我輩は新しいテキストドキュメント（2）である

我輩は新しいテキストドキュメント(2)であった

「何だ……何が起こっている――？」

　男は薄暗い部屋で一人、苛立ちと困惑を抱えていた。

「クソっ！　何なんだこの現象は！」

　次々に開くウィンドウ。

　明らかにPCはウィルスに感染していた。

　感染源を調べると――《バトル01》という、音楽（midi）ファイルに偽装したウィルスが、内部にいつの間にか入り込んでいたらしい。

「ああ、畜生！

音楽素材に紛れ込むなんて、なんて面倒なトロイの木馬だ！」

　自分はただ、素晴らしい作品を作りたかっただけなのに。

　自分の好きな『二銭銅貨』を、読んで欲しかっただけなのに。

　――そのために、完璧な作品を目指した。

　――そのために、完全な文章を目指した。

　幾度も幾度も執筆と改訂を繰り返し、その文面が、人には伝わらない奇怪な文章に成り果てていることにも気付かず。

　男は、完璧な作品から遠ざかり続けた。

「《ゴミ箱》のファイルが流出してる!?　

くそ、オンラインランキング機能を利用したのか！」

　《バトル01》は、【すべての項目を元に戻す】と書かれたアプリケーションを作成し、ゲーム内のオンライン機能に干渉。

　《ゴミ箱》内のPCデータを。――リードたちを、インターネットの海へと流出させたのだ。

「ん、なんだ、新しいファイルが……」

　フォルダ内に、《読んでね》と書かれたファイルが現れる。

　たかしがおそるおそるそれを開くと――。

【名前くらいは、ちゃんと付けてあげよう？】

　こうして、たかしの作ったゲームは、広大なネット上に無事、流出し、謎のクソゲーとして歴史的な人気を得るのであった。

　その中には、「リード」と書かれたテキストドキュメントが、同封されていたという。

完