第11話 健気な子や!

「私の名前はアイリ。あなた達は?」


 アイリと名乗った金髪ツインテの少女は、剣を鞘に収めた。


「俺の名はタナケン。こっちで泡を吹いているのは1000ゴールドだ(※)」


(※初対面の相手に内輪ネタを披露するタイプのコミュ障)


「ふーん、変わった名前ね」


「はは、冗談さ。本当の名はクロって言うんだ」


「違う。あなたの名前よ」


「はは……しょぼーん(´・ω・`)」


 俺はアイリに対して若干クソガキ感を抱きつつも、助けてもらったのでタメ語とかは気にしないことにした。というか助けてくれてありがとうございます。


 どうやら俺達は二重瞼コウモリ(カラコン種)を追いかけている間に、隣街の近くまで来ていたようだ。アイリは隣街に住んでいるとのことで、ひとまずドラゴンによって恐怖心を植え付けられた俺達はアイリについていくことにした。ちなみにクロは泡を吹いて気絶したまま俺の背中に乗っている。


「にしても驚いたな。そんな軽装備で森に一人で入るなんて」


「そう? 普通だと思うけど?」


 いやいや、普通じゃないって。肩出ているし、おへそも見えている服装で、普通モンスター討伐しないって。渋谷とかに行く格好じゃん、それ。


「っていうかあなた達も軽装備じゃない。なにか防御系のスキルを持っているの?」


「いや、俺らは鎧を買う金すらなかっただけだ」


 俺は堂々と言い切った。言ってて虚しくなった。


「アイリはパーティーを組んだりしないのか? 強くても一人だと心細いだろ」


「そんなのいらないわ。私、奴隷だもん」


「自信があるんだな……って、え?」


 あまりにサラッと奴隷なんて言うから聞き逃すところだった。


「私と組みたい冒険者なんていないわ」


「そ、そっか……じゃあ、主人に命令されてスキル集めしている感じなのか?」


「違うわ。ゴルバグ様は私を救ってくれた命の恩人なの」


 ゴルバグ……どこかで聞いたことあるような。


「あっ、隣街の市長か!」


 今向かっている隣街の市長は、ゴルバグという名前だったはず。確か髭の生えた偉そうなおっさんだったはずだが、市民に人気の議員とか聞いたような気がする。


「そうよ。私は4年前、ゴルバグ様に拾ってもらって自由を手に入れたの」


「なるほど。ドラゴンを倒せるスキルも市長に用意してもらったわけか」


「なに言っているの? 私の持っているスキルは全て自分で習得したものよ」


 マジ? あんな殺意マシマシなスキルを?


「さっきのアレ、専業冒険者並みのスキルだったぞ。一体、何のために?」


「決まっているでしょ。ゴルバグ様の役に立ちたいからよ!」


 アイリは待っていましたと言わんばかりにテンションが高くなる。


「ゴルバグ様は奴隷だった私を解放してくれた。その恩を返すために私はソロで活動しているの」


「感謝しているんだな。まぁ、主人によっては自由行動できない奴隷もいるもんな」


「私だけじゃないわ。ゴルバグ様は孤児の奴隷問題を解決しようと日々、市長として頑張っているの。私が街の安全を守っていれば、ゴルバグ様はお仕事に集中できるし、評判も上がるでしょ」


「あー、そろそろ市長選挙があるからな」


 この世界も四年に一度、市長選挙があるらしく、俺の住んでいる街でも選挙カー(※)が騒がしくなってきている。


(※この世界には選挙カーがあります。「車があったら移動系スキルの価値あんまなくね?」と思われるかもしれませんが、免許取得費用は貴族じゃないと払えない額という今考えた設定により、移動系スキルの価値は守られました。ちなみに作者は教習所に30万払ったけど、試験のときに視力が足りなくて免許を取れず、ただ30万と時間を無駄にした悲しい過去があるよ)


「そう。それに最近モンスターの生息分布が変わっていて物騒だからね。街にやってくる前に退治しなきゃいけないの」


「あんな物騒なドラゴン、今まで見たことなかったからな……一体どうなっているのやら」


「私が思うに勇者が西の魔王を倒したことで、手下だったモンスター達が逃げてきているんじゃないかしら」


 それはあるかもしれない。あのクソ勇者は適当なところがあるからな。


「ま、私としてはここら辺に元々住んでいるモンスターじゃ歯応えがないし、ちょうど良い練習相手が来てくれて助かっているんだけどね」


 ドヤ顔のアイリは見た目通り、子供っぽくて少し微笑ましく見える。やれやれ、こんな子がドラゴンをフルボコにするなんてやべー世界だぜ。


「めちゃくちゃ頼もしいことを言うなぁ。そんなに強くなってどうするんだ?」


「決まっているでしょ(二回目)。スキルをもっと磨いて騎士団に……いいえ、勇者になってゴルバグ様に認めてもらうのよ。そして……」


「そして?」


 俺が続きを促すと、アイリは少し顔を赤らめて言う。


「……本当の娘として認めてもらいたい……」


 アイリは恥ずかしそうに両手を人差し指をつけてモジモジする。


 …………( ˘ᾥ˘ )←タナケン


 めっちゃ健気な子や!( ;ᾥ; )←涙脆いタナケン


 俺が涙を流しているうちに隣街が見えてきた。


 助けてもらったし、年上の振る舞いとして食事のお礼でもするか。


 あと――


 いい加減起きろ! 1000ゴールド!(内輪ネタオチ)

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