第10話 俺、能力者説
「すぐ駆け付けてくれるみたいだって」
「…ありがとうございます。助かりました」
諸々の状況説明と連絡を終えるころには、少女はようやく少しだけ落ち着きを取り戻していた。
目は潤み赤く腫れていて、声もまだ震えているがこればかりは仕方がない。
「えっと。少しは落ち着いたかな」
「…はい。お見苦しいところを見せてしまい…」
「いやいや。こんなことになったら誰でもそうなるさ」
彼女は肩を小さくしながら申し訳なさそうにした。
被害者なのだから、そんなに恐縮しなくてもいいのに。
まぁ堂々としていられる心境でもないだろうが。
「……あの、本当にありがとうございました。貴方がいなければ今頃どうなっていたことか」
「いや、本当にたまたまみたいなもので───」
「いえ貴方がいなければ私は……っ!」
半ば説得するくらいの熱量で彼女は言う。
それに対して俺は大袈裟な…と宥めて見せる。
俺としてはそんな大層なモノには値していないと思うので、素直に言葉を受け取ることはできなかった。
そして彼女もそうで、自分が本当に助けられたのだと譲らない。
うん、以下無限ループになりそうだ。
それを察して俺は別の話を切り出す。
「───そういえば、名前…って聞いてもいいかな?」
一応名前を聞いておく。
こんなに派手な関わり合いになったのなら、それくらいは明かしておいてもいいと思うので。
「あぁ、そうですね。…えっと、
恭しく彼女はそう名乗った。
純黒の髪と瞳という容姿も相まって、なんとも清楚な雰囲気が漂っている。
「虚寺さん、か。俺は魔渡ナツキ。よろしく…というのも変だけど、まぁなんというか以後お見知りおきを」
「はいっ、絶対忘れませんっ!」
俺も倣って名乗って見せると、虚寺さんはそう決心するような口調になった。
命の恩人の名前を胸に刻みます…的な?
もしそうならいやはや大袈裟だなぁ…と俺は苦笑することしかできない。
「…虚寺さんは…その、どうしてこんなことに?こんな時間に制服着てるしさ」
頃合いを見計らって、ここまでの経緯を尋ねてみる。
先ほど電話する際に見たスマホの時刻では、もうすぐ10時半を回ろうとしていた。制服で出歩くには少しばかり遅くはなかろうか。
ということで聞いてみると、彼女は探る様に視線を伏せって、幾許かの空白を後に口を開いた。
「えっとですね…、実は私、中学三年で受験期でして…塾に通っているんです」
なんと。
つまりは俺の1個下ではないか。
「今日はその塾の先生にたくさん質問していたら…こんな時間になってしまって。早く帰ろうと思ったのですが、いかんせん…徒歩ですから。あの人たちに絡まれてしまって逃げることもできず…」
恐怖を思い出したかのように彼女は眉を垂らした。
「あの人たち、【
「そういうわけですから怖くて声も出なくて…気づけば危うく死んでしまいそうに」
「…それは災難なことだったね、本当に」
なんて言葉をかけるべきか迷って、結局そんな薄っぺらいことしか言うことができない。
こういう時に何か気の利いた言葉でも言えたらもっと良かったのだが…残念なことに俺にそんなセンスはなかった。
「今回のことでまたトラウマが強くなりそうだったんですが…でも、魔渡さんのような方もいるんだなって…少しだけ安心できました」
「…俺のような?」
「はいっ。だって、魔渡さんのように…ヒーローのような【具現者】もいらっしゃるんだなってわかったのでっ!」
俺が……【具現者】?
いやいや、俺はただの一般人で……と訂正しようとしたところで言葉に詰まる。
今すぐそこで無様にも寝転がっている男たち。
筋骨隆々でありながら【具現者】ということもあって、並外れた身体能力があったことだろう。
しかし現在このような状態になっているのは、すべて俺が殴り倒したから……。
その事実を再確認すると、…いや、確かにそうじゃん。
俺、もしかして【
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