第2話 HP:10055

 洞窟を探索していると、コウモリと出会った。

 翼を広げると幅が二メートルを超えるような大型。確かゲームだと吸血オオコウモリという名前だった。

 スライムよりは遙かに強いけど、今のボクなら楽勝だ。

 素早く近づき、一撃で殴り殺す。


【ステータスポイントを10獲得しました】


 仲間が殺されたのを感知したらしい。コウモリの群れが襲い掛かってくる。


【ステータスポイントを10獲得しました】

【ステータスポイントを10獲得しました】

【ステータスポイントを10獲得しました】


 ボクの強さに驚いたのかコウモリたちは途中から逃げの一手になったけど、当然、追いかけて撲殺。

 二十匹も倒してしまった。つまりステータスポイントを200も手に入れた。

 筋力と素早さに均等に割り振ろう。


――――

レベル:1

HP:15

MP:30

筋力:200

魔力:10

防御力:5

素早さ:153

――――


 雑魚を効率よく狩るためのパラメーターだ。

 けれど、そろそろHPと防御も強化しようかな。

 なにせ再生するとはいえ、死ぬと痛い。再生中もずっと痛い。

 ミスったときのため、保険をかけておこう。


 今日はかなり戦って疲れた。

 お腹が減った。食べられそうなのはコウモリの肉しかない。不味そうだ。

 毒はないだろうけど、生食は病気になりそうだ。

 炎が欲しい……一番最初に覚える攻撃魔法は炎属性だ。使えるんじゃないか?

 試しに念じてみると、手のひらから炎が出た。

 これなら焼いた肉を食べることができる。

 バリバリ……筋張ってるけど、意外と不味くはないな。

 腹が膨れたところで、岩と岩の隙間に隠れて一眠りした。


 次の日も、モンスターを探して洞窟を進む。

 すると開けた場所に出た。野球ができそうなくらい広い。


「あ。ヤバい……」


 広場の中央にいる存在を見て、ボクの血の気が引いた。

 ミミズのようなモンスターだ。ただし長さも太さもスライムやコウモリの比ではなく、十両編成の列車などでようやく比肩しうる。

 先端部には巨体に見合った口があり、肉食なのを物語るように無数の牙が生えていた。


 デスワームだ。

 あれはかなり強い。スライムや吸血オオコウモリと同じダンジョンにいていいレベルのモンスターではない。

 難易度調整はどうなっているんだ。と思ったが、この世界はゲームに似ているだけで、ゲームそのものではない。ボクに都合のいい難易度調整なんてあるはずがない。


 デスワームがボクを見た。

 そして向かってくる。

 食われたらどうなるのだろうか。

 ボクは肉片からでも再生できるらしい。でも胃の中で再生が始まっても、すぐに解かされて、いつまでも元に戻れない気がする。

 排泄物の中で復活するのは汚いけど、まだいい。最悪なのは栄養として吸収されること。ボクは癌細胞みたいに奴を乗っ取るのだろうか。それとも消されてしまうのか。半端に融合して意識を取り戻すのも嫌だ。


 試してみようなんて気にはならない。

 ボクはただただ恐ろしくて、デスワームから逃げるために背を向けて走った。

 けれど、向こうのほうがずっと速い。

 追いつかれる。


 この状況から逃れるたった一つの方法を思いついた。

 過激だけど迷ってる時間はない。

 死にたくない一心で、ボクは体内で炎魔法を全力で使い、内側から爆発させた。


 意識を取り戻したとき、ボクは広場じゃなくて、その外側の通路にいた。

 頭部が狙い通りに吹っ飛んで、そこから再生が始まったらしい。

 デスワームが追いかけてくる様子はない。奴はこの通路より太いのだ。


 そのあと、デスワームがいる広場を避けて洞窟を探索してみたけど、同じ場所をグルグル回って、結局はデスワームの広場に戻ってきてしまった。

 つまり先に進むには、デスワームを倒さなきゃいけないのだ。


「……まあ、いいさ。やってやる。デスワームは強いけど、ゲームではもっと強いモンスターとも戦った」


 効率的にステータスポイントを稼ごう。

 死霊術師の力も使う。死霊術師は倒した敵の霊を召喚して戦わせることができる。

 最初は霊を三体までストックできる。ゲームだと何度も使っているとストック枠が増えた。この世界でもそうなのか分からないけど、今のストック枠が三つであるのは実感できた。


 吸血オオコウモリの霊を三体呼び出す。姿形はそのままで半透明になっている。その三体はボクの意思に従って、モンスターと戦い始めた。

 けれど弱い。役立ってるとは言いがたい。


「コウモリより強いモンスターってなるとデスワームなんだよな。極端すぎる。その中間はボクか。さっき自爆したから、もしかして……」


 試してみたら、半透明のボクを召喚できた。

 もう二回自殺して、ストック枠をボクで埋めた。

 ボクは生きてるのにその幽霊を操るというのは変だ。けれど昔見たSFアニメで、魂をダビングする話があったので、そういうものだと思うことする。公安九課と少佐を信じよう。

 そして三体のボク幽霊を操って、ステータスポイントを稼ぎまくる。

 

【ステータスポイントを10獲得しました】

【ステータスポイントを1獲得しました】

【ステータスポイントを10獲得しました】

【ステータスポイントを10獲得しました】

【ステータスポイントを1獲得しました】


――――

レベル:1

HP:10055

MP:517

筋力:3001

魔力:500

防御力:10612

素早さ:2490

――――


 かなり長いこと、この洞窟にいる。

 一年以上は経っただろう。

 おかげでデスワームを余裕で倒せる程度に強くなれた。

 あの三人を倒すのは、なおのこと楽勝だ。


 さて、と。

 ボクは落ち着いた気分でデスワームへと歩いて行く。

 前回と同じく、デスワームは牙を剥きだしにして突進してきた。


 しかし、その牙は見えない壁に阻まれてボクに届かない。

 魔力障壁。

 殴る蹴るばかりだと芸がないので練習して使えるようにしたのだ。


 不思議そうにしているデスワームへ、ボクのゴースト三体が一斉に体当たり。巨体を浮かび上がらせた。


「トドメだ」


 ボクと、ゴーストたちが腕を突き出す。

 手のひらから火球が飛び出し、空中を舞っている敵へ同時に着弾する。

 四カ所を抉られたデスワームは悲鳴を上げながらのたうち回った。


「あまり魔力を強化しなかったから殺しきれなかったか……無駄に苦しませたな。済まない。次こそ、本当に最後だ」


 自慢の拳をデスワームに叩き込む。

 殴った場所から衝撃波が体内を伝わっていき、内側から木っ端微塵に破裂した。


【ステータスポイントを299獲得しました】


 デスワームはレベル300の強敵だ。

 ゲームだとレベルカンスト後でなければ太刀打ちできない、いわゆるエンドコンテンツの一つだった。苦戦した覚えがある。しかし今回は歯応えを感じない。

 ボクはゲームの自キャラよりも、かなり強くなったのだ。

 数値だけで分かっていたことだけど、こうして拳を敵に叩きつけると、より深く実感できた。

 ボクは強い。そして、これからもっと強くなる。


 それにしても299というのはキリが悪い。スライムを倒して、もう1ポイントゲットだ。

 そしてMPと魔力に150ずつ割り振る。


 それからデスワームの牙を抜く。鋼鉄より頑丈なので、武器の素材になるのだ。十本もあるから、いくつか売ってお金に換えてもいいね。


 無制限アイテム収納を実行。

 デスワームの牙が幻のように消えてしまう。別次元に収納されたのだ。出し入れはボクの自由自在。

 あのゲームでは「その大量の荷物どこに入れてるの?」というありがちなツッコミに対して『別次元』という設定がなされていた。

 それでも普通は持ち運べる重量に制限があるのだけど、無制限アイテム収納の特性を持つキャラは、重さを気にしなくていいのでプレイが楽なのだ。


「……霊のストック枠が増えたかな?」


 今までと違う感覚があったので、漂っていたデスワームの霊に触れてみたらストックできた。

 これで戦力増強だ。雑魚狩りがますます楽になる。


 デスワームが塞いでいた広場を抜け、洞窟を歩く。

 上へ向かっていた。

 やがて眩い光が見え、ボクは久しぶりに地上に出た。

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