第16話 レッツゴートゥーダンジョン
「おぉ…、これが
探索者登録を終え、俺は装いを新たにしていた。
といっても、全身鎧のように重厚だったり厳つい装飾がされていたりするわけではない。
登録の特典としてもらえる革製の胸当てや、肘や膝などを防護するもの、多少の厚めの手ぶくろ程度だ。
そもそも今日なりたてのシーカーがそんな大層なものを準備できるはずもないからな。
とはいえ、こうやって実際にその服装になってみるとテンションが上がるというものである。
「大変良く似合っておりますよっ!」
「あはは、それはどうも」
先ほど登録の受付をしてくれたお姉さんが、ニコニコしながらそう言った。
今日さっそくダンジョンに潜りたいと伝えると、装備を貰うと同時にギルド併設の更衣室で着替えさせてくれたのである。
さすが設備が整っているな。
「猫ちゃんも似合っていますよ」
「ゴロゴロ」
お姉さんは俺の隣にちょこんと座っているコテツを撫でる。
すると、コテツはゴロゴロと機嫌よさそうに喉を鳴らした。
かわいいっ…!
けどっ、いつもぶすーってしてるのに…なんか複雑っ…!
「…良かったなーコテツー」
「…」
萌えやら嫉妬やらの感情から棒読みでそう語り掛ける。
それに対してフフンと誇るような表情をしているコテツは、仄かに輝きを放つ衣に身を包んでいるのだった。
これは、ギルドが販売しているという動物用の装備である。
どういった原理かは全く分からないけど、着用する動物に合わせて伸縮自在に大きさが変わる代物だ。
一見薄っぺらいただの布のように見えるけれど、効果は折り紙付きのようで、そんじょそこらの攻撃では無傷どころか痒みすらなくなるらしい。
俺の能力の都合上コテツを連れ出さなければならず、先ほどお姉さんに忠告されたこともあってお買い上げしたのである。
値段は馬鹿にならなかったが、ギルドが公式で販売しているのだから効果は担保されているだろうし、何より命はプライスレスだからな。
そういうわけで、俺を差し置いてコテツの装備を万端にそろえたのである。
「こちらが、探索者証明証となります」
「あ、ありがとうございます」
ひとしきりコテツを愛でたところで、お姉さんは今回の目的だったモノを手渡してきた。
おずおずと俺はそれを受け取り、財布へとしまい込む。
昨日からこういう証明証が二つも増えてしまったものだから、失くさないよう気をつけないとな。
「それでは、良い探索者ライフを!」
建物を去る際、お姉さんは礼儀正しい佇まいをしながらも、快活な口調でそう俺を俺を見送った。
若干恥ずかしかったけど、俺も会釈を返して、その場を後にした。
ケージの中のコテツが若干寂しそうだったけどな…。
ふんっ。この浮気者!
***
さて、そんなこんながありながら俺たちは近所のダンジョンへとやってきた。
近所といっても、電車で二駅ほど乗ってくる必要があるんだけどな。
そのダンジョンの入り口というのは、最寄りの駅から少しばかり歩いていった先の台地の上に存在する。
桜の名所として有名な公園でもあるのだが、石段を登っていき頂上へとやってくると、そんな慣れ親しんだものの中に異質な存在が目に入ってくる。
「これが、ダンジョンの入り口か…」
空間と空間の一部分にズレが生じている。
これが、ダンジョンへの入り口だ。
周りはバリケードのようなもので封鎖されており、登っていけそうな気がしなくもないが、実際は見えない壁が展開されているようでそうは行かないらしい。
俺とコテツはそんなバリケードの壁を迂回していき、入場口へとやってくる。
『探索者証明証をご提示ください』
いかにも人工的な音声で、そう指示された。
今は何でも機械がやる時代だな…なんて思いながらも、俺は先ほどもらったばkりの証明証を赤いレーザーが照射されている部分へ提示する。
『番号───、確認しました。開錠いたします。入場口から離れてください』
ピピっと高い音が鳴るや否や、ガラガラと音を立てながら両開きのスライド扉が開いた。
おおっと思わず声をあげながらも、俺は開かれた門をくぐる。
その向こうには、開けた空間がある。
そしてど真ん中に、先ほどもバリケード越しから見えた裂けめのようなものがポツンと存在していた。
改めて見ると異質感が凄いが…まぁ、それも当然か。
「頑張ろうな、コテツ」
裂けめの前までやってきて、俺はコテツに語り掛ける。
先ほどまで相変わらずぶすーっという顔をしていたが、しかし今は心なしか表情が弾んでいるような気がする。
コテツもダンジョンに興味があるのかもしれないな。
あまりに嫌がっていないことに安堵しつつ、俺は目の前の空間の歪に体を通した。
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