……。
ひょっとして、もうモンスターに食べられてしまっていたり……
ガサガサ!
「ひゃあ!?」
茂みから音が聞こえてきて、俺は気持ち悪い声を出してしまった。モンスターだろうか。俺は腰に装備していたナイフを抜き、構える。
「ピギィー! ピギィー!」
「いや、ガントバシウサギかよ!」
姿は見えないが、ガントバシウサギの鳴き声だ。なんだよ、驚かせやがって。
ガサガサ!
茂みから声の主が出てくる。はいはい、ガントバシウサ……!?
出てきたのは人間の足。ほぼ真っ裸のマッチョな男で海パンみたいなのを履いている……が、頭は鳥。というかオウムみたいな顔をしている。クチバシがあるし、少なくとも人間ではない。超気持ち悪い。
「や、ヤバい!」
俺は猛ダッシュで奥へと逃げると、オウム頭の男はこちらへ走ってきた。
「ピギィー! ピギィー!」
「こえぇ! なんだよ、アイツ!」
マッチョなだけあって、めちゃくちゃ足がはえー! どんどん距離が縮まっていく。
「くそ! これでもくらえ!」
水ジャバジャバスキルの水を地面に放ち、べちょっとオウム頭の男は転んだ。
そのまま距離を離したところで、膝に手をつけて息を整える。
「はぁ……はぁ……なんだったんだ、アイツ」
俺はモンスター図鑑の鳥っぽいモンスター項目をペラペラと捲る。いた。
モンスター名:オウムマン(Cランクモンスター)
説明文:オウムのような頭が特徴の人型モンスター。捕食した人間の声やモンスターの鳴き声を真似て近づいてくる。たまに人から奪った衣類を着たり、フードで顔を被したりするところから知能が高いと考えられる。足が速く、打撃技が得意。近接戦闘に自信がない者は、遠距離攻撃で倒すしかない。
こんなモンスターもいるのか。ガントバシウサギを食べたからあんな鳴き声だったんだな。
俺は常にナイフを手に持ち、警戒しながら奥へと進む。
数十分歩いたところで、廃墟と化した村が見えてきた。
おいおい、完全に奥まで来ちまったよ。建物は崩れているし、草木は生い茂っている。現実世界ではたまに廃墟ツアー的な動画を見ていたけれど、まさにそんな感じだ。
怖いが、ここに来るまでクソ気持ち悪い鳥男としか遭遇しなかったのはラッキーかもしれない。
「きゃあ!」
!? 悲鳴だ! それもアイリの声に似ている!
俺は悲鳴が聞こえてきた方へ走り、瓦礫と化した建物の中に入っていった。
「ギャウ! ギャウ!」
アイリは二頭のドラゴンに襲われていた。獰猛な黄色のドラゴン……いや、これドラゴンか? 二足歩行で手の代わりに翼が生えたドラゴンなのだが、やけに小さい。小さいと言ってもイメージしていた怪獣みたいな大きさよりは小さいだけで、普通に大型犬ぐらいの大きさではあるし、成人男性も押し倒されそうなぐらいには力がありそうだ。
「お前ら、やめろ!」
俺はアイリに噛みついていた一頭を後ろからナイフで刺す。
「ギャ!? ギャウ! ギャウ!」
こちらを向いたドラゴンは翼をバタバタと動かして突進してくる。
「ぐへぇ!」
思いっきり直撃した俺は数メートル後ろに吹っ飛ばされてしまう。壁にぶつかり、崩れ落ちてきた煉瓦が頭に落ちてきて悶絶する。痛すぎるンゴ……。
「やめ……!」
もう一頭に襲われているアイリの声が聞こえて、俺はどうにか起き上がり、突進してきたドラゴンに向かって突進し返す。
「これでもくらえ!」
俺は大きくジャンプして、両手で持ったナイフをドラゴンの頭にブッ刺す。硬そうな皮膚を頭蓋骨ごと貫通したようで、一瞬でドラゴンはボンと煙になり、翼だけ残った。
「きゃっ! 痛い!」
アイリの悲痛の声が聞こえて、俺はもう一頭に向けて風ビュービュースキルを使った。発生させた風を横から受けたドラゴンはよろけながら倒れて、翼を動かしながらジタバタする。起き上がる前にナイフで思いっきり脳天をプスリ!
「ハァ……ハァ……」
俺はガクガクブルブルな足を無理やり動かして、アイリの元へ駆け寄る。
「大丈夫か……って大丈夫じゃないな、これ」
アイリはところどころ服が破けていて、ドラゴンに噛まれた足から血が出ている。
「ひっぐ……ひっぐ……」
致命傷レベルの大きな傷でなかったことは良かったが、地面にうずくまって泣いているアイリを見るのはなかなか辛い。
ひとまずアイリを起こして、手当てをする。とはいえ、俺は回復魔法系のスキルを持っていない。俺は一張羅の服を破いて、止血手当てをする。
「いたっ……!」
「あ、ごめん。力入れすぎたかも」
うろ覚えの止血手当てをして、一旦壁にもたれ掛かって体力を回復させることにした。アイリは歩けなさそうだし、背負って走れる程度には体力を回復させないといけない。ただ帰るだけならともかく、モンスターと遭遇した場合はどうするべきか。彼女を見つけても、いまだに問題は山積みだ。
「なんで来たのよ」
何千通り(※)の脱出ルートを考えていると、ようやくアイリが話しかけてきた。まだ10秒に一度ぐらい鼻をすすっているが、声が聞けただけでも安心する。
(※実際は2パターン程度)
「そりゃ来るに決まっているだろ。見殺しなんてできるかよ」
「なによそれ……奴隷なんだから見殺しでいいでしょ」
「えー……卑屈になるなよ」
俺に助けられたことが不服なのか、アイリは拗ねている。
「そういや、ゴルバグとは服従の契約をしていたのか?」
訊いてから数秒後、アイリは首を横に振った。市民の好感度を得ようとしていたみたいだし、あえて服従契約は交わしていなかったのかもしれない。
「なら、ここに留まる必要もないし、ひとまず脱出することを考えようぜ!」
「いい……あなた一人で帰ればいいじゃない」
「おいおい、一人で帰れるわけないだろ」
俺は和ませようと「なに冗談言っているんだよ〜w」と言いながら、アイリのほっぺをツンツンした。普通に指を噛まれた、痛い。
「私のことは気にしなくていいよ、いつかこういう日が来るかもって思っていたし」
「……気づいていたのか」
「ただの勘だけどね。でも私は奴隷だし、変に夢を見たのがいけなかったのよ」
「夢を見るのは誰にでも権利があると思うけどなあ」
うーん、どうにかして励ましてやりたいけど、何も言葉が出てこねー。現実世界でも人と関わることを避けていたから、どうすればいいのかわからへん(エセ関西弁)。
「権利なんてないよ。奴隷の分際で迷惑ばかりかけているし」
「いやいや、本当に卑屈になりすぎだって」
「嘘つかないで。あなただってここから脱出できるかわからないのに」
それはそうだけども……うーむ、ドラゴンを倒してドヤ顔していた頃の彼女の方が好きだったなぁ。いや、変な意味じゃなくて。
「巻き込んでごめんなさい」
アイリは体育座りのまま顔が見えないように俯いた。
「全部、私が愛されたいと思ったからいけないの」
顔は見えないけど、また鼻を啜る音が聞こえてきて、次第に泣き出してしまった。
「そんなこと気にしなくていいから。ほら、早く」
俺はアイリの前でしゃがんで背中を差し出す。
「なに……しているの……?」
「早く乗っかれよ。その足じゃ歩けないだろ」
「正気なの? 街に戻っても帰る場所なんて……」
「帰る場所がないなら、俺の家に来いよ」
また大家さんに土下座して靴を舐めまくればなんとかなるだろう。多分。
「そんなこと……」
とアイリが言いかけていたときだった。
バサバサとどこかから音が聞こえる。ん? 上から?
俺は上を見上げると、天井が崩壊していて青空が広がっていた。いや、明るかったから、天井がないことはわかっていたけども。……って急に暗くなったぞ。
ひゅ〜〜〜〜ドシン!
『ギャウオオオオオン!!!!!!』
ふふふ、空からでかいドラゴンさんが降ってきた(※)。
(※最近ドラゴンと遭遇してばかりで精神的に疲れてきた主人公)
********************************
その頃、クロはベッドから転げ落ちて目を覚ました。
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