第4話 いざスキルショップへ!
レベル5スキル――それはこの世界に住む人達の憧れだ。
どんな使い道のないスキルでもレベル5というだけで価値がつく。レベル4以下とレベル5、最高レベルかどうかで価値に圧倒的な差があるのだ。
その習得条件は謎に包まれており、効果だけでなく希少性もずば抜けている。自力で習得しようとしてもレベル4止まりが大半で、レベル3止まりも珍しくないと聞く。そのため、庶民はレベル5スキルを一度も手にすることなく、生涯を終えると言われているほどだ。
買おうとしても、その希少性から市場に出回ることがほとんどなく、勝ち組の冒険者やスキル資産家に買われてしまうのがオチだ。当然スキル資産家から借りようとしても高額で、庶民には手が届かない代物である。というかレベル5を所有しているスキル資産家自体少ないし、持っていたとしても命を狙われる危険性があるから表立って借主を募集することはほぼない。
現在レベル5スキルを所有している者の大半は先祖から代々受け継いできた家宝のようなもので、正攻法で手に入れた者は絶滅危惧種レベルで見ない。貧困の格差を助長させていると問題にもなっているが、この世は勝ち組によって支配されており、差は広がる一方だ。
そんな超レアスキルが、ようやく手に入ろうとしている。
俺は木箱に入れてある貯金を見ながら顔をニヤつかせた。
ここにある1億5000万ゴールドは俺の血と涙の結晶だ。と言っても1億4000万ゴールドはある人物から受け取った金で、実際に自分で稼いだのは1000万ゴールドなんだけれども。
まぁ、それでも1000万ゴールド貯めるのは大変だった。一日一食に減らしたり、狩りで捕まえたガントバシウサギを調理したり、ボロボロになるまで同じ服を着続けたり、とにかく節約しまくって貯めた1000万ゴールドだ。
全ては異世界スローライフを達成させるため。
レベル5スキルがあれば少なくとも月に数百万ゴールドのレンタル料も狙えるだろう。それだけあれば食べたい物を食べれて、好きな服も買えて、汎用スキルを買い揃えることもできる。瞬間移動系スキル、調理技術アップスキル、お部屋の収納テクニック向上スキル、身長アップスキルなどがあれば生活は快適になるだろう。せっかくだから「水ジャバジャバスキル」から「歩くウォーターサーバースキル」(※)に変えてもいいだろう。
(※身体に健康的な水を生み出す飲み水専用スキル。この世界にもウォーターサーバーがあるということにしてください。え? 井戸から水を汲む世界なのにウォーターサーバーがあるのはおかしい? ちょっと言っている意味がわからないです)
汎用スキルを揃えたら再び貯金して、レンタル用の資産スキルを増やしていく。それを貸し出して、さらに収入が増える。これで雪だるま式のようにどんどん増えていくシステムの完成や!
おっと、肝心の購入方法を言っていなかった。金があっても売ってなければ意味がないからな。
俺は様々な伝手を使った結果、数ヶ月後に某大手スキルショップ(※)の開店777周年記念品として販売するというリーク情報を入手している。
(※スキルを売買できるショップ。親しみやすい名前ではあるが、スキル自体が高額だから庶民には関係のないところである)
それもただのレベル5スキルではない。
『聖剣の究極奥義皆伝(レベル5)』
という剣技系スキルの中でもダントツで優秀なスキルだ。
そのレベル5となれば、需要があるかどうかって話じゃない。この世の全騎士、全剣士が欲しがること間違いなしだ。貴族もボディーガード不足と言われているし、借り手に困ることはないだろう。
リーク情報では1億4800万ゴールド前後で販売とのことだが、変わる可能性もあり得る。この機を逃したら次はいつになるかわからない。開店記念日まで残り10日、念には念を入れて今日から水と狩りで手に入れた食料だけで生活するつもりだ。家賃を払わなかったのも、それが理由である。
俺は必ず『聖剣の究極(略)』を手に入れてみせる!!!!!
********************************
それから10日後、ついに運命の日がやってきた。
スキルショップ『なんでもある屋』には朝から長蛇の列が出来ており、一番先頭は俺だ。聖剣の(略)以外にも入手難易度が高いレベル4スキルやお得な汎用性スキルを販売するという告知があったため、それ目当てで人が沢山来ているのだ。
「ご覧ください! この行列を! これは全てスキル目当ての人々です!」
開店30分前、カメラマンを連れたテレビリポーターがショップと俺達を背にして中継を開始した。ほぼ間違いなく生中継だろう。今、自分がテレビ(※)に映っていると思うと恥ずかしくなる。
(※この世界にはテレビがあります。もう世界観めちゃくちゃじゃねーかとツッコミを入れたくなる気持ちは理解できますが、そういうことにしておいてください)
「では、先頭の人にインタビューをしてみたいと思います!」
え? 俺?
「スターニュースです。お兄さん、今日は何時から並んでいるんですか?」
女性リポーターにマイクを向けられて、緊張しまくる俺。
「え、えっと……3日前からです!」
「3日前からですか! お兄さん1人で並んでいるようですけど、トイレとかはどうしていたんですか?」
「この『堅忍不抜(※)スキル』でどうにか耐えました!」
(※我慢して耐え忍ぶこと。つまり我慢の上位互換)
「なるほど。3日間も我慢して耐えられていたんですね! 病気になりそう!」
我慢していたのは尿意だけではない。飯もずっと食べていなくてフラフラだ。
「では、最後にテレビを見ている人に一言!」
えー……俺、そういうこと喋るの苦手なんだよな。
「こほん! 今やスキルは世界的ですもんね。乗るしかない、このビッグウェ……」
「以上! なんでもある屋からでした!」
最後まで言わせろよ、頑張ったんだから。
そして、あっという間に30分が過ぎ――
「お待たせしました! 開店です! 前の人からゆっくりお進みください!」
俺は背筋を伸ばして堂々と店へと踏み出した。
レベル5スキルがあれば変わる。全てが変わるのだ。
「「「いらっしゃいませ!」」」
入り口から大勢のスタッフに出迎えられる。こんなの現実世界で車を納車したとき以来だぜ。
「お客様、なにかお探しの物は……」
店長と思われる男性が出てきた。顔はニコニコしていて腰が低いが、「なにか高いものを買ってくれるだろう」と期待されているような雰囲気が漂ってくる。なかなかのやり手とお見受けしたでござる(突然の侍口調)。
「レベル5……」
俺のボソリと口にした言葉に、店長は「はい?」と聞き返す。ちなみにカッコつけて言ったわけではなく、ただ空腹で声が出なかっただけだ。
「例のレベル5スキルを買いたい」
「なっ……!? レベル5スキルですか!?」
さっきまでの穏やかな雰囲気から一変、店長の顔つきが変わり、近くにいたスタッフに「おい、アレを用意しろ」と命令する。
「お客様、ここでは目立ちますので、奥の部屋へ」
奥の部屋へ案内された俺は高そうなローテーブルを挟んだ高そうなソファに座った。対面には店長が座り、遅れてスタッフからスキルが運ばれてくる。
ちなみに今更だが、スキルは光の玉として具現化することができ、その状態を『スキル玉』と呼ぶ。スキル玉を体内に吸収するとスキルの譲受が完了する。
「おぉ、これが『聖剣の(略)』か……!」
虹色に光り輝くスキル玉、その美しい光を見ただけで普通のスキルとは違うことがわかる。
「お値段は1億48000万ゴールドになりますが……」
「ああ、問題ない」
俺は『手荷物の収納テクニック向上(レベル1)』スキルを使って小袋に入れていた貯金箱こと木箱を取り出し、中身を見せた。
「では、交渉成立ということで」
金さえあれば、あっさり手に入るものなんだな、と拍子抜けする。
「まず本体価格が1億5000万ゴールドで……」
ま、これで長かった労働ともおさらばして、勝ち組スローライフが始まる。
「消費税が3億ゴールドで……」
ん? 消費税?
「え、ちょっと待って。消費税??????」
「どうされたのですか?」
「いや、この世界って消費税ないですよね?」
「なに言っているんですか。あるに決まっているじゃないですか」
ははは、と笑う店長。え? あるの?
「いやいや、冗談ですよね? 俺、ここに来てから消費税なんて見たことないですし」
「はい? この国には1億ゴールドを超える買い物に限り、消費税が200%かかる法律があるじゃないですか」
なんだよ、その法律。
「それと固定資産税が毎年3000万ゴールドかかります。格差が広がる防止としてスキルは多めに取られます」
「固定資産税もあるの!? そりゃ今までも恋愛小説しか書いたことがなかった作家がノリだけで書いた異世界ラノベみたいなガバガバ世界観だとは思っていたけれど、なんで誰も喜ばない設定は用意されているわけ!?」
俺は思わず立ち上がり、叫んでしまった。
「つまり、お買い上げになられないってことですか?」
「当たり前だ! なにが消費税200%じゃ!」
俺が主人公にあるまじき逆ギレをかますと、店長は先程一瞬だけ見せた顔に戻り、スタッフに命令する。
「おい、この貧乏人を外へ放り出せ」
一瞬で黒服の男達に囲まれてしまい、俺は持ち上げられてしまう。
「ちょ、待てよ!」
そのまま店内を通過して、店の外へ放り出されてしまった。
「ぎゃふん!」
「二度と来るんじゃねー! バカ! アホ! マヌケ!」
店長はあっかんべーしながら吠え続ける。小学生か。
「いてて、危うくチビるところだったぜ……」
俺は立ち上がり、土埃まみれになったズボンを叩く。
「そこのお兄さん」
後ろを振り返ると、サングラスをかけた怪しい男が立っていた。
「レベル5スキルを買おうとされていましたね」
「なんでそのことを?」
サングラスの男は手元にスキル玉を乗せ、スキル名を表示させた。
『障子に目あり壁に耳ありスキル(レベル2)』
「盗み聞きのスキルか……趣味わりーぞ」
俺がプンスカ怒ると、サングラスの男は「まあまあ」と宥めるように手を上下させる。
「お兄さん、私ならもっと良い物を紹介できますよ」
「良い物? レベル5スキルでも持っているとでも言うのか?」
「レベル5スキルではないですが、それに匹敵するほどの良い物です」
サングラスの男は不審者の如く「ふふふ」と笑う。いや、実際不審者でしかないんだけれども。
結局、予定もなかった俺は暇つぶしとして、不審者についていくことにした。
ボロい建物の地下にある一室に案内された俺は、そこであるものを売りつけられる。いや、あるものと呼ぶのは良くない。
「活きの良い品が手に入ったんですよ」
そこには首輪をつけられた黒髪の女の子が地に這いつくばっていた。
「申し遅れました。私こういう者です」
サングラスの男から名刺を渡され、俺は動揺する。
その名刺には――ニコニコ奴隷商会と書かれていた。
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