第3話 バイオレンス系猫耳幼馴染




 美巴さくら、それがコイツの名前。


 昔から家が隣で親同士の仲も良く、何かと一緒に行動することが多くあった。

 だが中学に上がると同時、彼女が【具現者フィクショナー】であることが発覚すると性格が一変。俺にキツく当たるようになった。


 やっぱり力というのは人を変えてしまうのだろうか…。

 さくらから“さっちゃん”、ナツキから“なっちゃん”なんて呼び合っていた時期もあったが、今やもう、遠い昔のことである。


 避けようとも思ったし実際そうしたのだが、何故か向こうから絡んでくるし、不運なことにも高校も被ってしまったので、こうしてまさに腐った縁が続いている。


 …俺としては、いつでも絶ったって構わない縁だ。


 

「そりゃいるでしょ、同じクラスなんだから。というか、それなのに堂々と人の悪口を言えるなんて良い度胸じゃない?」

「事実を言って何が悪いんだよ」

「はぁ?事実じゃないし、そもそも失礼だと思わないわけ?」


 頭の上に取って付けたようなケモ耳と、スカートの中から伸びる尻尾を逆立てて。

 シャーシャーと牙を見せながら美巴は威嚇する。


 彼女は、のフィクショナーである。

 その通り猫の特徴を持つ者なのだが、山口と違ってそこまで顕著に姿に表れているわけではない。

 本当に猫がでっかくなって二足歩行しだしたみたいな【具現者】もいるので、美巴は軽度な反映と言える。


 だが気性についてはまんま猫だ。


 これがマンチカンみたいなちっこい種類だったら良かったんだけど、彼女はよりにもよってデカくて獰猛なサーバルキャット。


 結果、体躯は俺と同じくらいか下手したらそれ以上の、凶暴なバイオレンス女が誕生してしまった。

 うっかりしたら八つ裂きにされるのではないかと思う。


『─────』


 あーだこーだ言い合っていると、次の授業の予鈴が鳴る。

 次は移動教室だから、こんなことをしている暇はあまりない。


 見世物を見物するようなギャラリーと化していたクラスメートも、それを機にさーっと掃けていった。


「ふん。ナツキに構う時間がもったいないわ」

「あぁこっちの台詞だよ、まったく」


 捨て台詞を吐いて、美巴は去っていく。

 俺も売り言葉に買い言葉…ではないけど、吐き捨てる様にいって論争は終わった。


「おー、間近で夫婦喧嘩みるのは初めてだったわ」

「なに言ってんだよっ、ほら。俺らも行くぞ」


 パチパチと拍手をして観客気取りの山口の頭を叩き、俺も席を立ちあがる。


 視線を扉の方に向けると、鬼の形相ならぬ獲物を狩る獣の形相の美巴はいない。

 友人と談笑して笑みを浮かべる、普通の女子高生の姿があった。


 …ホントに、俺に対してだけなんだよな。

 何が目の敵なんだか。


 ため息交じりにそう思いながら、俺は教室を出た。



***


 

「くっそぉ…。まだ痛ぇ…」


 顔面に依然と居座る痛みに悶えながら、俺は帰路に着く。

 幸い傷跡は残らなそうだけど…、


「美巴のやつ、派手にやってくれたなぁ」


 ヒリヒリとする頬の痛みを噛みしめて、そんなことを呟く。


 もし俺が【具現者】なら一泡吹かせてやれるのに…。



 なろうと思ってなれないのだから、この世界は不平等だ。

 

 【具現者フィクショナー】であるか否かは、運でしかない。

 人口の20パーセント程度しかその存在はいないのだ。

 どのような条件でフィクショナーになるかは明白になっていないようだけど、今のところ有力な説は…“完全なランダム”である。


 運に愛されたものが笑うのがこの世界だ。


 聞く話によれば、能力には寄るけど【具現者】というだけで大手企業に合格する人もいるらしい。

 社会におけるトップだって、そのほとんどが【具現者】だ。


 持たざる者は、とことん持たない社会構造。

 あぁなんて悲しき…って感じだが、まぁ、それに抗議するほどの胆力もやる気もない。

 

 それに今は、愛猫との生活が続けばそれでいいと思ってしまうから。



「ただいまぁ」


 マンションの扉を開ける。

 一人暮らしの男の部屋だ、挨拶を返す者は誰もいない。


 …が、待っているものはいる。


「きゃぁ~!コテツ!!いい子にしてたかぁ!!?」


 我が一匹の同居猫に熱烈なアピールをかます。

 しかし当の本猫は『はぁ?』とでもいいたげな表情で、シュビビンとキャットタワーに登り、こちらを見下ろす。

 

「ニャぁ」


 眠たげにあくびをしながら、ゴロゴロとひと鳴き。


 うわぁそれ、『おかえり』ってことか?

 『おかえり』ってことなのかぁ!?


「ただいまぁコテツ!」


 勝手にそう解釈して勝手に喜んでしまうのは、もう飼い主のさがなんじゃないか。


 相も変わらずぶすっとした顔のコテツを見て、俺は口角を緩ませた。



 

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