破片を集めて
長老は、辺りを見回した。
そこには我輩たちだけではなく、数多くのファイルが集まっている。
「ここには、結構な数のファイルが捨てられてる。
データを何度も消してる、って書いてあっただろ? 多分、ゲームのファイルも揃ってると思うんだよな。
――おい、皆。ちょっと来てくれ!」
そう言って長老は、他のファイル達を呼び集める。すぐに寄り集まってくる辺り、人徳が窺い知れるというものだろう。
「なんだなんだ長老。どうかしたのかい?」
「げへへ、面白いことでもやるんでげすか?」
「長老の頼みであればこの生命、捧げる覚悟は出来ている」
妙にキャラの濃いファイルたちに、サムズアップする長老。
「おう皆愛してるぜ!
もしかしたらこのゲームが、脱出への手がかりとかになってるのかもしれねえ。
オレが《新しいテキストドキュメント》から《構成設定》に自分を書き換えれば、起動くらいなら出来るはずだ」
そう言った瞬間、ファイル達がどよめく。
「そんなッ! そんなことをしたら長老は!」
「どうなるか分からない、今すぐやめるべきでげす!」
どうやら過去、この《ごみ箱》の中で、自分のファイルを書き換えた存在など類を見ないようで、どうなってしまうかは予測も付かないらしい。
「皆、心配してくれてありがとな。
……でも、オレはやりてえんだ。自分のしたいことに、後悔したくない」
長老の、老いているとは思えぬ血気盛んな一言。
それに反論できる者はいなかった。
「それにさ、少し自分を書き換えたくらいで、オレが無くなる訳ではないと思うんだ」
「だといいですが……」
「まっ、見てなって! ちょっくら書き換えて来るからよ!」
――その後。
結果として長老は自分を失うことなく、《構成設定》への書き換えも成功した。
彼は賭けに勝ったのだ。いや、……負けていた、とも言えるが。
「起動した……」
ゲーム画面が表示され、驚く一同。
あの時無理矢理にでも止めておけば良かった――そんな我輩の後悔も、今は後の祭りである。
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