第4話 デッド・オア・アライブ
この国で奴隷は合法だ。
しかし子供を誘拐して売り飛ばすような行いは犯罪だ。
奴隷のなり手は敗戦国の住人とか、孤児とかだ。それだって強制ではなく、あくまで契約のもと奴隷になる。
奴隷は職業選択の自由はないけれど、主人から給金をもらえる。その給金を貯めて、主人から自分を買って自由の身になる奴隷もいる。
合法的な奴隷は、人間扱いされるのだ。
かつてボクも奴隷に志願しようか本気で悩んでいた。
だけど、あの三人の取引先は、誘拐した子供を薬で洗脳して好事家に売り飛ばす、非合法の奴隷商だ。
売り飛ばされた奴隷がどういう扱いを受けるか想像もしたくない。人間扱いされないのは確かだろう。
奴隷商の拠点は、町の中にあった。ただし表向きは、酒場の看板を出している。
その酒場にボクが入ると、辛気くさそうな店員が「ここはガキの来るところじゃねーぞ」とお決まりの台詞を吐いた。
「非合法な奴隷を扱ってるって聞いたから、見物に来たんだよ」
そう告げると「てめぇ、それを誰から聞きやがった」と叫び、答えるより早く殴りかかってきた。
ボクは殺さない程度に反撃する。
すると奥から人相の悪い男どもがワラワラと湧いてきた。
それを倒しながら進んでいくと、地下室に辿り着く。
檻の中に、子供が沢山いた。二十代くらいの若者もいた。
みんな虚な瞳でジッとしている。
人間ではなく商品として扱われる人々。
見ていて気分がいいものではない。
ボクもこの中に加わっていたかもと思うと、胸くそ悪くなる。
地下の部屋を巡っていると、豪華な調度品に囲まれている男がいた。一発殴ってから質問すると、素直に答えてくれた。成金っぽい見た目通り、彼はここの支配人だった。
ここで扱っているのは、見た目がよい者や、レア特性を持つ者。
仕入れた奴隷の自我を薬で奪って、肉の人形にしてしまう。
呼吸する人形を欲しがる金持ちの変態は、結構いるらしい。
それと洗脳したレア特性持ちは、忠実な兵隊として需要があるんだとか。
右足を折ると、ここに奴隷を買いに来る顧客リストを出してくれた。
左足も折ったら、奴隷を売りに来る売人リストをくれた。
売人リストの束の中に、あの三人の名前があった。ボクはその一枚を目立つように一番上にしてから束ねた。
それから檻の鍵を壊して、奴隷たちに逃げるよう呼びかけた。けれど反応がない。薬が抜けるまで時間がかかりそうだ。それなら衛兵に保護してもらったほうがいいだろう。
というわけでボクは衛兵の詰所に行き、違法奴隷商の地図と、売手と買手のリストをセットにし、窓から放り込んでやった。
ただのイタズラと思われるかもしれない。しかし全く調査しないということもないはず……と思いながらしばらく待っていると、数人の衛兵がボクの書いた地図の場所に向かっていった。
ボクはそれを追いかけ、違法奴隷商の建物を外から見守った。
衛兵たちは、そこで本当に犯罪が行われていたと確認し、血相を変えて応援を呼びに行った。
今度は完全武装した大部隊がドタバタと突入していく。
更に待っていると、ボクが殴り倒した奴隷商たちが捕縛されて出てきた。奴隷たちを保護するため、救護班も中に入っていく。
ボクは町の飲食店や雑貨屋を巡って、客や店員に雑談がてらに噂を流しまくる。
違法な奴隷商の大規模な摘発があった。その取引先リストに、今をときめく冒険者グレドとエンデルの名前があったらしい、と。
「ええ! 私、あの二人のファンだったのに。本当だったらショックだわぁ」
噂はあっという間に町を駆け巡った。
なにせ衛兵が突入するところや、奴隷を保護して連れ出すところを見た人がいる。目撃者たちはボクより熱心に噂してくれた。
グレドとエンデルは、町の外でモンスターを狩っていたらしい。
噂が流れているのを知らずにノコノコと冒険者ギルドに顔を見せた。
「お前ら、俺たちをジロジロ見て、なんのつもりだ?」
「このゴブリンロードの首が羨ましいのですか? 自分の実力で倒してください」
二人はいつもと違う空気を感じ取ったみたいだけど、まさか悪事が明るみになっているとは想像できなかったらしい。周りの冒険者を睨みつけ、受付に向かっていった。
ボクはフードを深く被って、その様子を観察する。
するとそこにフルプレートアーマーで完全武装した衛兵の集団がやってきた。
「グレドとエンデルだな。違法な奴隷の売買に関わった容疑で連行する」
その瞬間、二人はギルドにたちこめる空気の正体に気づいた。気づいてからは動きが速かった。
衛兵を押しのけて逃げだそうと走り出した。
が、衛兵とて子供のお使いではない。領主に雇われた精鋭だ。グレドとエンデルを殺してでも捕らえようと抜剣し、ギルドで激しく火花が散った。
結果、二人は町から逃走するのに成功した。ただし『衛兵殺し』の罪を新たに背負いながら。
冒険者ギルドに、グレドとエンデルの手配書が張り出された。
銀勲章の候補者から、賞金首に成り下がったのだ。
賞金支払の条件は、
さて。それじゃあ、その賞金をボクがいただくとするか。
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