第12話 なんなの!あなた達!

 アイリに聞いたところ、昼ごはんを食べていないとのことなので、俺はランチに誘った。


 今いる隣街には何度か来たことがある。というか先日、クロを連れて営業に来たばっかりである。


「ここにしよう。俺の奢りだ、遠慮するなよ」


「え? ここはこの街で一番高いレストランよ。あなたお金持っていないんじゃ」


 アイリは入り口に噴水があるなんだか高そうな店を見て、驚いていた。


「そっちじゃない。こっちだ」


 俺はその隣にある段ボールを積み重ねたような建物を指差す。


「え……ここってお店なの?」


「なんだ知らなかったのか? ここは食べ放題メニューがあるコスパの良い店なんだぞ」


 俺は入り口にある段ボールみたいな物で作られたドアを開けると、セロハンテープでくっついていたドアノブが取れてしまった。


「おやっさん! いつものメニューを!」


 と言った瞬間、俺はバケツに入った水をかけられた。


「な、なにするんだ! おやっさん!」


「うるせー! お前なんて客じゃねー! 出禁だ! 出禁!」


「出禁……一体どうして……」


「お前がおんぶしているその娘だよ! この間は店の在庫全て枯らしやがって! お前らに食わせていたら、うちは赤字なんだよ! あとなんで泡吹いているんだよ、その娘!」


 俺はおやっさんが投げたフライパンを頭でキャッチしてしまい、顔が凹んでしまった。


「すまない……別の店にしよう」


「私、出禁で追い出される人初めて見たわ……」


 汚物を見るような顔で困惑気味のアイリ。


「出禁を言い渡されるのは今日二回目だ」


「なんなの、あなた達……」


 結局、俺達は近くにあったファミレスに入った。


 四人がけのテーブル、本日の主役であるアイリを奥のソファに座らせて、俺とクロはテーブルに座る。


 隣のテーブルではちょうどウェイトレスが料理を運んできたので、俺は泡を吹き続けているクロを持ち上げて、隣のテーブルに近づけさせた。


「デミグラスハンバーグのお客様……ってあなた達なんですか!?」


「いや、そのまま置いてもらって大丈夫です。ほら、クロ。デミグラスハンバーグの匂いだぞ」


 気絶しているクロは本能でクンクンと匂いを察知して、目を開いた。


「ハッ! ここはどこ!?」


 隣の人とウェイトレスとアイリから白い目で見られつつ、クロは復活した。


「よし、昼飯を食べるぞ。好きな物(※1)を好きなだけ(※2)頼んでいいぞ」


(※1=300ゴールド以下に限る)

(※2=一人1品まで。ドリンクバーはつけたらダメ)


「デミグラスハンバーグ! ……って誰?」


 クロはアイリの顔を見て、頭の上に「?」を浮かべている。


「俺達をドラゴンから救ってくれた英雄、アイリだ」


 大袈裟に紹介すると、アイリは顔を赤らめた。


「べ、別にあなた達を助けたかったわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」


 絶滅危惧種タイプのツンデレか。


「実際助かったのは本当なんだし。ま、好きなもんを頼んでくれ」


「じゃあ、これ……」


 ちょんとメニュー表のオムライスを指差すアイリ。


「私はねー、デミグラスハンバーグ!」


 クロはメニュー表を掲げて見せつけるように言ってくる。


「落ち着け。デミグラスハンバーグ以外にも美味しそうなのがあるぞ」


 格安のサイドメニューをオススメしてみたが、クロは首をブンブンと横に振り、折れることはなかった。


 結局、予算オーバーの料理が運ばれてきて、俺達は遅い昼食をとることに。


「うひょー! デミグラスハンバーグ!」


 クロはギコギコと音を立てながらナイフでハンバーグを切る。


「ん、美味しい」


 アイリはパクッとオムライスを口にして、そう呟く。


「無理して庶民に合わせなくてもいいんだぞ。市長に良いもん食べさせてもらっていそうだし」


 と言っている間に、クロは俺が頼んだステーキのフライドポテトをつまみ食いした。


「別に無理していない。私、食費は全部出しているし」


 おい、聞いたか。隣のつまみ食い1000ゴールド。


 しかし、アイリは暗い顔になってしまい、なにか悪いことを言ってしまったのかと不安になる。


「し、市長だもんな。仕事とか忙しそうだし、アイリ一人で食べることの方が多いのは普通だよな! はは……」


 ぶっちゃけこの世界の市長って何しているんだろう。


 と考えているうちに、クロは俺が頼んだステーキのコーンをつまみ食いした。


「違うわ。ゴルバグ様のご子息が『奴隷と一緒に食事はしたくない』って言っているの」


 うわー……ちょっと酷くない???


「それは酷いな。じゃあ、いつも一人で食べているのか」


「うん。だから、今はなんだか不思議な気持ち」


 ちょっぴり笑うアイリはどこか寂しげで、これでいいのだろうかと思った。


 とか心配しているうちに、クロは俺が頼んだステーキをぺろっと食べてしまった。


「アイリは大丈夫なのか?」


「え? なにが?」


「いや……一人で寂しくないのかなーって」


「寂しくない……って言ったら嘘になるかもしれないけど、でも私奴隷だし……」


 俺はどうにかアイリの家庭環境を改善できないかと考える。


 とか考えていうちに、クロはメニュー表を開いてデザートを頼みやがった。


「ってどうしてあなたが暗い顔しているのよ。気にしなくてもいいわ」


「でも……」


「さっきも言ったでしょ。いつか勇者になってゴルバグ様の娘だと認めてもらうって」


 …………( ˘ᾥ˘ )←タナケン


 健気な子や!( =ᾥ= )←関心するタナケン


 しかし、場の空気が変わる一言が飛んでくる。


「勇者にならなくても一緒にご飯食べたいって言えばよくない?」


 クロはケーキを頬張りながら言った。お前……空気嫁(誤変換ではない)。


「奴隷の私の要望なんて認めてもらえるわけないでしょ」


 アイリはムッとした顔で、クロを睨みつける。そりゃ話の流れ的にそうなるわ。


「おい、クロ。家庭によってはいろいろ事情があるんだぞ」


「でも言わなきゃ相手に伝わないよ」


 理解していないクロの頭の上には「?」マークが展開し、納得していない様子。


「私はあなたと違って奴隷なの! なにか理由がないと家族として認めてもらえないの!」


 アイリは激おこぷんぷん丸になり、クロを怒鳴りつける。


 しかし、クロはケーキをモシャモシャと食べながら言う。


「私も奴隷だよ」


「あなたに私の気持ちが理解でき……え? 今なんて?」


「クロも奴隷だよ」


 モシャモシャ、ごくんとクロはケーキを食べ終えて、再びメニュー表をペラペラ捲る。


「え……えぇ!? あなた奴隷なの!?」


 アイリは驚きながら、俺を見た。俺は気まずそうに頷く。クロのことを奴隷だとは思っていないけど、世間的には一応奴隷扱いだからね。


「う、嘘でしょ! だって、つまみ食いしていたじゃない!」


「それって悪いことなのかな?」


 クロは頭を傾げながら言う。普通に悪いことです。


 とツッコミを入れつつ、俺は食べ物で汚れたクロの口をティッシュで拭く。


「なっ……! 口まで拭いてもらって……あなたもあなたよ!」


 アイリは俺を指差しながら言う。


「あなたが甘やかすから、自分の身分もわからない甘ちゃんになるのよ!」


 えー、俺も怒られちゃったよ。とはいえ、クロの無神経な発言は俺のせいな気もするが。


「で、でも市長だってアイリを拾ってくれたんだろ? 言ってみたら案外……」


「そんなわけないじゃない! なんなの! あなた達!」


「すみませんでした」


 年下に怒られちゃった……(´・ω・`)


 アイリは立ち上がり、その場を立ち去る。


「ごちそうさま!」


 早歩きで立ち去るアイリの後ろ姿に声をかけることができなかった俺は空気をおかずにライスを食べるのであった。


 ライスを食べ終えた俺はクロからメニュー表を取り上げて店を出た。


「お前な、もうちょい空気読めって」


「クロ、間違ったこと言っていないよ?」


「まー現実世界の価値観で言えば、そうなんだけどなー。難しいよなー」


 クロは「現実世界ってなに?」と俺のことを危ない人を見るような目で見てくる。


「お、ここが市役所(※)か。ここにアイリの主人がいるわけか」


(※市長がいるため、市役所もあります。どこの世界も同じ!)


 建物は煉瓦で作られているが、この世界の建物としては立派に見える。5階建てだし。


「ん? こ、これは……!」


 市役所の張り紙を見て驚愕する。


「市役所の清掃バイト……時給3000ゴールド!?」


 早速、俺はクロを連れて履歴書を買いにコンビニへ向かった。

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