第3話 町への帰還
なんとか街道に辿り着く。そこにあった立て看板のおかげで、かつて拠点にしていたマルレノの町の方角が分かった。
けれど一つ問題があった。
もともと着ていた服からしてオンボロだったけど、今のボクはそれを通り越して、全裸である。
なにせデスワームと初遭遇したとき自爆して逃げたので、服が消し炭になったのだ。
全裸で町に入ったら、あの三人に復讐する前にボクが衛兵に捕まるだろう。
仕方がないので適当な獣を殺して、皮を剥いで身に纏う。
ちなみにモンスターと普通の動植物の違いは、レベルがあるかどうかだ。動植物をいくら殺しても経験値やステータスポイントをもらえない。
なんとか全裸を回避したので、町に入り、デスワームの牙を武器屋に売る。
ついでに店主と雑談し、ボクが崖から落ちてから約一年が経っていると分かった。
本当は冒険者ギルドに売りたいのだけれど、ボクはまだ会員じゃないので受け付けてもらえないだろう。
頭部ごと持って行って「これはボクが倒しました」とやれば会員になれたかもしれない。失敗した。あのときはそこまで考えが回っていなかった。
けど、実力を証明する機会はいくらでもある。当面の生活費を稼げたので、今はそれでよしとする。
さて。金ができたので、ちゃんとした服を買おう。
「いらっしゃいませ。あら、可愛らしい女の子。この服とかオススメですよ」
「いえ。ボクは少年です」
「あら、あらあら! 女の子みたいな美少年なんて、お姉さんの好み! じゅるり……」
ちょっとヤバい店員だ。
でも扱ってる品はいいし、小さい町なので、ほかに店の選択肢が少ない。
お姉さんがハァハァしてるのを我慢して服を選ぶ。
よし。長髪の少年剣士って感じのコーディネートになったぞ。
我ながら格好いい。
「はぁはぁ……メッチャ好み……お金はいいから、このあとお姉さんとデートしない……?」
タダより怖いものはないという格言を信じて、代金を押しつけて店を出る。
そして冒険者ギルドに行く。会員じゃなくてもロビーに入るだけなら自由だ。
あの三人がいたらよかったんだけど、そう都合よく会えなかった。
代わりに適当な人を捕まえて、近頃の三人の様子を聞いてみる。
剣士グレドと魔法師エンデルは、いまやこの町の冒険者としてトップクラスになったらしい。
もうすぐ二人には、優れた冒険者の証である『銀勲章』が授与される予定だとか。
だが弓使いアランは半年ほど前に死んだ。モンスターに殺されたという。
ボクは夜になってからアランの墓に行った。
やはりアランの幽霊がいた。未練や怨念を残すと、なかなか成仏できずに現世を漂ってしまうのだ。
「久しぶりだね、アラン。幽霊になってもボクを覚えてるかな?」
「お前は……崖から落ちて死んだはずだ……お前も幽霊になったのか?」
「違う。ボクは生きている。それより、あなたほどの冒険者が、この辺のモンスターに殺されるなんて信じられない。グレドとエンデルに殺されたんだろ? あの二人がボクを強姦しようとしたとき、あなただけは加わろうとしなかった。そういうノリの違いは不和を生む。普通ならパーティーから抜ければいい話だけど、あなたたちは犯罪者だ。秘密を知る者が仲間じゃなくなったら殺すしかない」
「そうだ。俺はパーティーを抜けようとも、人さらいをやめようとも思っていなかった。ただノリが違うというのがグレドとエンデルにとって気にくわなかったんだろう。いきなり後ろから襲われたんだ」
「ふぅん。こんなところで地縛霊をしているんだから、よほど悔しかったんだろうね。ボクがグレドとエンデルを破滅させてあげる。だから、あなたたちが子供を誰に売り飛ばしていたか、知っていることを教えて」
「奴らに破滅を? 本当か!」
そしてアランは、取引先だった奴隷商について話してくれた。
「お前がなぜ生きているのか。どうして霊を見る力があるのかはどうでもいい。とにかくグレドとエンデルに復讐してくれ」
「復讐はする。けど、それはボクの復讐であって、あなたのじゃない。あなたは消滅させる。町に地縛霊がいるなんて気持ち悪いからね」
「な、なんだって? やめてくれ! 俺はあいつらの破滅を見たくてここにとどまっているんだ!」
そんな願いは聞けない。
こいつは強姦に加わらなかっただけで、ボクを騙していたのは確かだし、ほかにも沢山の子供を食い物にしてきたのだ。
望みを叶えてやるなんて、まっぴらごめんだ。
「ぎゃああああっ!」
アランの霊は、ボクの力を受けて消滅した。
もっと静かに浄化することもできたけど、少しばかり苦痛を与えてやった。
グレドとエンデルはこんなものじゃ許さない。あのときボクが味わった恐怖を百倍にして返してやる。
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