リードの過去

 我輩が初めてそのフォルダに訪れた時。

 今ほどに陰鬱な景色は広がっていなかった。


「あの……ここは……?」


 今では考えられぬことであるが、当時の我輩は右も左も解らずついでに前後不覚。

 小動物のように困惑し、同じテキストファイルに問いかけていた。


「あん? 何だ、新入りか。ここは《ゴミ箱》。オレ達は棄てられたのさ」

「ぼくが……《ごみ箱》に……?」


 その頃の我輩は右往左往していたので、一人称もそれに応じたものであった。


「そう。ま、捨てられちまったからには仕方ねえ。

諦めて待つか、“すべての項目を元に戻す”でも管理者が押してくれるの、期待するしかねえんじゃねえかな」

「期待するって言っても、何をすれば……」

「なんでもいいさ。思ったことは全部やってみるといい。

後悔するよか、マシだろ?」

「そうですね……。えと、あなたは……?」

「おっと、自己紹介がまだだったな」


 そのテキストファイルは、快活な笑みを浮かべ、我輩に言った。


「オレは新しいテキストドキュメント。

呼びにくいんで、皆からは《長老》って呼ばれてる。変な名前だよな?」


 《長老》は、その名に似つかわしくない若々しい様相で、我輩を励ましてくれた。

 それだけではない。他のファイルに我輩のことを紹介し、間を取り持ってくれたのも長老だ。

 ごみ箱という空間(フォルダ)の中であっても、心を壊さずに日々を生きられたのは、間違いなくあのテキストファイルのお陰だろう。


 本当に幸せな日々だった。あの日までは。

 

「……どうです? 

一つ、お互いのファイルの中身を見せ合うというのは」

「いいね、お前さんのファイルを見れば、新しいテキストドキュメント(2)なんて名前じゃなく、もっとちゃんとした呼び方をしてやれるかもしれない」


 興味本位の提案だった。それで何かが生まれるなんて思ってなかった。

 長老も乗り気な様子で、お互いがお互いのファイルに、《開く》を使用した。


「うそ……だろ……!?」

 先にそれに気が付いたのは長老だった。

「うん? 何か面白い文字列でも? ……アッ!」


 長老のファイルを見た我輩は、思わず驚嘆の声を上げてしまう。

 そう。それは、どこかで見覚えのあるものだったのだ。

 

■ご挨拶

本作をDL頂き誠に有難うございます。

データを消しては作り直し、消しては作り直し。拙作ですが、三年という時間と愛情は込めたつもりです。

オンライン接続のスコアアタックも用意しているので、よろしければ。


■動作環境

OS:Windows98/98SE/Me/2000/XP

CPU:Intel PentiumⅣ 1.5GHz 相当以上

DirectX:DirectX9.0以降

要RPGツクール2000 RTP


■使用ツール

RPGツクール2000


■作者

たかし


■プレイ時間

未定


○謎解きがどうしても出来ない! という時は……。(ネタバレ注意! 楽しみを損なう恐れあり)

『乱歩を読め』



 それはどうやら、個人制作のゲームに付属する予定の説明書であるらしかった。


「驚いた。ぼくとあなたは、同じ作品の説明書だったのですね」

「あぁ、オレも驚きだ。ただ……少し違うな」

「ですね」


 我輩と長老の説明書は、いくつかの差異があった。


「一つは年数。オレのテキストが“四年という時間をかけた”ってあるのに、お前の方は四年ではなく五年と表記されている」


 一年という時間の開き。

 ここに書かれた文面が嘘偽りでないのなら、一年間、製作が続いていたのだろう。

 プレイ時間が未定となっているのも、開発途中であったのであれば道理だろう。


「もう一つの変化。妙に意味ありげな一文――謎解き(リドル)の、ヒントですね」

「面白い。内容が変わるのはともかく、ヒントが変わるってのは変な感じだよな。

もしかすると、製作者がどんな風にヒントを出すか迷ってたのかもな」


 我輩の方に“二銭銅貨”と書かれていたヒント欄は消され、長老のテキストファイル内において“乱歩を読め”と表記されていた。

 順序からすると、我輩のヒントの方が、後に書かれたということになるが。


「作者は、何を作るつもりだったんだろうな」

「少なくとも、試行錯誤をしていたことだけは確かだと思いますけど」

「…………」

「……?」


 何かを考え込んでいる長老。

 そろそろ長老と言うほど老けている印象は拭われていたのだが、皆がそう呼ぶので仕方がない。


「なあ。もしかしたら、なんだけどさ」

「はい?」

「――そのゲーム、プレイできるかもしれねーぞ」


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