第11話 いざ、お国公認【具現者】に!


 カニバリズム男三人衆薙ぎ倒し事件の翌日。


 あぁなんて素晴らしき休日の土曜日、

 俺はコテツが収まるケージを抱えながら、スキスキの電車内で揺られていた。


 対面の車窓の向こうに見える景色は、

 途中まで慣れ親しんだ住宅街という風だったのに、

 いつからか空にぐんぐんと背丈を伸ばすビル群一辺倒になっていた。


 別にウチが田舎というわけでもないんだけど…、

 ひさびさにこんな都会都会したところに来たなぁ。


 なんて考えながら、俺はケージの中にいるコテツに視線を向ける。


「ゴロゴロゴロ……」


 わが愛猫は、これでもかと喉を響かせながら

 ジトーっとした目つきで俺を見つめていた。


 もはや睨みを利かせていると言ってもいいかもしれない。


 おそらくは、狭いケージの中に長々と収容されていてキレ散らかしているのだろう。


(ごめんコテツ…、もうちょっとだけ我慢しててくれっ…)


 こしょこしょと小声でコテツを説得するが、

 ぷいっと顔を背けてコテツは丸まってしまった。


 …嫌われてないと良いけどなぁ。


 俺が心の中でそう嘆いている間も、

 電車は俺を乗せて目的地へと走っていく。



 ────なぜ、コテツを連れて電車なんかに乗っているのかって?


 答えは簡単。


 疑惑に浮かび上がった『俺、実は【具現者】説』の真偽を確かめるため、東京にある然るべき機関に訪れることになったからだ。


 ことになった、という言い方の通り、俺が決めたわけではない。


 昨日駆け付けた警察の事情徴収の時に、

 是非を確かめるよう言われてしまったのである。


 どうやらあの不良三人組、【具現者】の中でも結構強めの部類に属する能力をもっていたらしく、そいつらをなぎ倒してしまったということで少なくとも一般人ではないだろうという話になった。


 国に【具現者】であることを報告しないと、何やら罰則を科せられてしまうらしいので、やむなし俺は重い腰を上げて電車に乗っているというわけである。


 まぁ、コテツを連れてきたのはそのおまけとして、いろいろ寄ってみたいところがあるからなんだけどな。


 交通費は向こうが出してくれるようだから、

 そこは貧乏学生にとってはありがたい。


 しっかし…いやぁ、まさか俺がフィクショナーだなんてなぁ。


 考えるだけでちょっとニヤけてしまいそうだ。


 【具現者】ならほぼほぼ人生勝ち組みたいなもんだろう?

 棚からぼた餅レベル100みたいなことが起こったのだから、笑いなんて止まらない。


 今になっては実感も自覚すらも湧かないけれど、

 あんな厳つい奴らをステゴロでぶっ倒したんだ。

 きっとすごい能力に違いない。



 前に立つ人に気味悪がられないよう、上がる口角を必死に抑えることに努めながら、俺は目的地の到着を待った。



***



「ここが…えぇっとなんだっけ。えぇ~そう、

 超現実能力者管理局、か」


 聞きなじみのない単語を記憶から引っ張るのに苦戦しながらも、俺はビル…と言うほど高くはないが、白と黒を基調としたシックでモダンな建物を目の前にして、そう呟いた。


 超現実能力者、というのは【具現者】の言い換えである。

 とどのつまりは、フィクショナーを管理しますよォという機関だ。


 【具現者】は一般人を遥かに凌駕する能力を持つからな……国を挙げて管理しないと治安が一瞬にして崩壊してしまう。

 それを防ぐため、この機関を中心にして

 具現者の管理・運用を調整しているのである。


「……行くか、コテツ」


 返事なんかを期待しているのではない、

 ただなんとなく、厳かな雰囲気にビビってしまって心細かったのである。


「…」


 依然とめんどくさそうな顔でこちらを睨むコテツ。

 俺は苦笑しながらもほぐれた緊張で、建物の中に入った。



 管理局に入って、俺が一番最初に感じたのは

 “非現実”感だった。


 建物内部自体が近未来的な雰囲気を醸し出しており、なんとなく浮世離れした感覚にさせる。

 そして最もと言える部分が、目に入る人間全員が一目【具現者】であるとわかる、ということだ。


 受付、通りすがりの人、おそらく同僚同士で話し込んでいる人。


 その全員が、角が生えていたり、文字通りカエルの顔をしていたり、肌の色が真っ青だったりしている。

 到底一般人ではお目にかかれない特徴を持っていた。


 そんな空間に表れたTHE一般人な姿かたちの俺さん。


 完全なるアウェイな状況に、俺は息が詰まった。



「あのぉ、すいませぇん…」


 しかし突っ立っていても怪しいだけなので、俺は腰を低くし声を高くし肩を狭くし、低みから受付の人に声をかけた。


 ビビッドピンクの肌を持つお姉さんだ。


「はい、どうされましたか?」

「えっと、登録申請をした者なんですけどもぉ」

「では、申請番号などをご提示おねがいいたします」


 そう言って俺は諸々必要な書類や証明書なんかを取り出し、提示して見せる。


 窓口のお姉さんはテキパキとそれを確認した。

 何か速読の能力でもあるのかと思ったが、たぶんこれは長年の経験で身につけられた技なんだろうな、と勝手に心の中でひとりごちる。


「それでは、手続きの説明をさせていただきますね」


 にこっと、ピンク色の笑み(変な意味じゃない)を見せて、お姉さんは説明を始めた。


「まずは発現されたであろう能力について面談をさせていただきます。いつ頃発覚したか…や、どのような能力なのか…などですね」


 

 ふむふむ、能力面談。



「その後、実際に発動して能力のデモンストレーションを行っていただきます。その際に詳しい説明はあると思いますが、専用の設備や施設を用いますので遠慮なく能力を開放してください」


 なるほど、やはり実際に能力を使用するわけか。


 これで性質とか影響なんかを測るんだろう。



 …あれ、俺の能力ってどうやって発動させるんだろうな?

 ぐっと力を込めても、別に何かが漲るわけでもないし。

 あの時どうやって馬鹿力を発動させたのか、イマイチピンとこない。


「それでは、案内いたしますね」


 ふと疑問がよぎった俺などは露知らずに、お姉さんは立ち上がってついてきてくださいと言わんばかりに先導していった。


 どうしよ、なんだか不安になってきたな……。



 指示通り付いていき、やってきたのはとても建物の中とは思えぬような広い空間。

 まさに電脳空間のイメージのそれが広がっており、地平線の果ては見えない。


 どんな仕組みになってるんだろうかこれは。


「審査の者が後程参りますので、少々お待ちください」


 はぁ…と呆けたような返事をして、数分後。

 また扉が開かれた時、俺はもう一度はぁ、と声を漏らしてしまった。



 やってきたのは四人の人物。


 まるでポメラニアンみたい…というか二足歩行するポメラニアンが一人。


 上半身裸で、下半身もだいぶきわどい姿をしているマッチョマンが一人。


 服装は普通の社会人スーツだが、顔に無数の眼がついている女性が一人。


 そして、機械の体を持ち、およそ人物というべきかわからない者が一人。


 あまりにもステレオタイプの逆を行く、個性的な面々が現れた。 




 ……どうしよ、なんだか不安になってきたな?!



 

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