UNO!8
僕の手札は赤5と黄8だ。
和也は『白いワイルド』から『緑』を宣言した。
その後、上代さんは引いた一枚、緑5を場に出して「UNO!」を宣言した。如月さんも続けて青5を出して「UNO!」を宣言した。
僕は赤5を出して、初めて「UNO!」を宣言した。
だが次に、和也はまた奇妙な行動をとった。
手札から、一枚しかない『シャッフルワイルド』を切ったのだ。
これで全員の手札が集められてシャッフルされた。その後和也は上代さんから順に如月さん、僕、と手札を配った。
僕の手札は、緑9、黄8、赤7、ワイルドだ。
和也は『緑』を選んだ。その後、上代さんが緑8、如月さんが緑5、僕が緑9を出した。次は和也のターンだ。だがここで和也は山札を引かずにスキップした。
気にせず上代さんは黄9、如月さんは黄6、僕は黄8を捨てる。次のターンでようやく和也は黄4を出した。
だがそこまでで、その後カードを出せるプレイヤーは一人もいなかった。
試合は終了し、全員はお互いの手札を見せあった。その中に手札がゼロ枚のプレイヤーは一人もいなかった。
「えっと……この場合は、どうなるんでしょうか……?」
文化委員長が舞台袖に控えた文化委員に視線で助けを求めている。
場内の空気も微妙なものになっていた。
「……まさか」
上代さんがつぶやいた。
上代さんのつぶやきに呼応するように、和也はいった。
「そう。今、この瞬間をもって、勝負は決したんだよ」
僕はわけがわからなかった。
「お、おい、どういうことだよ、大石。誰が勝ったんだよ。上代さんか?」
和也は頭をふった。
「いや、今から教えるよ。ことの
和也は場にあったカードから白いワイルドを取り上げていった。
「俺は最初に、このカードで『緑』を宣言した。同時にあるルールも提示したんだ。それがなんだったか、如月さん、覚えてる?」
如月はうなずいた。
「え、えぇ。確か、『今後出せるカードは数字とシャッフルワイルドのみで、出せるカードのないプレイヤーはパスを宣言すること。もし、一巡して全員がパスをしたら、そこでゲームを終了し、手札の最も少ないプレイヤーを勝者とする』でしょ?」
その通り、と和也は軽くうなずいた。続けて、和也はいった。
「すべてのプレイヤーがそのルールに同意した。その後、上代さん、如月さん、そして村井は一枚ずつカードを場に出した。その後で俺がシャッフルワイルドを切ったんだ。このとき、俺以外の人はみんな、UNO! を宣言していた。つまり残りのカードは一枚だったんだ。それぞれ自分がなんのカードをもっていたか、覚えてる?」
「僕は、黄8だ」
「私は赤1」上代さんがいった。
「私……確か、青の3」如月さんは記憶がおぼろげな様子でいった。
「そして配られた後の最初の手札を見ると……」
和也は場に出たカードを集めてそれぞれの手札を読み上げた。
「俺が、黄4、ワイルド、青3。上代さんが、緑8、黄9、赤1・スキップ。如月さんが、緑5、赤リバース、黄6・スキップ。そして村井が、緑9、黄8、赤7、ワイルド。ここから、さっき出された手札を引くと」
如月が目を見開いていった。
「……全員、二枚になる」
和也はうなずいた。
「つまり、この勝負、全員、同率一位で優勝だ」
場内は静まりかえっていた。だが、一瞬にして、歓喜の声があがった。
「ねぇ、でも待って」
上代さんが一喝するようにいった。
場内の歓声が静まった。
「そんなの、あまりに大きな賭けでしょう? あなたは白いワイルドとシャッフルワイルドに加えて、ワイルドカードも二枚持っていたことになるのよ? それだったら、自分だけが勝つ方法だっていくらでも考えられたはずでしょ?」
和也は苦笑していった。
「俺は……昔から好きなものは最後まで取っておくタイプだから」
はあ? と上代さんは和也を見た。和也はいった。
「それに、あえて難しいほうを選んだんだよ。あまりに不確かなやりかただったし、『全員優勝』なんて、そんな甘い話、本当にあり得るのか? って最初は思ったんだ。……だけど、俺を大事に思ってくれているやつらの気持ちも大事にしたいし、上代さんの想いも見捨てたくなかった。だから俺は、全員が勝てる方法に
和也の顔から安堵の笑みがこぼれた。それは、どこか遠い昔に見たことのあるような笑顔だと僕は思った。
だが、上代さんはまだ不満そうだった。
「緑は……」上代さんがいった。
「どうして『白いワイルド』で『緑』を選んだわけ? 私が残り一枚で『緑』を持っている可能性だってあったでしょ?」
「いいや、その可能性はなかったよ。答えはもう出てる。だから俺は緑を選んだ」
なぜ? という上代さんに和也はいった。
「上代さんが『白いワイルド』を引いてそのまま場に出す直前、俺は『黄7』を出した。それでも上代さんは、あがれなかった。ということは、持っているのは『黄』以外だとわかる。その後、上代さんは『赤』を宣言した。つまり上代さんが持っているカードは、ほぼ間違いなく『赤』ということになる。でも上代さんが裏をかいて嘘をついている可能性も考えられた」
「だったら、普通『黄』を選ぶわよ。それが一番安全だったはずでしょう? だって、私が本当のことをいって『赤』を持っていたかどうかなんてわからないんだから」
「それでも、上代さんが『赤』を宣言したとき、僕は確実に上代さんが『赤』を持っている、と思えたんだ」
「なぜ、そういいきれるの?」
不満げな上代さんに和也はいった。
「だから、俺はいったでしょ。答えはもう出てるって」
「どういう意味だよ、大石」僕の問いかけに和也はいった。
「俺が全員分の『ドロー4』を喰らって十六枚ドローをしてから、『青リバース』を出したとき、上代さんは引いたカード『青8』をそのまま場に出した。上代さんは『青』も持っていないことになる。そして俺が『ドロー4』を出して「UNO!」を宣言する直前、上代さんは一枚引いてそのままターンを終えていた」
如月さんが思い出したようにいった。
「私が大石さんと村井さんの『ドロー2』で四枚引いた後に、次の自分のターンで『緑3』を出した後の上代さんのターンのこと?」
如月さんの問いかけに和也はうなずいた。
「そう。だから上代さんが持っているのは『緑』でもない。そのときに上代さんが引いたのが『ドロー4』で、俺はその後、十六枚ドローを喰らうはめになるんだけどね。まさか、あそこで『ドロー4』をすぐ出さずに持っていたとは……。恐れ
和也がそういい終わってから僕はいった。
「上代さんが大事に持っていたのは『黄』でも『青』でも『緑』でもない、つまり『赤』だったってわけか」
上代さんはいった。
「私が一番優勝に近いと思っていたけれど、同じ手札を持ったまま何度も「UNO!」を宣言していたことが、まさか裏目に出るとはね……。『緑』を選んだのは、他の色よりも出された記号カードの数が少なかったから、それを考えてってことね?」
和也はうなずいていった。
「スキップやリバースで色を変えられてしまう可能性が低いと思ったんだ」
上代さんは、「それにしても……」と続けていった。
「こんなにまだ数字カードが残っていたのに、危険な賭けに出るなんて……」
上代さんの様子を見て、和也はいった。
「数字カードは確かにまだ十枚ほどあったけれど、実際に捨てられるのは九枚だけだった」
九枚? と上代さんは和也を見た。和也はいった。
「最後に俺が持っていた、青3。これ実は絶対に捨てられないんだ。これも、答えはもう出てる」
和也は場のカードを指さしていった。
「UNOの特性さ。場にはすでに青のカードと三のカードが出尽くしていた。UNOは数字と色が同じカードは二枚ずつしか入っていないことからわかるんだ。ただ、それでも確実ではなかった……」
それから、和也は僕らを見ていった。
「だから最後は信じることにした。自分と、そして、みんなを」
和也の瞳は曇りがなく澄んでいた。和也はいった。
「だから、これは正真正銘、みんなで勝ち取った勝利だ」
「あのー、そろそろよろしいでしょうか?」
文化委員長が僕らの間に割って入った。文化委員長はいった。
「よって、改めまして。この勝負、全員優勝です!」
客席が一気に盛り上がった。
スポットライトの光が七色に点滅する。
瞬間、カーテンが開き、夏のまぶしい日ざしが差しこんだ。
僕は和也とハイタッチした。
如月さんは恥ずかしそうに上代さんを見ていた。上代さんは、納得したとも観念したとも取れない、微妙な表情をしていた。
場内から指笛が聞こえ、スポットライトがきれいな七色を演出した。
「それでは、表彰式と優勝賞品の授与に移りたいのですが……」
舞台袖で文化委員がなにやら話しあっている。
少し間をおいてから文化委員長がいった。
「えー、残念ながら、賞品の〈うまし棒三十本詰め合わせ〉が一つしか用意がないようでして……どうしましょうか? 三十は四で割り切れませんし……」
如月が、あ、と思いついたようにいった。
「何本か、袋から出して割るのは? そうすれば均等にいきわたるよ!」
「いや、さすがにそれはちょっと。衛生的にも……夏ですから」
困り果てる文化委員長に、すかさず上代がいった。
「エックス プラス
和也は人さし指と親指で丸を作りながらいった。
「いいよ。ただし、てりやき味とから揚げ味は含める、っていう条件つきで」
こうして、僕らのUNO大会は幕を閉じた。
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