第8話 勇者と魔王
俺とクロは昼飯を食べないまま、街から離れた森に辿り着いた。
今日も貴族の領地に生息するモンスター討伐する仕事だが、俺もクロもゲッソリした顔つきである。モンスターを討伐するどころか、逆にゾンビ系モンスターと間違えられて討伐されてしまいそうだ。
「よう、この子があんちゃんの言っていた娘か」
前歯がないおじさんC(再登場)が声をかけてきて、俺は会釈する。クロは俺の後ろに隠れてしまい、挨拶もしない。なんだ、意外と人見知りなのか。
「お嬢ちゃん、チョコレートあるけど、食べるかい?」
「食べるーーーーーー!!!!!!」
チョコレートに飛びつくクロ。人見知りじゃないわ、ただの食いしん坊だわ。
「飴ちゃんもあるぞ!」
そこへ前歯がないおじさんA(再登場)も現れ、クロに飴玉を渡す。
「あまり甘やかさないでくだ……ぐふっ!!」
思いっきり俺の脇腹にエルボーをかましたクロは「わーい」と歓喜の声をあげる。
「そうだ、あんちゃん。最近、ここら辺でBランクモンスターの目撃情報があったらしくてな。なにか普段と違うことがあったら引き返した方がいいかもしれん」
「Bランクですか。それはヤバいっすね」
俺は地面にうずくまりながら会話する。
モンスターにはランクがある。ランクはA〜Fまで存在し、Aに近いほど強く、Fに近いほど弱い。普段、俺が相手しているガントバシウサギや二重瞼コウモリなどはFランクモンスターであり、俺が持っているスキルではDランクモンスターを倒すのにも一苦労だろう。なので、Bランクなんて瞬殺だ、俺が。
「数日前に勇者が西の魔王を倒したからな。手下のモンスターが逃げてきたのだろう」
前歯がないおじさんG(新キャラ)が会話に加わってくる。
「えっ、あのクソ勇者、西の魔王を倒したんですか」
「なんだ、あんちゃん。知らなかったのかい。あれだけ話題になっていたのに」
「いや〜、いろいろ(※)あって最近のことは疎いもので……」
(※スキルショップに三日間並んだり、クロの暴食で破産した)
この世界には魔王が存在する。魔王は凶暴なモンスター達を統べる恐ろしい存在であり、ガントバシウサギが下っ端だとしたら、Bランクモンスターは課長、魔王は社長な感じだ(説明下手くそマン)。
魔王は特別ランクであるSランクモンスターに指定されており、その数は一体ではない。倒しても次の魔王が現れ、その度に人間の住む街を襲い、そこに魔王城を建てて辺りを支配する。話し合いで解決できればいいのだが、「ふふふ」と不気味に笑いながら不動産侵奪罪を犯す奴らと会話できるはずもなく、人類とモンスターは常に争い続けているのだ。
勇者はそんな魔王を討伐するために国から選ばれた冒険者である。具体的に言えば、その時代で最も強い者を決める『勇者グランプリ決定戦〜勇者になるのは君だ!〜』で優勝した者で、同じ時代に勇者は一人しかいない。勇者が退職したり、殉職したり、SNSで炎上してクビになったりすると時代が終わり、また『勇者グランプリ決定戦』が開催される。
勇者になった者は国を守るために魔王を倒す旅へ出なくてはならない。命をかける世界一厳しい職業とも言えるが、魔王一体討伐するだけで遊んで暮らせるだけの報酬金が出る。しかし、王様は成果主義だから初任給は50ゴールドと棍棒しか出してくれない。
「今の勇者と言えば、俺達と同じ農民出身だろ。本当凄いよなぁ」
前歯がないおじさんJ(新キャラ)は羨ましそうに言うが、どこか誇らしげにも見える。それは多分、今の勇者が俺達と同じ街出身であるからだと思う。あの「芸能人と出身地が同じなんだぜ」的な。
「ああ、前の勇者がコンビニで売られているおでんを聖剣でツンツンしてクビになったときは『誰が魔王を倒すんだ……』ってみんな不安がっていたからな。まさかあんな強くて若い勇者が出てくるとは」
「歴代最強の勇者とも言われているしな。出身地が同じってだけで俺も鼻が高いぜ」
「西の魔王を倒したことだし、近いうちに街へ戻ってくるかもしれんな」
前歯がないおじさん達は勇者の話題で盛り上がり、俺はオフ会で会話に混ざれない奴みたいな感じで話を聞き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます