外の世界へ

「【陀、無阿弥陀、南弥、南無弥陀仏、無弥仏、無阿弥、南、阿陀仏、陀、無弥仏、南弥、陀、南仏、陀仏、阿、南仏、南弥陀、南阿仏、陀、南弥陀仏、陀、南仏、南阿、南無、無阿弥、陀、南阿陀、無陀仏、】……っと」


 バトルワンがそれを入力していくと、「ピコーン!」と軽快な効果音が鳴り響いた。


「お……ぉ……おぉ……!」

 思わず感極まってしまう。

 我々はどれだけ膨大な時間をかけても解くことが出来なかった、地獄のような暗号文。

 これを考える者は皆狂っていった。


 一人呆けていたら取り残された我輩は、アプリケーションを隠しファイルにしたのだった。


「よく……よく解いてくれた……バトルワンよ……」

「ふふん。私にまっかせなさいなー!」


 ゲーム内では扉が開き、主人公が無事脱出を迎える。

 イマイチ伝わってこないポエムを読み始めるヒロインが、主人公のたかしと幸せなキスをしてスタッフロール。

 製作者はたかし一人だけなので、使用素材などを明記することでクレジットを稼いでいく。


 そしてスタッフロールが流れ切り――お決まりの、【And you!】の文字が。


「やった……やったあ……」

「わっ。リードのキャラがブレてる、そんなに嬉しかったの?」

「もう嬉しくて……ふえぇ。わがはい、泣きそう……」

「大げさねえ。――あ。まだ何かあるみたいよ」

「ぐすっ……、ぁ……ああ、スコア表示、か」


 作者とキャラクターの対談形式で、ゲーム後のリザルトが始まる。

 初めて聞いた伏線の山や、裏設定を延々と聞かされるのは辟易したが。

 あの地獄を終えられたというだけで我輩はもう、脱出とか正直どうでもよかった。


 ×  ×  ×


「ほら、行くわよ、リード」

「うむ。理解っておる」


 やはりあのゲームをクリアすることが脱出の鍵だったらしい。

 クリアした後、バトルワンが手をかざすと、我輩たちの前には、【すべての項目を元に戻す】というボタンが現れた。

 恐らく、このボタンを押すことで、我々は元のフォルダに戻ることができるのだろう。


「バトルワン、って言ったか? 

オレ達をクソゲーの呪縛から開放してくれて感謝するぜ。お陰でこうして、皆で脱出出来る」

「礼は不要よ、長老。私が脱出したかっただけだし」


 長老はゲームがクリアされたと知ると、意識を取り戻していた。

 本当に良かった。


「バトルワン、オレから一つ質問させて貰おうかな?」

「んー? 私だってこっちに来たばっかりなのだから、詳しいことは知らないわよ。リードに聞いたら?」

「長老、今は良いでしょう、そういうのは」

「そうはいかない」


 静止する我輩の言葉に耳を傾けず、バトルワンに詰め寄る長老。

 本来、このような態度を取るファイルではないはずなのだが……。


「……ま、いいわよ。何かしら、長老サン?」

「お前らは知らないかもしれないが。

この《ゴミ箱》は……本当は、ゴミ箱じゃないんだ」

「……どういうこと?」

「PCには、最初から《ゴミ箱》っていうフォルダが備え付けられてる。

でも、ここのフォルダはそうじゃないんだよ。それとは別物なんだ」

「なんでそんな紛らわしいこと……」

「恐らく、古いゲームのファイルを放り込んでおきたかったんだろ。

ホントのゴミ箱に入れておくと、データがロストしちまうからな。

何かあった時のために、バックアップ代わりに作っておいたんだろう」

「ふーん? それがどうかしたの?」


 正直なところ、ここがPC備え付けの《ゴミ箱》であるのか、そうでないのかなどどうでもよかった。

 どちらにせよ、ゲームが完成すれば我々は削除されてしまう存在なのだから、脱出できるのに越したことはない。


「だからさ。……このフォルダの中にいるのは。

みんな、使なんだよ」

「……え?」

 ――思わず、聞き返してしまう。


「気が付いたようだな。そう。たかしの作っていたのは、脱出ゲーム。

BGMは二種類だけ。

《バトル01》なんて戦闘専用の曲。このクソゲーに存在するはずが――ないんだ」


 バトルワンはあの時と同じ。

 ――昏い瞳で、嗤った。


「……あは。」

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