第14話 時給3000ゴールドの面接

「では、次の方、お入りください」


 俺とクロは面接会場である市役所の一室へ入った。


「お名前をどうぞ」


「タナケンです!」


「クロだよ」


 この日、俺達は市役所の清掃バイトの面接を受けに来ていた。この世界では奴隷は物扱いされているから仕事道具として連れてくることも可能であり、主人よりは安くなるが一応個別で給料を貰える。なので、クロも同伴しており、二人分の履歴書を提出した。


「えーっと、タナケンさんとクロさんね……まず一ついいですか?」


「はい!」


「この履歴書の顔写真なんだけど……これ写真じゃなくて似顔絵だよね?」


 若い男性の面接官は履歴書を見ながら気まずそうに言った。


「はい! 証明写真を撮る金がなかったので、自分で描きました!」


「いや……そういうのはちょっと良くないというか、注意する以前の問題だよ」


 面接官の反応が良くない……やはり無謀だったか。


「それにクロさんの方の履歴書、もはや似顔絵じゃなくて食べ物の絵だよね」


「デミグラスハンバーグだよ」


 クロは堂々と答える。昨日教えた通り、面接官の目を見ながら話している。偉いぞ!


「うーん……まぁ、百歩譲って証明写真を撮れなかったということにしましょう……」


 面接官は頭をかきながら履歴書に目を通す。


「タナケンさんの学歴なんですけど、東京ヒトデ大学って聞いたことないんですが、どこにあるんですかね」


「日本です!」


「えっ、ニホン?」


 面接官は「ニホンなんて街あったっけな?」とブツブツ言いながら困惑している。


「それで現在はスキル資産家をされていて、Wワークがしたいと……」


「はい! スキル資産家と言ってもニートみたいなものなので、隙間時間に働きたくて応募しました!」


「ふむふむ。志望動機は『この世からゴミを駆逐したいから』と書かれていますが、今言ったことと少し違うような気がしますが」


「隙間時間で出来る範囲で駆逐したいです!」


 俺が目を輝かせながら答えると、面接官は「どうせすぐ辞めそうなんだよなぁ」とボソッと呟いた。おい、聞こえているぞ。


「それでクロさんの志望動機は『ステーキを食べたかったから』と書かれているのですが、これは……?」


「そのままの意味だよ。お金稼いで美味しいステーキ食べるの」


「はは……そうですか……」


 面接官は悩んでいる……ように見える演技をしているように見えた。


「正直に言いますと……お二人には何も魅力を感じないんですよね」


「そ、そんな!? 俺達を雇えば市役所はピカピカになりますよ!?」


「いや、誰が掃除しても大して変わらないでしょ……」


 時給3000ゴールドのバイトを逃すわけにはいかない。引き下がってたまるか!


「実習試験もあるんですよね? それを俺達にやらせてください!」


「はぁ……しかし、この面接内容ですと、実習で頑張ってもミラクルが起きないと受かりませんよ」


「大丈夫です! 見てもらえれば、俺達の覚悟は伝わりますから!」


 そして、俺達は実習試験の会場へ案内された。


 会場には沢山の作業机や椅子が置かれたオフィスのような一室。広くはないが、物が散らかっていて、とても作業できるような状況ではない。


「私が実習試験を担当するセバスチャンだ。普段はゴルバグ様の執事もやっている。今からこの汚れたオフィスを15分以内に掃除してみせろ」


「わかりました!」


 俺はすぐに掃除に取り掛かり、クロは飽きたのか床でゴロゴロし始めた。


 まず部屋の電気を消してから椅子の上に乗り、照明を拭き始める。


 掃除の基本は上から下だ。素人は散らかっている机からどうにかしようとするが、俺は違う。この部屋は暗い。そう、照明が汚れているのだ。俺の勘が正しければ、照明の汚れも用意されたものだろう。つまり照明の汚れに気づけるかどうかも採点基準に入っているのだ。


 ゴシゴシ、キュッキュッ!(掃除描写省略)


 照明が終わったら、次は机だ。俺はてきぱきと片付けていく。効率良いルートで片付けて、どんどん机の上が綺麗になっていく。


「ほう、やるな」


 セバスチャンが感心するように呟く。俺の盗み聞き系スキルは数メートル離れていても聞こえるのだ。


「でも、アイツらの履歴書ヤバすぎですよ」


 面接の担当者がセバスチャンにチクる。余計なこと言うな!


「ふむ……しかし、あのタナケンという若者の腕は確かだ」


 セバスチャンは俺を認めるかのように言う。そりゃそうだ、滞納クソ野郎(3話に出てきた奴)から「お掃除やる気モリモリスキル(レベル1)」を取り返して、クロの世話で手に入れた「おかんスキル(レベル1)」があるんだ。この二つのスキルを併用した今の俺を止められる奴はいないぜ!


「で、ですが、あのクロとかいう少女は床でゴロゴロしているだけですよ!」


 面接の担当者はよほど俺らを採用したくないのか、めっちゃ嫌なところを突いてくる。


「お前はわからんのか?」


「な、なにをですか?」


「あのクロという少女の服装をよく見てみろ」


 俺はセバスチャンの言葉が気になって、クロを見た。いつも来ているお出かけ用の服装であり、先日のドラゴンから逃げる際に破けてボロい見た目になっていることを除けば普通の服だ。


「ここへ来たときから薄汚れていたのに今はさらに汚れている」


「はぁ……それがなにか?」


「バカモノ! 何故気づかないのだ!」


 セバスチャンは面接担当を怒鳴りつける。凄い剣幕で。


「彼女はああやってゴロゴロすることで、床のゴミを服に付着させて集めているのだ。しかも命令されたわけでもなく、主人が天井から綺麗にすることを理解した上で自身の片付けるべき場所を即見抜いたのだ!」


「し、しかし! あの少女はさっきから『お腹空いた』とか言っていますよ!」


「あれだけ痩せ細っているのだ……何週間も食べていないのだろう。しかし、彼女は盗人になるわけでもなく、こうして面接に来ている。そして市役所を綺麗にしようと自らの服を犠牲にして掃除しているのだ。ぶっちゃけ彼女雇うよりル◯パで掃除した方が手っ取り早いが、気持ちぐらいは評価してやるべきだ」


「……えー」


 面接担当は「こいつ、マジかよ」な視線でセバスチャンを見た。


「市役所への忠誠心は、ゴルバグ様への忠誠心でもある。間違いない。彼らになら市役所の掃除当番を任せられる」


「セバスチャン様……正気ですか!?」


「二人とも聞け! 採用だ!!!!!!」


 よっしゃ! クロは家に置いてきた方が良かったと後悔していたけど、まさかの逆転ホームランや! 初めてクロを仲間にして良かったと思えた!


「ありがとうございます!」


「早速、お前達には明日から働いてもらうぞ」


「はい! 頑張ります!」


「ステーキ!」


 こうして俺達は市役所の清掃バイトを始めた。


 ちなみにクロは初日から寝坊してクビになった。

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